第4話 何を争っているんだい ?


少し横になると朝はすぐにやって来た。


昨日の出来事は精神的な疲労となり、朝の気だるさを倍増させた。


それでも時は刻まれる。


 お腹も減る。


 あゝそういえば、昨日から何も食べていないな。


だけどアイテムは全て取り上げられて、お金もわずかしかない。食べものは何も持っていないんだ。


「お腹空いたなぁ。困ったぞ ! どうしよっか ?」


「アイテムどころか、パンひと切れも持ってこれなかったんだよね」


「リョーマ可愛そう !!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 



 頑張って作った干し肉も、苦労して集めた数々の調味料も、最高級の蜂蜜はちみつにお酒も、全部僕が集めた物だったのになぁ。


 彼らが持っていても宝の持ち腐れだろうけど……

考えると暗くなるので、もうやめておこう。


ところが、皆がどこに行ったのかと思っていたら、コタローとウルフ達は、一頭、二頭と次第に帰ってきて、それぞれあっという間に獲物を集めてきたんだ。


ホントに優秀だなぁ ! コタローとウルボスを褒めてやると、彼らはスゴく喜んだんだよ。


すると、獲物をとってきた他のウルフも褒めて欲しそうに近付いてきた。


 けっこうたくさん集まってきたぞ。


仕方がないので順番に全員褒めてあげたんだ。まったく可愛い奴らだよ !


獲物をとれなかったウルフはしょんぼりしていたので慰めてあげたんだよ。


カワイイ奴らだが、ちょっと面倒くさいところもあるね ! ハハッ ⤴⤴


でもみんなのお陰で、少し元気を取り戻すことができたのかな ?


 みんな頑張って、たくさん集めてくれたようだね。


 んっ ? 


 これは……  ゴブリンばっかりじゃん !!


 それに……  スケルトンにマミーにゲジゲジかよー !! 


 食べられないモノばっかりじゃないかよ ! えっ ? コイツらひょっとして…  コレ、食べるのかな ? 好きなのかな ? 


あーーー !! ウサギと鳥が隠れてた。良かったよーー ! 


 あっ、ライトボアもとれたようだね。みんなの食欲を考えると物足りないかも知れないけれど、コレならどうにか腹の足しにはなりそうかな ?


 火魔法で、手早く火をおこして肉を焼いたんだ。


俺は生肉で、という子には生にしたよ。


焼いた肉も一口くらいは食べてみなさい、と言って、好き嫌いをしないように教育したからね。いちおうね !


全員の肉を焼くのは大変だったけど、あれこれ好みはうるさくて、変なこだわりの強いボルト達に比べれば、単純で可愛いコイツらの世話の方が随分と楽しいかな。


……あっ ‼   楽しいよ、楽しい !!


 「みんなっ、ありがとう。

 この森で君たちと一緒だったなら、どうにかやって行けそうな気がしてきたよ !!」


 「急にどうしたの ? リョーマ、だいじょうぶ〜 ?」


 「バウ〜〜 ?」


 スラクとウルボスたちが見つめる。涙がこぼれそうになっていた。



 軽い食事で、ささくれたような空腹をいくらか満たした僕は、ウルフ達と一緒に横になっていた。するとなんだか若干じゃっかんけものくさーい、独特な臭いがすることに気が付いたんだ。


 うーん、これは若干を超えて、なかなかかもね ?


「お前達、ちょっと匂うよ。水浴びしようか ?」


「みずあび ? それおいしいバウ ?」


コイツら、あんなに鼻がよくて、わずかな匂いでもかぎ分けるのに、自分の臭さは分からないのかよ ?


仕方なしに僕は、ダークウルフの群れを率いて小川にやって来た。

この日は暖かい日差しが降り注いで、水浴びには丁度良かったんだよね。


最初にコタロー、次はウルボス、その次はウルト、ウルコ、と順番にブラシで洗っていくと、気持ち良い、とかサイコー、とか言って皆、メチャクチャ喜んでくれたよ。


ウルフは水浴びも、ブラシで洗ってもらうのも大好きなようだね。


スラクもクリーニングのスキルで、ウルフ達をキレイにするのを手伝ってくれたんだ。


スラクのクリーニングで洗われたウルフは、嫌な臭いが全然しなくなっていたよ。これは素晴らしいスキルだ !!

ちゃんと後で、僕もキレイに洗ってもらったんだ。


洗濯機に入れられるようになるのかと心配したけれど、そんなことは無くてね、スラクに包まれると、その部分はシューーーッと、キレイになったんだ。スゴかったよ。



あっ、そうそう。彼らには彼らなりに、ヒエラルキーがあるようで、強い奴から順に並んでいるようだな。まー、仲良くやれよ !

大変だったけど全員が綺麗になったんだ。


さっきまではガサガサだったけど、それが嘘みたいに毛並みも良くなったから、この子達の綺麗になったモフモフに顔を突っ込んで、サワサワすると気持ち良いんだよ。この子達も喜んでるしね。サイコー !!


大仕事が終わって一緒にたわむれていると、コタローがしっぽでペシペシしてきた。コレが案外痛い。

 "敵だ !!"


リラックス状態から、一瞬で気持ちは切り替わった。

 コタローの教えてくれた方へ向かい、息を殺して近づいていく。

 すると、わめくような声や、争う声がした。魔法も飛び交っているのかな ?

 どうやら、ゴブリンがたくさんいて、仲間同士で争っているようだった。


前の方では下っ端ゴブリン同士が殴り合い、メイジゴブリンの風魔法や土魔法も飛び交っているね。あっちもこっちも、かなり怒りをあらわにして完全にヤリあっている…


いったいどうなっているんだ ? 気でも狂ったのか ? ゴブリン同士の戦争なのか ?


 それにしても、10匹や20匹じゃないんだよ。スゴい数なんだ。こんな群れに襲われたら僕らなんてひとたまりもないよ。

 バレないうちに、逃げたほうが良いね !

 だけどさ、こういう時って、何がどうしてこうなったのかとか、知りたい気分になるよね。


自分では訳が分からなかったので、ウルボスに聞いたんだ。


「この森はゴブリン同士の争いが多いのか ?」


すると、「バウー ? 」と答えたよ。これは多分、わかんない、だな。

聞いた相手が悪かったかな ? しかし、都合が悪いと狼語かよ。


しょうがないから、もう少し近くに行って調べてみることにした。

木の陰に隠れてゴブリンの様子を窺っていると、すぐ後ろに居たウルボスが聞いてきたんだ。


「コイツら食べて良いか ?」

「えっ、もしかしてお前達の好物なのか ? とても旨そうには見えないけど……」

「マズい ! でも、腹へって死ぬは、食べる」


そっ、そうなのか ? エサの少ない、この森の暮らしでは仕方がないのかな ?



しっかりと隠れて、僕自身としては完璧だ ! 絶対に見つかって無いだろう ?

 って思っていたけれど、実際は僕の後から後から、ダークウルフ達がゾロゾロと付いて来ていたので、ゴブリンの集団にあっさりと見付かっていたんだ。

 あ~あ、なんてことだよーー !?


わーーーーーーっと争って、もの凄くさわがしかったゴブリン達に、緊張きんちょうが走り、一瞬の静寂せいじゃくが訪れた。


実は、知らなかったんだけど、ゴブリンにとってダークウルフは天敵だったんだ。

これだけの数のダークウルフが来たら、ゴブリンにとっては、絶体絶命のピンチだったんだ。


しかも、それを率いるのは魔狼なのだ。最悪だ !

近くに居るゴブリンはきっと、恐怖で震えが止まらないだろうね。


しかし、そこに普通の人間が一人、ポツンと居たのだ。


何故だ ? 魔狼の活き餌か ? 彼らは理解に苦しんだ、それが静寂に輪をかけたのだった。

 あんなに騒がしかったというのに、これだけの集団(100匹あまり)が急に静まり返ってしまったんだ。


 僕は一心に注目を浴びてしまい、とても嫌ーーな感じになってしまった。


ゴブリン達は静止し固唾かたずを呑んで見守っている。こうなると、見つかってしまったものは、もうしょうがないと思い、


"やぁ、こんにちは。何を争っているんだい ? "


と、ゴブリン全員にむけて、念話で挨拶をしてみたんだ。


 「「「「「 グモーーー ?! 」」」」」

     ( はあーーー ?! )



この緊張感の中で、何を言ってるんだ ! と、ゴブリン達は、ずっこけそうだった。

 いや、何匹かはずっこけていた。

 ゴブリン語は解らないのに理解できてしまった。


しかし、最初にハイゴブリンが、嫌な沈黙を乗り越えて、"コイツらがこっちナワバリ来る" と、念話で答えた。


 すると、反対側のゴブリンジェネラルも素早く反応した。 "アイツのナワバリの見識が違うんだよ" と、答えたんだ。


どうやら彼らは縄張り争いをしていたようだね。


改めてここの土地を見回してみると、右側の小山のふもとには小さな穴が空いていて、中が洞窟のようになっているようだ。


そこを守るようにゴブリンが配置されているな。


そしてまた、左側を良く見ると森の繁みの中にメチャクチャすき間風が入ってきそうだけど、小屋らしき物がいくつかあり、やっぱり多くのゴブリンが守っているね。


この右と左の双方が対立しているのだろうなと理解できたんだ。


それならばと、お互いの話を「こっちか ?」「この辺か ?」などと聞いていくと、ゴブリンジェネラルの方はいろいろ主張をしてきた。


ジェネラルはこの中では別格で知性が高いみたいだね。カタコトではなくて、人間でも、かなり賢い人と同じほどの語学力があるようだ。


対するハイゴブリンも負けられないぞと、"コイツここ、ここはダメ" という感じで身ぶり手振りもまじえて頑張って主張してきた。


そのお陰で、大体どんな具合なのか判ってきたんだ。


そこで、ゴブリンにロープを持ってこさせて、木と木の間にロープを張って縄張りを分かりやすくしてやったんだよ。


"このロープからこっちはお前達のナワバリで、こっち側はお前達のナワバリだぞ"


すると、あれこれ話し合って決めた結果、どちらのゴブリン達も大筋で納得してくれたようだ。ではこれで戦争は終結したのだろうか ?


また、全員がボクの方を見て注目している。

 ……で ? これどうすんの ? もう、これで帰っていいの ? みたいな感じで、じーと様子をうかがっていたんだよね。

 又、イヤな空気だ !


えええー ? 何だ ? ならば、ハッキリと仲直りをした感じにしてやろうじゃあないかと、ちょっぴりムキになって、ゴブリンのコミュりょく向上に精一杯の努力をしてみたんだ。


さっきまで殺し合いの喧嘩ケンカをしていたゴブリン達に握手あくしゅをさせて、リーダー同士でハグをさせて、和解を盛り上げてみたのだ。


彼らは握手やハグなどしたことが無いので、

"手を出して" から"はいはい、あーしてこーして"

まで、やり方からしっかりと教えてあげたんだよ。


すると、最初はぎこちなかったゴブ達も、初めて覚えたコミュニケーションがよっぽど気に入ったみたいで、何度も、何度も、繰り返してやり出した。


「ウォーー ! ウォーー !」と、ハグをして喜んでいる姿を見るのは教育者としては、やりきった感があって良いものだね。



 ☆☆☆☆☆ゴブリン達は新しい親愛の表現方法を覚えた。


その内に双方のゴブリン同士で仲良くなってしまったんだ。

何だ、やれば出来るじゃないか、お前達ーーー !!!!


ナワバリもせっかく決めたけど、何かこれ要らないんじゃね ? みたいな感じになっているんだ。


うおーーーーーー !! ナンダナンダ ? お前らの意見をまとめるの、中々に大変だったんだぞ ! 僕の苦労を返してくれー !


"良いか ? 皆、よく聞けよ ! 今日みたいに腹が立っても殴り合いや戦いじゃ無くてね、相手の意見を聞いて、良く話し合って、握手やハグをすれば解決するんだからね"


 言いたいことは言わせてもらったよ。念話でね ! もうホンの少しだって、無駄な争いはやめて欲しいからさ。


すると、何故だかゴブリン達は皆、感動して握手を求めてきたんだよ。


 ☆☆……うんうん握手の使い方は完璧ですね。

 泣いている奴も居るね。分かってくれたようで先生は嬉しいよ。


すると、ゴブリンのリーダー二人は感動をあらわにして、僕の前に願い出たんだ。


""リョーマの手下になりたい""


「えーーーー !! 何でそうなったーー ??」



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