第4話 悪夢再動~the naitomea reboot~
1.
燃え盛る建物。
無造作に転がる“ヒトだったもの”
人間と無機物が混ざったかの様な獣の様な“ナニカ”が
無惨に散乱するその光景はまさに地獄と呼ぶべき状況だった。
これらはほんの少し前までは人間だったものがたった数分で
この地獄の様な有り様へと変化してまった。
そこに二人の男がいた。
1人は膝を落とし物言わぬ動かない少女を抱きしめ、
もう1人はそんな男を無表情で見つめていた。
少女を抱きしめていた男はそんな自分たちを見る男に
怒りの感情を出していた。
だが男は表情を変えず、ただこう言った。
「―――これは、キミにとっても必要なことなんだ」
2.
「・・・・・・・・・」
目が覚めると同時にゴウは自分の顔を片手で覆い、
ゆっくりとため息の様に息を吐く。
この身体になってから夢を見たのは初めてだった。
その内容は忘れもしない自分の運命というものが
大きく狂い、変わったと実感したあの日のことだった。
今まであった全てを・・・決して満足できてはなかったが
それなりに楽しかった毎日が全て壊されたあの時。
あの時の“あの男”の姿が脳裏を駆け巡る。
「・・・・・チッ」
露骨な舌打ちをしながら彼はベッド代わりにしていた
鉄骨の山に敷いたシートからその身を起こす。
彼が眠っていた場所は開発途上で放棄された建物で
そこにケンが人払いと気配を隠す術式を施し、誰もこの建物に
彼らが居ることが気づかない様に細工を行っている。
今、この場にいるのはゴウのみでケンは不在していた。
彼女とは基本、別行動を取っている。
普段、彼女が何をやっているのかに関しては彼も知らない。
だがケンとは“パス”と呼ばれる魔力で繋がっているらしく、
反応の高さに応じて彼女との距離が大体だがわかるようにはなっていた。
(あまり理屈はわからなかったがな・・・・・)
鉄骨の山に腰を下ろした後、ふと上を見上げるゴウ。
少し雲があるものの暗き夜空に浮かぶ月は白く輝きを見せていた。
場所は変わり、アキラは自室のベッドに大の字になっていた。
食事を終わらせ、お風呂を済ませた後、ずっとこの調子だった。
今日の昼間に起ったことを思ってはいたが
彼女が考えていたのはデモンデウスではなく、あの時に見かけた男性の方だった。
デモンデウスを見る彼の表情は今思い出してもそうだが
どこか友を見やるとも物悲しさをも伴った複雑な表情を浮かべていたことが
彼女の脳裏に焼き付いていた。
(なんであんな表情をしていたんだろう・・・)
騒動が終わった後、アキラは彼を探したものの結局はその姿を見ることはなかった。
ネットも基本はデモンデウスとアイアンジャスティスのことばかりだった為、
彼を知る術はないことを悟り、深く溜息を付いた。
どうしてデモンデウスであるゴウだけでなく、その人物のことも気になるのかは
彼女自身もうまく説明できなかった。
だけども何故か彼のことも気になったのだ。
(昔、あったことがあるのかな。だけども全然記憶にないし・・・・・だけどホント・・・・・)
そんな気持ちがモヤモヤとしたアキラは無造作に身体をベッドの上で捻らしたりする。
ひとしきり身体をジタバタさせた後、もう一度ため息をつくともう考えても仕方ないと考えたのか、眠りをつくことを選択する。
―――夢を見た。
いつかの様な夢と場所は違ったがあの時の夢と同じ様な感覚なのはわかった。
3.
こことは違う別の宇宙もしくは世界のとある場所。
激しい戦闘の痕跡を物語る様に様々な残骸が散乱していた。
そこに複数の男女が休息をしており、何らかの談笑の様子が映る。
彼らは戦友として共に様々な戦場を渡り歩いており、
今しがた終わった戦闘の疲れを癒す為に残骸に腰を下ろすものもいた。
その内の1人である男性は偵察を兼ねてか仲間たちから少し離れた所に立っているのを見た仲間の1人である少女は飲み物が入った缶を片手に彼に声を掛ける。
その声に応えた男性はその場から離れずに飲み物を催促し、それに応える様に少女は
飲み物を彼に向けて放り投げた。
立ち位置の問題かその顔は見れなかったが彼の声から感謝の念を感じた彼女は笑みで応えた。
ほんの少しではあるがこの休息はある意味の平穏とも言える時間だった。
翌日。
休日ということもあってかアキラは街中を私服姿で1人歩いていた。
昨日の喧騒がウソの様にいつも通りの平穏さを取り戻している。
あれほどの大騒ぎだったのに関わらず、街にはそんな痕跡が
消え去っていると思えるほどだ。
(だけどもSNSとかだと昨日のことを言っている人もいるにはいるんだよね・・・・・)
とはいえ、そういった話題も散漫的で結局は小規模程度な広がりしか続いていないのもまた事実だ。
(普通ああいうのはテレビとかでも大きく報道して騒ぐのに・・・・・)
考えてもしょうがないとは思うもそれでもどこか引っ掛かりを覚えてしまう。
(意図的にそういう風に“流れが働いている”・・・・・?)
何故そう考えてしまったのかは時折見る“夢”のせいかもしれないと思った。
今までは見たこともなかったあの夢の数々、それがカギなのでは?、と。
正夢とは言い難く、予知夢としてもどこか違う。
だけども不思議と関連性があるとそう思ってしまう。
そんなこんなで歩いているとこの前の公園に足を運んでいた。
ゴウと初めて会話を行い、ほんの少しとはいえ、彼の人となりを知ることができた場所。
ここに足を運んだのもまた彼やケンと出会えるかもしれないと
ほのかで勝手な考えだったのだが―――
「そう都合よくいかないか・・・・・」
ふとケンから連絡先のアドレスを貰っていたことを思い出す。
いつの間にかスマホに入っていたのだがあの人はホントに何者なんだろうか
(今までは怖くて全然コールしたことなかったんだけども・・・・・)
二人に会うにはこの方法しかない。
恐る恐るとケンの番号を掛けようとしたその時、
「あれ?」
ふと視線をスマホから離すアキラ。
視線の先にはこの前の騒動で傍目ではあったが見かけた男性だった。
あの時は思わず視線を逸らしてしまい結局会えずじまいだったのだが・・・・・
(また会えた)
気付くと青年はこちらの方へと視線を向けていることに気付く。
以前と同じくドキリとしたが今回は視線を逸らさす前に感じた懐かしさに
アキラは答えを出す為に面識もないとも言える彼に自然と声を出していたのだった。
4.
「ここにいたのか」
「―――何の用だよ・・・」
とあるビルの屋上。
床に腰を下ろし、片膝を立てた状態で空を見ていたゴウに
突如として姿を現したケン。
振り向かず素っ気なく返したゴウに
ケンは呆れた感じに反応する。
「なんだ?独りで黄昏ているつもりか?」
「んな訳ねぇだろ」
「ならばあの娘か?おまえのかつての」
そう言いかけたケンにそれ以上言うなといわんばかりに
ゴウが彼女を睨み付ける様に視線を向ける。
そんなゴウの反応にため息を付きながら話を続けるケン。
「関係ないと言いながらもあの娘に対しての考えなぞ手に取る様にわかるぞ」
「じゃあどうしてぇんだよ・・・」
「あの娘と連絡してみるか?スマホもここにあるぞ」
「―――いつの間にアドレス交換したんだ?・・・・・ッ!?」
唐突にゴウは何かを感じたらしく、感じた方向へと視線を向ける。
その気配に徐々に険しい表情を浮かべていくゴウにケンが言葉を投げる。
「―――感じたかゴウ」
ケンの言葉にああ・・・・・、と言葉を漏らすゴウ。
険しい表情と共に怒りの感情を伴った声が混じっていた。
「この感じ・・・・・ヤツだ・・・・・ッ!!」
「正直、驚いたよ。初対面の女の子に声を掛けられるとは」
「ご、ごめんなさい。今の世間一般だと色々と問題になるかもしれなかったんですけど・・・・・どうしても貴方と話がしたくて・・・・・」
公園のベンチに座り、アキラの唐突な声掛けにも気さくに答える青年。
アキラ自身も若干、気まずさを抱いていたのだが青年は特に気にしていない様子だった。
青年の容姿を改めて見ると銀色に近い感じの少し長めの整えた感じの白髪に
全体を白に統一した服装でとても特徴的であった。
(印象に残ってるのもその為、かな・・・・・?)
そう思ったこともあったがすぐにその考えを否定する。
多分、自分が懐かしさも含めて彼に対して警戒心が少ないのも
おそらく自分がよく見るあの夢が起因だと思ったからだ。
「そういえばキミは昨日の騒動にもいたんだよね」
「あっ!は、はい・・・・・!!(当事者みたいな感じなのは控えた方がいいよね・・・・・)」
驚き若干言葉に詰まったものの、青年の言葉にたどたどしくも答えるアキラ。
青年は何かに気づいた様に言葉を口にする。
「そういえば、名前をまだ聞いてなかったし言ってなかったね。ボクはレイアム」
「あ、私はアキラです」
いい名前だね、と笑顔で答えるレイアム。
ドキッとしたアキラだったが少し心を落ち着かせる。
ふと気にしていたことを口に出そうと言葉をレイアムに向ける。
「あの・・・・・以前どこかでお会いしたとかありません、よね・・・・・」
「―――どうしてそれを聞くんだい?別に不快な思いをしたとかではないよ一応言っとくけど」
レイアムの言葉にアキラは若干言葉を詰まらせながら答える。
「えっと・・・どうしてか、貴方のことがその・・・何故か知っている感じがするんです。既視感(デジャヴ)なんですかね・・・そう思っちゃうんです」
アキラの言葉になるほど、とレイアムは何か思い当たるかの様な節を見せる。
「もしかしたらそれはあながち間違いではないのかもしれないよ」
「それってどういう・・・」
ボソッとそんな言葉を漏らすレイアム。アキラはその言葉に不思議な感覚を抱き、
更に聞こうとしたそこへ・・・・・
「レェイアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァムッ!!!!」
声として聴き取れるギリギリとも言える様な絶叫を上げながら凄まじい形相のゴウが迫る。
拳がレイアムの顔に向けて叩き込まれたとかに思えたのだが寸前の所で届いていなかった。
アキラはその様子を間近で見ており、息をのんだ。
何かに捕まったかの様にレイアムの眼前で震えた拳ごとゴウは止まった状態になったと思いきや、まるで自分から弾かれる様に吹き飛ばされ滑る様に地面へと叩きつけられた。
「グッ・・・・・!!」
短い呻き声を上げるゴウに表情を一つも変えずにレイアムは淡々と口を開く。
「―――相変わらずだね。いざという時の決断力の速さだね。そういう所がキミらしくて良いよ」
「うるせぇ!!テメェ、テメェが一体何をしたのか忘れたとは言わせねぇぞ!!?」
吹き飛ばされた衝撃からよろけながらも身体を起こすゴウは殺意を
露にした表情を男に向けて睨み付ける。
そんな睨みにもレイアムと呼ばれた男は動じる様子も無く、ただゴウの反応に笑みを浮かべる。
その合間に挟まった感じとなっているアキラは一気に起きたことへの整理が付かず、
混乱していたがそこへ落ち着かせる様子に肩に手を当てる人物がいた。
ケンだった。
視線はアキラではなく、レイアムの方へと向けたままではあったが
肩に載せた手はどこか暖かみを感じさせるものだった。
その様子を知ってか知らずかレイアムは話を進める。
「今キミたちと事を構えるのは得策ではないんだけどね・・・だがそれを赦すほどキミは甘くない、そうだね」
「当たり前だッ!!」
やれやれ、と静かにため息を付くレイアム。
「―――仕方ないね。まだキミの前で“この姿”になるのは早いんだけども・・・・・今のキミにわからせる為にはしょうがない・・・・・見せて上げるよ・・・・・ボクの“現在の姿”を」
そう言うとレイアムの身体が空へと浮かび上がりながら徐々に大きく巨大なその身を変容していった。
―――ゴウは怒りと同時に衝撃を
―――アキラは先ほどまで感じなかった恐怖を
―――ケンはレイアムに対しての憐みを
形を変えていくレイアムに対して3人はそれぞれの感情を持って見ていた。
そうして“変神”を終えたレイアムはその巨大な“機械仕掛け”の姿を露にした。
街の上空に姿を現した“ソレ”は白き鋼の躯体とも称せる“機械の天使”とも言うべき神々しくもどこか禍々しく、おぞましさを抱かせる鋼鉄の異形だった。
アキラはレイアムが変わったその姿にどこかデモンデウスを想起させていた。
(どうしてだろう・・・・・全然姿は似てないのに・・・・・どうしてデモンデウスと“同じ”と感じたんだろう)
「クソッ・・・・・!!ケン、俺達もデモンデウスでいくぞ!!」
「ああ、だがその前に・・・・・」
ゴウへの要請に応じながらケンはアキラの周囲に魔術を用いた防御結界を張る。
「命が惜しければその結界から外に出るな。いいな」
「―――は、はいっ!!」
反射的に返事したアキラから離れ、ゴウの側へと駆け寄るケン。
それを確認したゴウは詠唱を行い、その身をデモンデウスへと即座に変身する。
レイアムが変身した白き機神はその様子を見ながら姿を現したデモンデウスと対峙する。
『さあ見せてもらうよ。今のキミがどれだけの力を付けているかどうか』
5.
黒き魔神は姿と現したと同時にすぐさま空中にいる白き機神へと即座に攻撃を仕掛けるべく飛び掛かる。
魔方陣から取り出した錨を激しい感情を乗せて振り下ろす。
だが、その刃が白き機神には届かなかった。
認識した瞬間、デモンズハーケンは先端の錨は地面に落ちていたのだ。
アキラは視線を白き機神の方へと向ける。
白き機神の右手からは光の刃が溢れていた。
『チィ・・・・・!!』
危険を察知してかすぐさま距離を取るデモンデウスであったが
唐突にデモンデウスの胸部に亀裂が走り、そこから赤黒い血の様なオイルの様な液体が一気に噴き出す。
『グゥ・・・・・ッ!!』
激しい痛みと共に機体を傾けて膝を崩し、裂けた胸部を抑えるデモンデウス。
白き機神は微動だにせず、地面に膝を落とすデモンデウスを見ていた。
『成長はしているみたいだけども思ってたよりはまだ弱いね―――まあ今はこんなものか』
『なんだと!?』
デモンデウスは白き機神を睨み付けるも白き機神―――レイアムは特に気にせず言葉を続ける。
『キミはもっと強くならなければいけない。その為にもキミはもっと戦わなければいけないんだ』
そういうと同時に白き機神の周囲の空間が歪み虚空から複数の機械仕掛けの化け物が堕ちてきた。
「機怪化獣か!!」
『今のキミにはこの程度の相手で十分さ。次に会う時は今よりも強くなっていてくれよ』
そう言うと白き機神の姿が蜃気楼の様に揺らいでいき、徐々にその姿を消していく。
怒りに満ちた声を消えゆくレイアムにぶつけるデモンデウス。
『待ちやがれレイアム!!』
だがそこへ遮るように機怪化獣たちが立ちはだかる。
「逸るなゴウ。今は目の前の奴らを蹴散らすのが先だ」
『チッ・・・・・わぁーたよ・・・・・!!』
憤るゴウにケンはいつもの冷静な口調で諭し、苦々しくもケンの言葉に応じるゴウことデモンデウス。
そこへ機怪化獣たちが群れを成して襲い掛かる。
『キシャアアアアアア!!!』
『うるせぇ!まとめてぶちのめしてやる!!―――ヘルハウンド・ガンファイア!!』
デモンデウスの両手に大型の拳銃がそれぞれ顕現すると同時にこちらに来る機怪化獣へ向けて発砲した。
だが機怪化獣は背中から巨大な翼の様な構成物を形成するとそれによって飛び上がり、着弾前にそれを避けるのだった。
残りの機怪化獣もまた翼を発生させて空へと移動する。
『チッ、空を飛ぶか!!』
「ゴウ、魔力回路(パス)は繋いだ。いけるぞ」
『オウッ!!カオティックウィング!!!』
叫ぶと同時にデモンデウスの背中から巨大な2対の悪魔を彷彿とさせる翼が姿を現す。
混沌とした色合いを巨大な翼を広げると同時にデモンデウスの姿が一瞬で消え失せた。
『!?!?!?』
敵が姿を消したことに混乱した機怪化獣たちが一斉に周囲を探すように首を動かす。
『オラァ!!』
叫び声と共に強烈な踵落としが機怪化獣の1体の頭に叩き込まれた。
悲鳴も上げることなく、頭部が損壊した機怪化獣は墜落しながら崩壊していく。
仲間をやられたことに激昂した他の機怪化獣たちはデモンデウスへ迫ろうとした。
だがそれは叶わず、瞬時に残りの機怪化獣は蜂の巣の様に無数の弾痕と穴が空いていた。
機怪化獣が最後に視た視線はいつの間にか2挺の魔銃をこちらに構えた黒金の魔神の姿だ。。
全ての機怪化獣が灰塵と化したその後もデモンデウスは項垂れた様子でその場に留まっていた。
『―――クソッ!!!』
しばしの沈黙からこぼれたデモンデウスの声にはやり場のない怒りなど様々な感情が
籠っていたことをアキラは感じ取り、ただただ空中に浮いていた黒き魔神を見るしかなかった。
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