第14話 前友 使っても使ってもお金が減らない魔法の袋を知ってるかい ?


 ボルトと美女10人の夢のパーティーは1日で崩壊してしまった。


そもそもパーティーの柱であるリョーマが抜けたその翌日に2人が加入し、更に翌日に5人が加入するなんて有り得ないんじゃないだろうか ?


パーティーメンバーは命を預ける仲間なんだから、新メンバーを入れる時には かなり慎重に行うものだよね。


 ところが、ボルトのやり方は適当すぎてひどかった。

 

 悪意のある者が来なかっただけでも運が良かったのかも知れない。


そんなことで翌日ギルドに集まったのはボルト、エメリア、カエラ、ルイ、ポトス、ブルックリンだけだったのだ。


 残りの女の子は全員がドタキャンだった。なんの連絡も無かった。


 彼女たちからすれば、昼も夜も化け物のような体力のボルトに大車輪のごとく付き合わされて、1時間や2時間の睡眠では、行きたくても来られなかった。


 中には、教会送りに(こちらの世界で言う病院送り)なった娘もいたほどで、みんな憔悴してしまった。


そしてボルトたちは再び慣れない討伐依頼の選択からスタートするけれど、何が良くて何が悪いのかも分からない、正直に言ってヌルい彼らが事態を好転させるのは難しいだろう。


実はこの古参のメンバーにポトスとブルックリンを加えた6人の中では、賢者ブルックリンが唯一の知性を携えた者だったのだけど、それを見いだす能力は他のメンバーが持ち合わせていなかったし、ブルックリンも控え目な性格が災いして、口を挟むようなこともできなかったのだ。



さて、嵐のような美女軍団はあっさり消え去って、やがて台頭してきたのはボルトと夜の相性が最高の聖女ポトスだった。


「ボルト ! あなたってホントに強くてたくましい良い男よね。ステキよ❤」


ボルトは左手でポトスの桜の花びらで染めたような美しい右手を取り、プレゼントの指輪を薬指に通しながらささやいた。


「ポトス ! 君こそこの世の者とは思えない傾国の美しさ。愛してるよ !」


二人の相性は抜群だったんだ。


下世話ながら指輪は2百万G(日本円で約2百万円)相当の非常に高額なモノだ。


しかし、こうなると周りの者が面白くないのは世の常である。


その中でも、エメリアとカエラは特別だったね。


スーパータフなボルトでも"会う"回数は どうしても激減したんだ。

ポトスに持っていかれたのさ。


まぁ、そうなるのも当然だよね ?


 あの二人の加熱ぶりといったら湯沸かしで例えるとすれば、グラグラなんて通り越して、ピーピーピーピーと鳴りやまないヤカン並みだからね !


そうなるとポトスと彼女達もかなりギスギスしてきたんだ。


ただでさえ上手くいってないパーティーなのに、不協和音までもがどんどんと高まっていく。


この日もポトスはボルトからプレゼントされた紫色の大きな石が乗った指輪を、にまあ~と笑って眺めていた。


この娘、実は格別に美しいというだけで何の取り柄もなかった。精々回復魔法が使える程度だ。


 教会ではやはり可愛い、美しいともてはやされ聖女にまで掲げられた。


中身は酒好き男好きで、ちょっとおバカなダメ人間なのだが、人柄はさほど悪く無い。


ところが、本人に悪気は無くてもだ。昨日までナニも付けて無かったところにドでかい石の付いた指輪を晒して、ニタニタと笑って眺めていればねえ、いきさつなんてすぐに分かっちゃうだろうに…


エメリアとカエラの心は煮えたぎっていた。

割と単純で美しいだけが取り柄のお嬢様は、チクチクと嫌がらせを受け、ハブられ、置いてけぼりにされたりしていた。


まだその中でもブルックリンは前向きで、自分もポトスのようにかまって欲しいと思っていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



ところで私ルイはね、居なくなっちゃったリョーマからいろんな事を学んでけっこう慕っていたんだ。


 意外と彼を頼っていたんだと消え去ってから気付かされたわ。


人の好意やありがた味とかって、得てして失ってから気が付くものなんだよね。あ~あ !


私の場合は幾らかの好意と戦いとか簡単な作業とか、他にも人間関係なんかでも、何かと彼に依存していた事に気が付いたのよね。


前のパーティーとは全く別物になってしまって、リョーマが去ってからは、ちょっとしたことで上手くいかなかったり、空回りしたりで……  全っ然楽しいことなんてなかったんだ。


こんな最悪のパーティーをまとめていたリョーマは天才なんじゃないかと思う程よ……


ボルトはポトスとあんなに仲良しなのに、私にまでちょっかいをかけてくるんだよ。最低だよね !?


エメリアともカエラとも陰でね、あんなことやこんなことをしている場面に出くわしたことが度々あったのに……  ポッ、、、恥ずかしい !!


 ホント信じられないよ~ ! あのエロ大魔王めっ !!



どんなにかっこ良くても鼻の下を伸ばして、にたぁと笑う。あの顔が[[ 気持ち悪いのよっっ !!! ]]



それとね、下心フルパワーで私たちのご機嫌をとろうとする、あのねこなで声に[[ 鳥肌が立つのよ~~~ !!!!]]



はあっ、はあっ、はあっ…… もうイヤッ ! ギリギリまで我慢していたけどね、声を大にして言いたかったのよ。


 ワタシのキュートな心は限界だったんだよ !!


リョーマに相談したのはこの事だったのよね。


彼はボルトのフォローをしつつも、我慢するのが辛いなら、いっそ建前抜きで本音で付き合った方が良いのではないか、っぽいことを言ったんだけど……


 実際こうなってしまうと、そうするか…… パーティーを抜けるかしかもう手段がないのかも知れないわ。


ボルトが下ネタや理不尽な事を言ってきても、できるだけ荒立てないように、穏便に穏便に対応してきたけど、これからはそんな大人の対応は止めにして、ド直球でワタシの本心をお返しするようにしてみようかな ?


 そうしなければ心が耐えられないわ !!


そうだ、そういえばリョーマは大丈夫だろうか ?


 きっと傷付いているだろうな。


 町を探してもまったく見掛けないし、知り合いに聞いても噂も耳に入らなかった。


 とても心配だ……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ボルトにとっては昼よりも夜の戦いが重要で、依頼や討伐に出掛けるのは当然のように昼過ぎだった。この日は休んでしまった。


討伐は成功したり失敗したりを繰り返す感じだったんだ。


 簡単な依頼は成功するけど報酬が少ない。


 高額の依頼は成功しない。



「クッソー !! 報酬がおいしいヤツはどうしてもどこかで上手くいかねえ ! どうしろってんだ ! 今までは何もかもが上手くいっていたのに…… リョーマなんて間に合わねーから雑用ばっかやらせてたっつーのに…… まさか俺様よりアイツの方が賢いっつーのかよ !」


その通りである。


 しかしボルトだってそれなりに賢いのだ。


 ただ彼は強すぎてエリートすぎるがゆえに、弱者や か弱い女性の対処が最悪なのだ。


 どうしたって天才には凡人の気持ちは分からない。できない人の気持ちも分からないし、導くこともできない。凡人にはボルトの気持ちも手法も分からないし、真似ることもできない。


 討伐依頼の選別も、今までリョーマに任せきりにしていた為にちんぷんかんぷんだけど、彼らだって場数をこなせばそれなりに上手くやれるはずだ。


問題点はそればかりではなかった。


 寝るのが遅れて朝も遅い、すると遠くにも行かなくなった。


 近場に高額依頼など無いのだ。そういった点からも収入は減少したんだ。


これまでそういうところを厳しく戒めていた、小うるさい男リョーマはもういないのだから、ボルトとしては羽を伸ばして最高だっただろうね。


ところがその反面でパーティーの収支は思いの外、悪化していたのだった。


余談だが、ボルトのお金の管理はお金用の魔法の袋にポイポイと入れて、そこから適当に使うというものだった。

 たくさん増えたと解っても、いくら貯まったかなんて知りもしなかった。


 これまでは超順調で減ることなんて無くて、どんどん貯まっていく一方だったから、それで良かったんだけれどね。


だからお金の計算なんてしたことがないボルトには、現状、どれくらい悪いのかさえも全く気付いて無かったんだ。


 その兆しはそれとなく、しかし突然やって来ることになる。さてさて……



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



……いつもの店で宴会を始めると、店主が申し訳無さそうにボルトに近付き耳打ちした。


「ボルト様…… えー、少々ですね。あの、貯まった支払を……」


「何だ ? いつも誰かが払ってるんじゃないのか ?」


と、ボルトは言うがそんな訳が無いだろう ! リョーマ以外のいったい誰が金を支払うというのだろうか ?


ボルトの顔色を見ながらいちいち料金をボルトの魔法の袋から出してもらっていたリョーマの苦労がうかがい知れる。


「いいえ、ここ1ヶ月ほどはどなたも……」


リョーマを追放してからだった。


「いくらだ ?」


「はい、383万Gほどになりまして…… (日本円で約383万円相当)  いえいえ、金額も金額ですので今すぐにとは申しませんが… ?」


「ハハハ、心配するな店主。このSランクパーティー、ラビアンローズのボルト様がそのくらいの金など、パッと払ってやるよ」


ボルトはお金用の魔法の袋から金貨39枚を出して店主に渡した。


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