第3話 熱狂情愛~burning lovers ~
1.
デモンデウスとアイアンジャスティスが出現したと同時期。
警察署のとある一室に存在する『特異事象対策係』。
巨大な2体のロボットの出現に関する無線が鳴り響く中、
背もたれ付きの椅子で醬油ラーメンを啜る1人の男が
無線の内容に耳を傾けていた。
そこへせわしない足音を立てながら1人の刑事が部屋の中へと入ってきた。
「アオヤマ警視!!」
口に入れていた麺を平らげ、丼を机に置くとアオヤマと呼ばれた男は
その隣に置いてあったコップに入った水を飲み干すと同時に口を開いた。
「せわしないねぇシイナ君。少しは落ち着くといいよー。
そこのピッチャーのお水飲んでいいから」
「そんな呑気なことを・・・・・!!」
「―――避難状況は?」
「あ・・・・・はい!例の2体の周囲の避難と封鎖は完全に完了しております!」
唐突に真面目なトーンで話すアオヤマに若干驚きながらも報告を行うシイナ。
「偵察用ドローンは?」
「既に準備は整っております!」
「そうか。じゃあ、後は情報収集をメインにして付近の連中は退避させて上げなさいや」
その言葉に反論する様にシイナが抗議する。
「警視、何故ですか!?」
「何故って?」
「ただ情報集めだけですか!もっとこう攻撃などはしなくてもいいのですか!?」
「攻撃してどうにかなる相手だと思う?」
シイナの抗議に冷静に返すアオヤマは更に続ける。
「相手が同じ人間でなら多人数で抑えたりは出来るだろうが向こうは巨人の様な巨大なロボットだぞ?ヤクザとかの捕り物とは訳が違うんだぞ?」
「し、しかし・・・!!」
「それに警察の装備なんぞたかが知れてるのも知ってるだろ?特殊部隊の装備であってもアレほどのデカブツに効き目があるとは思えんし、軍隊を動員したとしても勝てるかどうかもわからんぞ」
淡々と冷静に言葉を出すアオヤマ。
「無駄なことに人員と労力を割くのは馬鹿のやることだ。少しでも情報を集めてその後に努める方に注力すべきだ。そうすれば次に起きた時、迅速に対応できる」
「とはいえ、市民の財産などをむざむざ・・・」
「―――おまえさんの気持ちを理解できない訳じゃないさ。だがな、一番大事なのは兎にも角にも人命だ。それを無碍にすること自体、例え財産を守れたとしても意味がないんだ。罵倒や批判なんぞは好きに言わせとけばいいのさ。俺らは俺らのやれる仕事をしっかりやればいいんだからな」
「警視・・・」
「ほら、ここでグダグダ言う前に今やるべきことをやるんだ。俺らの仕事は山積みだからな」
「わかりました・・・!」
そう答えるとシイナは一礼するとそそくさと現場指揮へと戻るべく、退室する。
アオヤマはそれを見届けた後、ピッチャーの水をコップに注ぎ、口に淹れると一息付くと外を見やる。
「―――とはいえ、今まで“噂”程度だった巨大ロボットの出現、ここ最近起きている“猟奇事件”もとい“怪奇事件”・・・これらが一気に同時に出てきているのは偶然じゃないと思うが、一体何が起きているんだろうねぇ・・・」
2.
場所は戻り、デモンデウスとアイアンジャスティスの対峙へと舞台を移す。
黒と金、それぞれ異なるカラーリングの2体の巨人は戦闘態勢のまま、睨み合いを続けていた。
その2体の様子を遠巻きに避難していたアキラは固唾を呑んで見守っている。
周囲はスマホを取り出して写真などを撮り、SNSは総じて大騒ぎとなっている状態だ。
そんなネットなどの騒ぎは無縁の様にデモンデウスは内部のケンだけに聴こえる様に声を出す。
『ケン、アイツはどうだ?』
「あの娘か。無事避難した様だぞ」
『そうか』
ケンの言葉にどこか安堵な様子の感じのゴウ。
それと感じたケンは茶化す様に言葉を紡ぐ。
「なんだあの娘がそんなに気になるのか?惚れたか?」
『―――そうじゃねぇよ・・・』
素っ気無い反応を見せたゴウにケンは何となく察しが付いたかの様な表情を浮かべる。
とそこへ空気をぶち壊すかの様に大音量の声が響き渡った。
「さあ、覚悟するザマスよ悪のスーパーロボットよ!この正義と愛と勇気を宿した友情と絆のツープラトン!!アイアンジャスティス28GO『熱き血潮に燃えよフロンティア』の真髄、心身ともにズタズタに刻み込んでくれようぞ!!」
「レッツロックデュエル、メカ!!」
「フンガー!!」
意気揚々とこちらを指差すアイアンジャスティスに乗るプロフェッサーらに対し、
デモンデウス側の反応は実に冷ややかだった。
『・・・・・・』
「ステレオタイプと言うべきかサラウンド過ぎると言うべきか・・・今時いないぞあんな直球過ぎるタイプは」
『さっさと終わらせるぞ、これ以上付き合う義理はネェ!』
「同感だ」
そんな言葉が聴こえたのかどうかわからないが先に仕掛けたのはアイアンジャスティスだった。
「先手必勝!行くでザマスよ、必殺『アイアンバラード・フェスティバル』!!!」
「ファイヤー、だメカ!!」
叫ぶと同時に両腕と胸部から無数のミサイルを斉射する。
ミサイル群はそのままデモンデウスへと向かい、着弾と同時に連鎖的な爆発を引き起こす。
爆煙から飛び出す様にデモンデウスはアイアンジャスティスへと向かい、突撃。
反撃とばかりに勢いよく拳を繰り出す。
しかし、それを察知してかの如く、素早い対応で捌かれる。
『何!?』
「フハハハハハハハハハハハハ!!!!」
高笑いと共に隙だらけの胴体に膝蹴りを叩き込もうとするアイアンジャスティスに対してデモンデウスは即座に自らの蹴りでそれを相殺、後ろへと体勢を崩しながらも跳ね返る様に飛び去る。
体勢を立て直しながらデモンデウスは相手を睨む。
『なんて動きだ。ナリが科学者っぽいのはブラフか?』
「だとしても反応が速過ぎる。並の人間でなくとも異常だぞアレは」
そんな2人のやり取りを聞いているかの様な反応を示す様にプロフェッサーは
高らかに説明口調で話し始める。
「フッフッフ、困惑しているな。混乱しておるな!よかろう、凡弱な貴様らにも解る様に小生が優しく嬉しく楽しく教えて進ぜよう。さあ、遠からん者は音にも聴け!近くば寄って目にも見よ!!これがアイアンジャスティス、最大の秘密の御開帳ザマス!!」
そう言うと同時にアイアンジャスティスからモニターが姿を現し、その内部機構(コクピット)を映し出すのであった。
モニターに映し出された画像はアーミィと呼ばれたアンドロイドが操縦桿を握り、オーヴァと呼ばれたロボットは背中に沢山のケーブルと接続されていた。
肝心のプロフェッサートミィは真ん中でキーボードを前にうでを組んで仁王立ちといった感じでドヤ顔で自信満々といった表情を浮かべていた。
「どうザマスか!アーミィが操縦を担当し、オーヴァは機体とリンクしての補佐、そして小生は出力諸々の操作を一手に引き受ける。これぞアイアンジャスティス驚異のメカニズム!たまげたザマスか!?ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「キュージュ、やかましいメカ」
「フンガー」
二人から黙れと言われたのでシュンとするトミィ。
そんなバカを余所にアーミィは口を開く。
「ウチらの戦闘力、思い知ったメカか?おまえは中々にカッコいいメカだけども敵ならば倒す。それが世の常メカだけども降参するのなら見逃さんでもないメカ」
『冗談言うんじゃねぇ。まだ始まったばかりだろうにギブアップもクソもねぇだろうが』
アーミィからの提案を自信を持った感情でデモンデウスは否定する。
アーミィはそんなデモンデウスをマジマジと見つめた後、口を開くと
「―――惚れたメカ」
『―――ハ・・・ッ?』
一瞬、空気が止まった気がした。
言った当人以外は一体なにを言ってるんだ、という感じで思考も動きも停止してしまっていた。
止まった空気と沈黙をぶち壊すかの様にプロフェッサー・トミィは素っ頓狂な絶叫を上げる。
「アーミィィィィィ!!!!何を言ってるのザマスかあああああああああああ!?」
「愛の告白メカ」
「相手は悪のスーパーロボット!敵ザマスなのよ!?それをいきなり告るなど、お兄さんは赦しませんよぉ!?」
「愛に壁など存在しないメカ!!!」
「―――フンガー・・・・・」
素っ頓狂なやり取りを周囲ガン無視で進行するバカトリオであったがアーミィはそんなプロフェッサーを無視しながらデモンデウスに更に話を続ける。
「さあデモンデウス。勝負を付けるメカ。私が勝ったらおまえは私のダーリンメカよ」
『おい、何を勝手に・・・・・!!』
デモンデウスの抗議を無視する様にアーミィは続ける。
「ペアルックは確定としてハネムーンはテンプレとしてはハワイ?いやオキナワでもいいメカねry」
「完全に1人の世界に入って悦に浸ってるな」
『これ以上、勝手な妄想で被害受ける前にケリ着けるぞ・・・・・!!』
3.
「なんというか・・・色々凄い人たちなんだねアレ・・・・・」
離れた場所でアイアンジャスティスからの頓珍漢な告白に冷や汗を浮かべるアキラ。
手に持っているスマホのSNSではこの様子に関して様々な反応が飛び交っているが
それらを確認するつもりはなかった。
ふとアキラはとある方向に視線を向ける。
視線の先には1人の青年らしき男性が立っていた。
彼はデモンデウスに視線を向けており、その表情はどこか友人の戦う姿を
応援している様な感じがしたのをアキラはそう思った。
(不思議な人。初めてあったのに・・・・・どこかで逢った様な・・・・・懐かしい感じがする)
こちらの視線に気づいたのか青年はアキラに振り向き、笑みを浮かべていた。
一瞬、その仕草にドキリとした彼女は恥ずかしい様に視線を逸らしてしまう。
バツが悪いと感じたのかすぐに青年の方へと顔を向けるも彼は既にその姿は
まるで蜃気楼だったかの様に消え去っていた。
(あの人は一体・・・・・)
アキラがそう思った直後、凄まじい轟音が響き、そちらの方へ視線が移る。
アイアンジャスティスの下腕部が火を噴きながら射出され、デモンデウスの身体に打ち付けられていた。
「キミ!ここはもう危ない。避難するんだ!!」
周囲の人間を避難誘導しながらシイナがアキラの方へと近づいてくる。
アキラはデモンデウスを心配しながらもシイナら警官隊の誘導に従い、そこを離れるのであった。
4.
「見よ!愛と勇気と絆のスリープラトン!!漢のロマンたる飛ばせ鉄拳!!!『アイアンスマッシャー』!!」
「ロケットパァァァァァンチ!!メカ!!!」
プロフェッサーとアーミィが叫ぶと同時にアイアンジャスティスの下腕部が轟音と共に火を噴きながら、デモンデウスへ向けて撃ち出された。
凄まじい勢いで拳はデモンデウスの身体に直撃し、その勢いで大きく吹っ飛ばされそのままビルの幾つかを崩壊させながら大きく倒れ込む。
「追撃のミサイル発射ー!!!」
同時に腕部と胸部のミサイルを撃ち出す。
『図に乗るんじゃねぇ!デモンズハーケン!!!』
虚空から現れた光の紋章から槍の様な錨を取り出し、それを一閃。
こちらに向かっていたミサイル群を一気に切り裂き、爆散させる。
爆煙から飛び出したデモンデウスはそのままアイアンジャスティスに錨を振り下ろす。
しかしそれを寸での所で回避されるも先端が鎖を出しながら垂れ下がり、それを勢いよく振り回した。
「ジャスティレーザー!!」
だがアイアンジャスティスはそれすらも躱すと目から高出力のレーザーカッターを発射。
光の刃が鎖を切り裂き、錨の頭は地面に突き刺さる。
『チッ!!』
「まだまだぁメカァ!!!」
更にそのままの勢いで蹴りを繰り出すも紙一重の様に避けるデモンデウス。
その直後に左腕が凄まじい唸りを上げてデモンデウスへ撃ち出されたがデモンデウスは更に身体を捻らせ、バランスを崩しながらも脚部からスラスターを展開し、それを吹かせながら敵から離れる。
「うぉのれぇぇい!!唐突に脚部を変形させるとは!!やりたい放題でザマスか貴様ッ!!!」
「そちらに言われる筋合いはない気がするがな・・・」
『全くだぜ・・・!』
「そろそろ決着を付けるザマスよ!!」
そう意気込んだ矢先、触手の様な物体が突如として現れアイアンジャスティスに襲い吹き飛ばす。
「うおおおおお!?」
「メカぁあああああ!?」
「フンガー!?」
三者三様の悲鳴を上げながらアイアンジャスティスは勢いよく転げまわる。
デモンデウスは吹き飛ばされたアイアンジャスティスとは逆の方向へ視線を移す。
視線の先にいたのはケーブルを包帯の様に身体中に捲きつけた機械仕掛けの怪物がその姿を現していた。
「機怪化獣?」
『この前とは別のヤツみてぇだな・・・』
「キシャアアアアアアアアアア!!!!」
雄叫びを上げると同時に機怪化獣は腕を伸ばし、そこから無数のケーブルをこちらに向けて槍の様に突き出す。
デモンデウスは難なくそれを躱すもそこへ物凄い速さで突っ込んできた機怪化獣の突進を諸に受けてしまう。
『ぐおおおおおおお!』
「クッ!!」
衝撃を受けてたかケンもまた表情を歪める。
間髪入れず機怪化獣はデモンデウスへと襲うべく、突っ込んでくる。
そこにデモンデウスの横を高速に移動する物体が掠め、物体は機怪化獣の顔面に直撃し、怪物を吹き飛ばす。
デモンデウスは後ろの方へ振り返ると立ち上がっていたアイアンジャスティスが右腕を撃ち出していた。
「おのれおのれ!機械とナマモノが混ざったようなメタルモンスターめ!!乱入プレイとはいい度胸ザマスな!!」
プロデューサートミィの怒りの文句がスピーカーを通して聴こえる。
アイアンジャスティスはその後、ブースターを吹かして起き上がった機怪化獣へ組み付く。
「目にもの見よ!これぞ正義の力なり!!!」
そう言うと鋼鉄の巨人は鋼鉄の怪物を掴んだまま、空高く上昇を始める。
『おい、何する気だ!』
「このようなケダモノに小生らの決闘(デュエル)を邪魔されるのは我慢ならんのザマス!だからこそ強制的にデリートするのでザマス!!!」
機怪化獣はアイアンジャスティスを破壊しようとケーブルを触手の様に伸ばしアイアンジャスティスの身体に縛り付けて絞め壊そうと力を強める。
ミシミシと音を立てて装甲が軋んでいく。
「ええい、小生にそのような趣味や嗜好はないのザマス!いくぞアーミィ、オーヴァ。ペダルの踏むタイミングを間違えてはならんでザマスよ!!!」
「オッケーメカ!!ペダルなんてないけどもメカがノリノリで逝くメカよぉ!!」
「フンガー!」
ブースターを加速させ更に上空へと向かっていくアイアンジャスティス。
雲よりも高く飛翔したアイアンジャスティスから眩い光が迸り、
その瞬間。
凄まじい閃光と後から轟音が続け様に街の上空を支配した。
爆発によるエネルギー衝撃波は街全体に伝搬し、誰もがその衝撃に屈する。
デモンデウスだけは不動直立のまま、その様子を見守っていた。
5.
『―――ヤロウ・・・・・!』
「・・・・・・・・」
爆発と閃光が収まると空は元の形と色へと戻っていった。
機怪化獣はアイアンジャスティスの自爆により、跡形も無く、塵芥と化した様だ。
直前まで相対していた敵とはいえ、どこか憎めない所もあった連中がいなくなったことにはなんとも言い切れない感情が湧きたった。
と、その時だった。
「―――ハ、―――ハハハ!!」
ふと何かが聴こえた。
遠目から終始様子を見届けていたアキラはふと上空へと顔をあげた。
先程まで聴いていたあの声が・・・・・・
「フハハハハハハハハハハ!!!!ウ、ゲホゲホ・・・・・ッ!!!」
むせながら空から声の主が現れる。
そうプロデューサートミィだ。
ブースターを吹かしながら滞空しているオーヴァの左肩にアーミィが
右肩に直立しながらもむせた様子を整えていたトミィの姿があった。
『テメェら、生きてやがったのか!!』
「当然よ、この大天才が簡単に死ぬなど多元世界レベルでの損失ザマス!!」
「呆れたヤツだ・・・」
呆れた表情とため息を付くケンを余所にプロデューサートミィは
そのハイテンションのままでデモンデウスを指差す。
「今回は思わぬ乱入で要らぬ邪魔が入った為、今回はドローということでザマスが!
次は!!必ず貴様をギッタンバッコンにしてやるでザマスのよ!!!」
「次こそはデモンデウス。お前の心をハントするメカよ!」
「それでは諸君、アデュー!!!」
「アリーヴェデルチ!メカー!!」
「フンガー!!」
どさくさ紛れにアーミィが何か言った様な気がするが
それを聞かなかったかのようにプロデューサートミィは大袈裟に決めポーズを
しながらその場を去っていった。
それを黙って見送るデモンデウスにはどこか憔悴というか疲労感を
感じたが知らなかったことにしようと思うアキラであった。
6.
そんな喧騒な光景を人目から遠ざかったビルの屋上で見守っていた人物がいた。
その人物は先ほどアキラが一瞬とはいえ見かけていた人物に他ならない。
彼はデモンデウスを見て不敵な笑みのみを浮かべた後、陽炎の様に
その場から姿を消すのであった。
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