第15話 エルフリーデとの戦い


僕らはこれまでに、ゴブリン狩りに来た数々の冒険者を退けてきたけれど、いよいよ高ランクのパーティーがやって来たのだ。


ショーキのギルドでは、ゴブリンの上位種調査依頼から討伐依頼(Dランク推奨)に変更されていた。


更にその後、Dランクパーティーによる何度かの失敗があって、推奨ランクがCランクに引き上げられたのであった。


しかも、これ以上の失敗を重ねたくないギルドは、高い信頼を誇るBランクパーティー、エルフリーデに指名依頼をかけたのである。


そのリーダーの戦士コットンはギルドの受付まで押し掛けて、言葉を荒げていたんだ。


「何でうちらがゴブリン狩りなんてせな、あかんねん !!」


などという罵声を浴びせ、急な指名依頼にいら立っていた。

 対応に困り果てた受付嬢は


「では、報酬を2倍に…… 」

まで、言ったところで、


「そこまで言われりゃ、しゃーないナー、2倍でな !!」

と、あっさり承諾したのだった。どうやら、かなり裏表のない、サックリとした性格のようである。

 

エルフリーデはリーダーの戦士コットン、魔法戦士セーラ、レンジャーマーガレット、魔導師メイの女性4人のパーティーだった。


すでに森に入り、ゴブリンの集団を視界に捉えていた。


遭遇そうぐうしたのはハイゴブ人の銀さん、ハイド、メイジゴブ人のメイヤ、犬耳族シンジ、下っ端ゴブ人5人、ダークウルフ3頭だ、


コットン達はゴブリンの一団を観察していた。

上位種3体とダークウルフ3頭か ? 簡単な相手じゃないけど、まぁ何とかなるだろう。


しかし、上位種が3体でまとまっているとは、直感では、ゴブリン全体で間違いなく50以上はいると感じた。下手をすれば100を超えるだろう。


どうりでCランクやDランクのパーティーが失敗する訳だと納得がいった。


パーティー内で情報を共有したら、攻撃開始だ。

メイが中距離から大きな火魔法を放って牽制し、コットンとマーガレットが距離を詰める作戦だ。


 事前に詠唱を重ねてから、良いタイミングでメイは大きな火魔法を放った。

しかし、その先制攻撃の火魔法は直撃コースから横に逸れてしまったのだ。


 これは完全にイージーミスだった。先制攻撃が決まるか決まらないかで大きく戦局が変わってしまう。

 決して楽勝ではない戦いを予想していたから、そのミスにリーダーのコットンは心をザワつかせた。


「何やってんだ、メイ !!」


「違う、奴らに横から風魔法を放たれて、軌道を変えられたんだ !! 気を付けて、アイツらけっこうやるよ !!」


 予想外の応えに返す言葉がない。


「くそっ !!」


そもそも、すでにスタートを切っていたセカンド攻撃の二人は止まれない。仕方なく、そのままハイゴブリンに斬りかかった。


すると、銀さんとハイドが突っ込んで来た二人の剣を受け止めたが、銀さんはぐぐっと少し押された。コットンは、これなら行けるぞ ! という手応えを感じていた。しかし、


「ちょっと待ってくれ、君たちを襲うつもりはないんだよ !!」


ハイゴブリンが人の言葉を話したのだ。コットンは驚いた。

一瞬混乱して、どうしたら良いのか分からなくなった。発した言葉の内容よりも、えっ ? ゴブリンが喋ったで ! という、驚きが先に来た。


それから、どうにか考えを巡らし、良く見ると、こいつはハイゴブリンどころじゃないな ? もっと上か ? 名前持ちなのか ? というところに、たどり着いた。


「ゴブリンなんか、信じられんわー !!」


「そうだ、俺たちも襲わないよ !!」


 なんと、続けざまに別のゴブリンも言葉を発した。

 コットンとマーガレットは、更に動転した。


「そうだ、俺もだ ! 俺もだ ! 俺もだ ! 俺もだ ! 俺もだ !」


なんとあろうことか、普通の高位種が混ざったゴブリンの集団だと思っていたら、全員が人間の言葉を話したのだ。


「ちょっと待てー !!! ひょっとしてお前らも、只のゴブリンじゃないんか ? ほんなら、全員が名前持ちゆーんか ?」


それにはハイドが上機嫌で答えたんだ。


「俺たちは202人。全員進化した名前持ちだぜ ! かっこいいだろ ?!」


……ハイドはコレットが気付いてくれたことに少々舞い上がっていて、自意識過剰だったのだ。

「へぇー202人もいるのかー、ってアホかーーー !!!!!」


「俺はウルタだぜ ! !」


「私はウルミよ !! 」


「俺がリーダーのウルボスだ ! 俺たちは、40……んー、40頭くらいで全員名前持ちだぜ ! 良いだろー !!!」


……ウルボス達は、完全にオノボリさんだ。ちなみに、ウルボスは11より多い数は自信がないんだ。


コットンは突っ込むのも嫌になった。

ウルフが人の言葉を話し出した時点で、「アウトーーーー !!! 」と、大声で言いたくなったのを、ぐっとこらえるのがやっとだった。


しかも、コイツらの言うことが真実なのだとすれば大物が居るいないは別にしても、最低でもネームドモンスターが200体以上居るということなのだ。……あり得ない !!


目の前のコイツら全員を倒したとしても、その後に災害級のモンスター討伐を覚悟しなければならないというのか ??


よく考えたら、そんなことあるはずないやろ ?


何か騙されてんのや。


あれは腹話術か何かや。


落ち着いて考えたら飲み込めたかも知れない話だけど、あまりにも現実から逸脱した出来事の連続で混乱を通り越して錯乱状態だった。

コットンは信じたらあかんと、自分自身に暗示をかけるように強く念じたのだ。


しかし、今ここにいる奴らは、本当に全員が名前持ちなのだろうか ?


もしそうだとしたら、最初は9対1で大丈夫だと思っていたが、3対7以上に危険度が跳ね上がるのだ。


コットンとマーガレットがごちゃごちゃしていると、メイは不意をついて火魔法を放った。すると、今度は油断していたウルタに直撃した。


「ギャウーーン !!!」


それに乗じて、セーラもウルボス達の方に火魔法を放った。

しかし、それはウルフの風魔法で弾き返された。


……どうも、後ろの二人は距離があったので、話は聞こえなかったようだ。コットンのように動揺せずに素早く攻撃できたのだろう。


「ウルター ! 大丈夫か !?」


 「バゥ…」


銀さんの問いかけに、ウルタは力無く返事をした。しかし、けがは思ったより深いようだ。


「ワオーーーーーン !!!」


そこでウルボスは、仲間をやられた怒りに吠えた。


その遠吠えを聞いて、1頭、2頭と近くで遊んでいたダークウルフから、次第に集まって来たんだ。


コタローも緊急事態の呼び声を聞いて、どした ? と言ってすぐ、駆けつけたんだ。


魔狼の姿を見てコットン達は驚いた。

次々と寄ってくる、ウルフの数がとんでもなく多いのにも驚いた。


それと、さっきウルボスはこいつらのリーダーだと言っていだけど、明らかに魔狼に格下扱いされてる。


こいつが真のボスか ?

こいつはヤバイぞ。別格だぞ。変な汗が止まらないよ……


コタローも来て、ウルフ達とワウワウ言って相談している。内容はこうだ。


「あいつら攻撃した」>「でも、人間攻撃したらダメじゃね ?」>「ウルタやられた」 >「やられたらやってよくね ?」>「よくね ?」>「誰やった ?」>「あいつやった」>「あいつやってよくね ?」>「よくね ?」

話はまとまったようだ。


まず、コタローは二本足で立って、ウルタに回復魔法を掛けている。


するとウルタはすぐに復活した。


「えーーー ?? 二本足~~ ?!怖っ !! 回復、はやっ !!」


そんなことを言っていると、ウルタを火魔法で攻撃したメイはあっという間にウルフ達に囲まれていた。

ウルフのスピードはとんでもなく速くて、逃げる隙など全くなかったんだ。


じり貧のメイはそれでも、必死に反撃した。


「クソー ! こんな近くなら避けられないでしょ。行けーーーーー ファイヤーアロー !!!!」


シュボッッ !!

必死に放った火魔法も、あっという間にダークウルフの風魔法でかき消されてしまい、まったく通じなかった。



「死なすなよ ! リョーマに怒られるぞー !!!」


ウルフの風魔法で体力もどんどん削られる。


 「ううっ… 」


最後まで抵抗したが、魔力も切れ、メイは簡単に倒された。


                  

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



一方その頃、エスポワールドと名付けられた里には、初めてできた工場で、セッケンの製造が始まっていたんだ。


ケータが発明したセッケンは身体を洗う時に使う固形の洗浄剤で、この里のコンビニという名の商店で買えるが、大人気で入手困難なのだ。


価格は1個1000G(日本円で約1000円)という高級品だ。

ゴブ人全体で202人のうちの生産は30人が担っているんだ。給料は月15万Gで、なかなか良い収入なんだよ。

製造は順調でコンビニにたくさん置かれるようになり、大ヒットになったんだね。


ゴブ人達もやりがいを感じて頑張って働いたんだ。


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