第8話 騎震閃吼~the lightning shout~

1.


現在ゴウは独りフランクフルトだけを挟んだホットドッグをひと噛みしながら

レジャー施設から離れた景観の良い道路の歩道側を歩いていた。

賑やかで喧噪さを見せていたひと気のある場所より自然特有の静かさなどを

ゴウはその身に感じていた。

一緒に遊ばないかとアキラ(アドレスを交換していたケンを介してだが)から誘いを

受けたがあまり乗り気にはならず、1人だけ断る形となり、今に至るといった感じだ。

ケンからはこの前のこともあってか気恥ずかしいのかなどと茶化されたが・・・


(元々騒がしい所は好きじゃねぇからな・・・・・)


ふと彼は昔のことを思い返していた。

1人の少女と二人の少年。

そして彼らと共に暮らしていると思われる多くの子供。

そして彼らを見守る少数の大人たち。

かつての日常。

いつかの日の失った光景。

元にはもう戻れない過去の思い出・・・・・

失ってからこそ気づかされる幸せの刻。

それを振り切るかの様に己の頭を振るゴウ。


(女々しく思い返してるんじゃねぇよ俺・・・・・)


不意に後ろを振り返る。

賑やかな喧噪が今の彼には重すぎるのだ。

その場所から更に離れる様に彼は歩みを進めていく。


そこへ声を掛ける者がいた。


「ハーイ。1人で黄昏てるみたいだけどもなんか悩み事かい?」


「―――――」


ゴウは無言のまま声の主に振り返ると少し離れた所に

少女が笑みを浮かべて立っていた。

アキラと同じ女子高生といった風貌だが彼女よりもどこか幼さを感じさせる。

またどことなくケンを彷彿とさせる雰囲気も感じさせた。


「そんな睨まなくてもいいよ。別にキミを殺そうとしたりなんてしないから~

というかジョーダンだって~」


本気にしないで~と少女は手を仰ぎハニカミながらそう答える。


「ナニモンだおまえ」

「さあ、何者だろうねぇ・・・・・キミにはどう見えてる?」


警戒の視線を解かずに少女を睨むゴウ。

その視線に少女はクスッと笑みを浮かべながらその場から動く。


「荒々しいね。“今回の”キミなら・・・・・どうなるのかな?」

「―――?おい、待て!!」


彼女の後を追うとしたその時、不意にゴウの背後から突き刺す様な視線を感じ取る。


「ッ!?」


「・・・・・・・・・・」


姿を現した男の姿は一見すると騎士を思わせる様な意匠の服装をしていた。

しかし、男から発する殺意や殺気は冷たくも恐ろしさを感じさせるのは確かだ。


「テメェ、何者だ?ただの人間じゃねぇのは確かみたいだが」

「名乗らぬのも無粋というもの。我が名はナイトメア。【ゲベート】の一翼を担い

“ハンティング・ホラーズ”の末席に連なる者。」

「“恐怖を狩る”・・・いや、“恐怖で人間を狩る”って意味か」

「どう捉えるかはそちらの判断に任せよう」


ゴウの反応にナイトメアは冷徹な感情を伴わせた返答を淡々と返す。


「テメェ、まさかレイアムの・・・!?」

「如何にもレイアム殿は我々のリーダーとも呼ぶべき存在だ」


無感情な声でそう答えるナイトメア。

だが動きは見せ、片手には異形と言っても過言ではない歪な大剣が姿を現し握られていた。

ナイトメアはその大剣を前に出して何物も貫くか゚の様な冷徹な視線をゴウへと向ける。


「ワタシ自身としては貴様への感情は特にはない。だがその存在は“我々の”にとっては邪魔になる。故に1人である今を狙うことにした」

「デモンデウスになる前なら勝てるとでも踏んだのかよ。簡単にやられるつもりはないがな!!」


そう言いながらゴウは臨戦態勢を取り、ナイトメアもまた大剣を構えたまま不動の状態を取っていた。


2.


話はほんの少し前に遡る。


「いやー、数あるカップラーメンがあるけどもやっぱサンセイのシーフードは格別だねぇ~」


舌鼓を打ちつつ、カップラーメンの美味さを絶賛する声を漏らすアオヤマ。

そんなアオヤマとは対照的にシイナはため息混じりに愚痴を漏らす。


「警視殿。わざわざ外でカップラーメンを食べなくてもいいではないですか・・・・・」

「わかってないねぇシイナ君は。屋外(そと)と屋内(なか)じゃあ一味も二味も違う

モンなんだよ?」


箸を持った片手を小刻みに動かしながらチチチと舌を鳴らすアオヤマ。

その様子にシイナはため息を漏らす。


「ですが昨今の状況的に勤務中に食べるのは如何なものかと」

「言わせたいヤツには言わせておけばいいのさ。警察官だって人間で生きているんだから息抜きは必須だよ。機械と一緒くたに考えているのならそれこそ問題的思考だよそれは」

「それは確かに、ですが・・・」


麺を啜った後、箸をシイナの方へと向けてアオヤマは続けて言葉を投げる。


「シイナ君は真面目なのは非常に取り柄で良いことだけどもさ、ちょっと抱えすぎちゃう所が偶に瑕だよね」

「問題ではなく、偶に瑕なんですか!?」

「取り柄を問題視するヤツってのは大概、そいつを見てないかわかってないか見て見ぬふりしてるのかなんだよ。

良いことを問題として潰すなんざ見る目がないとしか言えないよ。キミの場合はそれが行き過ぎて余計な被害を自分で抱え込んじゃう所なのよ。貧乏クジとも言えるがそれ以外は普通に高評価に値するよシイナ君は」

「警視・・・・・」


上司の思いがけない言葉にシイナは感激の感情を見せていた。

とそこへシイナの視線に“とある人物”の姿が入った。


「あれは?」

「どうしたの、シイナ君?」

「すみません。警視!例の事件の関係者と思わしき人物を見つけたので追跡しますので応援等よろしくお願いいたします!!」


アオヤマの静止も間に合わず、速足で見かけたその人物の居た方向へと走っていくシイナ。

そんな彼の姿に苦笑しつつ、頭を搔きながらカップラーメンをゴミ袋に入れながらアオヤマはシイナからの要請を本部へと連絡を入れるのであった。


場所と時は戻り、ゴウとナイトメアはそのままジッと


(ケンから教わってたのが幸いしたか・・・!)


内心でケンに感謝しながら敵対する騎士に警戒を解かずにゴウは右手を斜め下に大きく手の平を広げる。


「カラミティナッパー!!」


叫ぶと同時に大鉈を彷彿とさせる片刃の剣を呼び出したゴウはそのままナイトメアの

繰り出した大剣にぶつけ受け取めると鈍い重音を周囲に響かせた。

攻撃を受け止められたナイトメアは距離を取る様に後方へと下がる。


「ほう、刀剣の類も有していたか」


感心したような言葉を漏らすナイトメア。

しかし、それとは裏腹に油断はなく、警戒を伴った態度で異形の大剣を片手で構える。

ゴウも無言のまま相手を睨みながら大鉈状の剣を片手で構えながら相手に向けて突き出す。

その状態のまま、双方ともに睨み合いが続く。

しばしの沈黙・・・

だがその沈黙も一瞬の合間とも言える時間でしかなかった。

先に仕掛けたのはゴウだ。

ナイトメアは向かってくるゴウに体勢を崩さず、大剣を前に構えてそれ以上の動きは見せなかった。

ゴウの刃はそのままナイトメアの剣へと激突する。

同時にナイトメアの大剣からバチッと音が鳴ると同時に凄まじい電流が弾ける様に放出される。


「ぐあああああああああ!!!」


全身にほとばしる凄まじい電流にゴウは苦痛の絶叫を上げると

同時に吹き飛ぶかの様な形で後ろへとのたうち回った。

ナイトメアは帯電した刃を下へと降ろすとまっすぐゴウの方へと視線を移す。


「ぐ・・・おあああ・・・・・」

「ほう、アレを受けてなお生きているか。普通の人間は無論だが機怪化した者でさえ、感電死する可能性はあり得るのだがな」


悶え苦しむゴウを見ながら彼は感心の言葉を漏らす。

そしてそのまま刃を携えたまま、ゴウの元へと歩み始める。

そんな中、彼はふとこちらに強い敵意の視線で睨み続ける青年の姿に気づく。

身体の機能が一時的に麻痺した状態で満足に手足を動かすことすらできない有様にも

関わらずこちらへの敵意を挫かずにむしろ高めていくその姿に青騎士は歩みを止めると歓心の意志を零した。


「―――惜しいな。貴様ほどの逸材はそういないだろうが我々の計画を果たす上ではやはり貴様らの存在は邪魔でしかないのだ。レイアム殿には悪いがここで始末を付けさせてもらう」


騎士は大剣を自身の頭上へと掲げるとゴウの方へと視線を下ろし、表情を変えることなく無慈悲な一撃を振り下ろそうとした。


3.


「そこの貴様、動くな!!」


その時だった。

不意に騎士の後ろから声が叫んだ。

騎士は掲げた剣をそのままに声の主の方へと顔を動かす。

そこには銃をナイトメアに構えた警官―――シイナの姿があった。


「貴様ら、いや貴様!!周囲は完全に包囲している。無駄な抵抗はやめて大人しくしろ!そもなければ発砲する!!これは警告ではない!!!」


両手で拳銃を構えながらも同時にあふれ出る緊張と恐怖からか顔には汗とその感情を伴った緊迫の表情を浮かべたままナイトメアと対峙するシイナ。

そんなシイナに対してナイトメアは表情を一切変えず、動きも微動だにせず、

ただその場に立ち止まっていた。

相手がただ者ではないことはシイナも直感ではあるが感じ取っていた。

巨大な剣を携えた不気味な雰囲気を醸し出す騎士の様な怪人を前に無謀な行動を取っていることはシイナも理解していた。

しかし、それでも自分の警察官としての矜持としてこれを見過ごせないと感じていたのも事実だ。


(倒れている男よりもあの騎士の様な男は危険なのは確かだ・・・・・!!)


おそらく上司のアオヤマからは無理をして苦笑されながらも説教されるだろう。

自分でもあからさまに無謀だというのはわかっている。

先ほどの包囲の発言も相手の抵抗を無くす為の虚言でもしかすれば相手も気づいているだろう。


(だけども今目の前で命を失う様な行為を無視や看過など自分にはできない!!)


例えなんと言われようともこれを捻じ曲げたらおそらく今の自分は有り得ない。

だから引けない、そう思ったのだ。

だがそんなシイナの思いとは裏腹に事態はあっけなく終わりを迎えた。


「・・・・・・・・・」


シイナを一瞥したナイトメアは沈黙のまま見つめていたがナイトメアの周囲に

バチバチと電気がスパークし始めていくと同時に急激な光が周囲を包む。


「うわっ!?」


凄まじい光に思わず両腕で顔を覆うシイナ。

目が眩みそうな余りにも激しい閃光は周囲を包み込みしばらくしてその光は収まった。

シイナは顔を上げるとそこに居たはずの青騎士はこつ然と姿を消していたのだった。


「逃げられてしまったのか・・・む、もう一人もか?」


周囲を確認すると痺れて横たわっていたゴウもいつの間にか姿をくらましていたようだ。

そこへ遅れる様にアオヤマがやってきた。


「やれやれ。シイナ君が急に何か気づいたかと思えば激しい音と光が鳴ったと思えば・・・・・一体何があったんだい?」

「警視・・・・・それが自分もさっぱりでして――――しかし彼は一体どこに」


どう説明すればいいのかわからない様子のシイナは姿を消したもう一人の青年を気に掛けていた。


4.


場所は再びプールの方へと移る。

一通りの娯楽を堪能し、施設から出てきた一同。


「うーん、今日は楽しかったー!」

「ご満悦だったねルミコ」


背伸びをする友人にアキラは後ろから続ける。

他の4人も続いて施設の入口から姿を現していく。


「ファファファ、ご満足していただいて感謝感激雪崩のバーゲンセール。そしてこのドクター・トミィの素晴らしい偉大さをご理解いただきましたかと存じまするザマスよのことで」

「今日は私たちも楽しかったメカー。アキラにルミコー、また機会があったら遊びたいメカね~」

「私もだよ~アーミィ。オーヴァさんもありがとうね」

「フンガー」


歓びのマッスルポージングを取るオーヴァに周囲は笑いと笑顔を見せる。

そんなやり取りを一歩離れて見ていたアキラの横にケンが並ぶ。


「楽しめたかい?」

「はい、ケンさんもありがとうございます。ゴウさんも来てくれればよかったんですけどね」

「アイツは騒がしさには抵抗があるみたいだからね。だけども次の機会があれば誘ってみるのも悪くないわ」

「はい・・・・・」


そう言った後、ルミコは手を振りながらアキラ達に声を投げる。


「アキラー、このままご飯食べにいかないー?ケンさん達も一緒にどうです?」

「いいわね。どうです、ケン・・・さん・・・?」


ケンの方向へと振り向くと彼女は険しい表情、背後の方へ視線を移していた。

何かを感じたアキラは緊張とした感情を隠しながらルミコに謝罪する。


「ごめんルミコ。今日はこれ以上、無理なんだ。また今度」

「そっか。まあ、昼間十分楽しんだからねぇ。また今度みんなと食べよ!」

「うん」

「―――アーミィとオーヴァよ。彼女を送ってやって欲しいザマス」


何かを察したドクター・トミィは二人にそう支持を出すとそれに応じたアーミィと

オーヴァはルミコと共に歩き出す。

ルミコの安全を確認したらケンは背後から感じる気配の持ち主に声を掛ける。


「もういいぞ。彼女の方には問題はないだろ」


そう言うと暗闇からその人物が姿を現した。

ゴウだ。

しかし、その様子は少しおかしかった。


「―――ッ」

「ゴウさん、一体何が?」

「―――多少の状況は理解できるがダメージが残っているな。何があった」

「レイアムの取り巻きともいえるヤツと一戦やりあった。少し油断して身体は痺れちゃあいるが問題無い」


ゴウはケン達に自分の起きた状況を説明する。

それを聞いたアキラはいつぞやの怪僧の姿を思い起こしていた。


「ゴウさんを襲ったってことはまさかレイアムさんが個々を狙って・・・・・」

「いや、どうやらレイアムの意志じゃねぇみたいだ」

「どうしてわかるのザマスか?」


ドクターの言葉にゴウは自身の思惑を明かす。


「アイツは俺達の・・・【デモンデウス】としての力を求めている、そんな感じがしていた。だが今回襲ってきたヤツはレイアムとは別の何かしらの目的に対して俺を襲ったとしか思えない。そんな動きだった」

「だがヤツはおまえを取り逃した」

「途中で横槍というか邪魔が入ったからなのか。奴らの意図はわからんが」

「2つの思惑が錯綜している、か」


ケンの言葉にゴウは無言で頷く。

不穏な動きが見え隠れしつつ、敵である【ゲベート】の存在が徐々に姿を見せてきていた。

そして、そんなゴウらの様子を遠目から不敵な笑みを浮かべていた少女は誰にも気づかれることなく闇の中へと消えていった。


「さあ、どう動くのかな?デモンデウス」

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