轟魔機吼デモンデウス
貴宮アージェ
第1話 魔神邂逅~beginning the DemonDeus~
1.
果てしなき天空(そら)。
限りなき宇宙(そら)。
全てを呑みこむ虚空(そら)。
我々が認識しているソラは永遠にも続くかの様に星々の煌きを輝かせていた。
だがそんな輝きを奪うかの様に黒い悪意がその骸を曝け出していく。
全てを否定する闇。
全てを拒絶する悪。
全てを侵食する邪。
今ある世界を覆うかの様に数多の機械仕掛けの怪物たちが姿を現す。
それは世界に仇名す生気無き機械と融合した骸。
生命有る存在全ての敵。
そんな骸の群れを見上げる3つの人影があった。
一人は男性、残る二人は女性で片方はまだ少女といった面影を残していた。
「見渡す限りの敵の群れか」
「ヘッ、いつものことだろ?」
「違いない…危ないから下がっていろ」
「うん、二人とも気を付けて・・・」
二人は笑みで少女の言葉に答え、前方の怪物たちへと視線を移す。
「行くか」
「応っ、連中に俺達の恐ろしさ、目に焼きつかせてやるぜっ!!」
そう言うと同時に二人の身体が光に包まれていく。
『デモンデウス顕現!!さあ、どこからでも掛かってきやがれぇ!!!!』
有象無象の群勢に相対する様に黒き刃金の魔神がその姿を現すのであった。
2.
朝。
いつもどおりの日常を告げる様な朝日がカーテンを通してうっすらと漏れた光を
少女の顔に当て、少女はぼんやりと目を覚ますと同時に上半身をベッドから起こす。
「・・・・・・・・・・・・・」
妙な夢を見てしまった、とアキラは思った。
朧気ながらもその内容は覚えている。
黒い巨大ロボットの様な存在に二人の男女。
そして巨大ロボットの手の平に乗っていた自分。
それが一体どういうことなのか、そして夢の中の自分達は一体何を見ていたのか
そんなことを考えていたがふと近くの時計を見て意識を現実に引き戻す。
「やっば!早くしないと遅刻しちゃう!?」
飛び上がる様にベッドから起きるとアキラは急いで支度を整えて学校へと急ぐのであった。
学校ではとある“噂”が話題となっていた。
巷では不可思議な“猟奇殺人”がまことしやかに広まっていた。
機械と融合した人間が無差別に殺戮を繰り返し、それを黒と白の衣装を着こんだ
男女のペアが“狩っている”というもの。
また更には巨大な黒いロボットが蜃気楼の様に姿を現すなどデマやガセとも言える荒唐無稽な話も散見されている。
いずれも信憑性に関しては低いとも取れる所謂流行的な噂話とも言えることだが
それでもアキラはそれに関してふと脳裏の片隅にある今朝の夢と重ねていた。
今流行っている噂と自分の夢がどこまで関係あるかどうかはわからないが
偶然と呼ぶにはその噂と夢が合致する部分が多すぎる。
正直、否定したい感情もあるのだがそれが出来ない感じもあり、妙にモヤモヤする。
(まあ、気にし過ぎてもしょうがないか)
そう思いながら気だるさのある昼休みをダラダラと過ごすアキラであった。
学校からの帰路、それでもアキラはやはり夢の内容を考え続けていた。
予知夢ないしは正夢なのかどうかはわからないが余りにも鮮明に覚えていることから
アレが一体何を意味しているのかそんなことをずっと考え続けていた。
とそこへ・・・けたたましい音と共に声をアキラに向けてくる者がいた。
「ヘーイ、そこなお嬢さん?何をそんなに黄昏てるんダーイ?」
突如、話し掛けてくる声を聴いてアキラはその声の方向へと振り向いた。
そこには科学者だと思わせる様な白衣を羽織った自身を科学者だと思っているとも
言える男性が立っていた。
何故、科学者風だと思ったのかというと白衣はともかくその姿で“携帯式シンセサイザーをかき鳴らしていた”からだ。
「・・・」
アキラは無言だった。
というよりもどう反応すればいいのか全くわからなくなるぐらい目の前の男の衣装と行動が衝撃的過ぎだった。
「何が悩み事があるのならこの超絶大天才たる小生こと“ドクター・トミィ”にお任せあれの雨あられ!!」
周囲の迷惑も何のそのな勢いでシンセサイザーをかき鳴らすドクター・トミィと名乗った男にアキラは無反応であった。
それを知ってか知らずかお構いなくドクター・トミィは更にまくし立てるかのようにマシンガンの如く喋り続ける。
「小さなことから山となれ!どのような悩み事であろうとこの小生の超絶大天才的なブレーンなサピエテンティアなエッセンスをもってすれば如何なる困難如何なる脅威も等しく解決の道行きへとナビゲーションッ!!!!」
シンセサイザーとの相乗効果で掻き鳴らされた音はもはや騒音ともいうべきレベルのものとなっていた。
「さあ何でも小生に聞いてみたまえ!ハリー!ハリー!!ハリィィィィィィィィ!!!?」
とそんなハイテンションなアクションをしているドクターの周りにいつの間にか警官が複数人立っており、がっしりと両脇を抑えていた。
「ホワイ?」
「こんな街中で騒音紛いをして尚且つ女学生に対して不審な行為をしていたのはおまえか!」
「NO、ノーーーーオ!?違う、違いますよ、間違っておりましてよ!?小生はあくまでも迷える子羊の為に道しるべを・・・!!」
「ハイハイ、続きは署でゆっくり聞きますからこっちに来なさい~」
「ええい、なんだその態度は!?待って!ストップ!!ステイ!!!小生の話を聞いてぉぉぉぉぉ!?」
そんなやり取りを続けながら科学者風の男は警官達に拘束されながら連れていかれるのであった。
「なんなんだろうホント・・・」
そう呟きながらアキラはゆっくりと歩き始めるのだった。
遠巻きにはその状況を見ていた人物たちには気づかず・・・
3.
彼女はそれからもずっと夢の中のことを思い浮かべていた。
正夢になるのかそれとも単なるおとぎ話の様な夢でしかないのか
色んな考えや思いが思考となって脳内をグルグルと掻きまわしていくだけで結論は
出てなかった。
ふと暗がりになっていることに気づくとアキラはハッと我に返り、周囲を見渡す。
場所は廃工場なのか廃材が無残に積み重なってたり、散乱していると人の気配を感じさせない。
「いけない。いつの間に迷い込んだんだろう」
何か起こるかわからない、そう感じたアキラは踵を返して工場外へ出ようとしたその時だ。
何かの呻き声の様な音が彼女の耳に入る。
「?」
声の方角に振り返ったアキラは工場の奥地に何かいることを感じ取っていた。
行くべきではない。頭の中ではそう思っているのだが何故か足はうめき声のあった方へと進んでいた。
おそるおそる竦むの様な感じで少しずつ慎重な歩行で工場内を進んでいく。
街灯の明るさもあってか全体の薄暗さが底知れない恐怖の感情を際立ててくる。
逃げたい、帰りたい・・・そう思いながらも何故か奥へ足を運ばせる。
自分でもよくわからない、好奇心とも異なる何かしらの感情に動かされてるのが
わかる。
更に進むと薄暗い灯りが入らない場所で何かが蠢いているのが確認できた。
アキラはおもむろにスマホのライトを付けてその“影”を照らすとそれはこちらに唸りながら睨みつけてきた。
照らしたそれは人間だった。
成人男性、見た目的には30代かそこらのスーツ姿の恰好をした中肉中背といった風貌だ。
しかし、様子がおかしいのだけはすぐにわかった。
表情は如何にも正常とは言い難く、眼は所謂“獣(けもの)”とも言える様な尋常ではない感じだった。
男はまるで獲物を見る様にアキラを見ている。
「ヒッ!?」
思わず漏れた声を必死に抑えるよう口を手で塞ぐ。
恐怖心が一気に全身を包み、貫く様に突き刺されながら全身を震わせる。
アキラは逃げたかった。だが恐怖で金縛りの様になって動けなかった。
それに気づいた男はアキラにじりじりと間合いを詰める様に迫ってくる。
そして勢いよく襲おうと飛び掛かった。
殺される・・・っ!!そう思ったアキラは尻餅を突くと同時に身構える。
だがそれを邪魔するかの様に黒い影が二人の間に遮ると影が凄まじい動きをして男をぶん殴った。
物凄い速さで男は廃材の山へと突っ込み、廃材は音を立てて男を飲み込むように崩れていく。
身構えていた彼女はゆっくりと目を開いた。
(生きてる・・・)
恐怖の感情と表情を浮かべていた彼女の前に黒い影が彼女と異形へと化した男の合間に立ちはだかる様に立っていた。
黒を基調とした衣装に灰色の様な銀髪のがっしりした体格の青年だった。
黒づくめの男は自分を見るアキラの視線に気づき、顔と視線を彼女へと落とす。
「おいテメェ、大丈夫か?ってかどうした。何ビビってんだよ」
「あ、あああ・・・ヒュウ・・・ッ!!」
恐怖と驚愕に支配され、涙目な様子を醸し出していたアキラはまともに言葉が出てこなかった。
それが混乱も含めてのものだと察したゴウはどうしたものかという様子を見せていると自身に突き刺さる視線に気づき、ゴウはその視線の主の方向へと振り向く。
そこにはゴウとは対照的な白を基調とした特異な衣装を纏った妖艶な雰囲気を感じさせる美女がそこには立っていた。
「おう、ケン。オメェも来たか」
「・・・・・・」
ケンと呼ばれた女性は無言と同時にその返答とも云うべきか
容赦なく女性は手に持った大口径の大型拳銃を向けてゴウの頭へとブチ込む。
その様子にアキラは唖然とした。
撃ち抜かれた頭は特に損傷を受けた様子はなかったが痛みは伝わるらしく、
ゴウと呼ばれた男はケンと彼が呼んだ女性を睨み付ける。
「痛ってぇ!?何しやがる!!」
「それが女子に対するスタンスだと思っているのか。馬鹿め。いや馬鹿だからこそこんな態度か」
「テメェ、良い度胸だ!今日という今日は我慢ならねぇ!!」
「ほう、なら今までお前は我慢をしていたというのか。これは驚きだ。季節外れの大雪が降るな」
「テンメェ言わせておけば・・・!!」
「あ、あの・・・!!」
ようやく言葉を絞り出しながらもなおも混乱しおどおどしているアキラを余所に何かに気づいた二人は口論をやめてゴウが吹き飛ばした男の方へと視線を移す。
瓦礫の山から姿を現した男はゆらりと立ちながらも身体を震わせていた。
『グオオオオオオオオオオオオ・・・!!!』
雄叫びを上げると同時に男の身体は徐々に巨大化しながら
形を変えていき、機械の寄せ集めの様な怪物へとその姿を変えていった。
『グルルルル・・・ッ!!』
「ったく、うるせぇヤロウだぜ!!」
『キシャアアアアアアアアアアア』
迫りくる怪物ではあったが空中に突如姿を現した“ソレ”に掴まれた。
「え・・・?」
“ソレ"は巨大な鋼鉄の右腕だった。
アキラはふと近くにいた男―ゴウ―の様子を見やる。
不敵な笑みを浮かべたゴウの右腕は“無かった”のだ。
その代わりの様に何もない空間から現れた巨大な鋼の腕が怪物を鷲掴みしていた。
「おらよ!!」
ゴウの動きに連動する様に鋼の右腕も動き、怪物を投げ飛ばす。
「いくぜ、ケン!!」
「ああ、やれゴウ」
相方へお互いに返事をするとゴウの前に光の穴が広がり、ゴウは吸い込まれる様に入っていた。
同時に空にあった鋼の右腕の“続き”がその姿を露わになった。
鋼の巨人の足が出現と同時に轟音を響かせ、振動を揺らしアキラは体勢を崩し掛ける。
アキラはその巨人の姿を見やる。
それは先ほどの機械の怪物とは違った異様な雰囲気を持った黒金の機械の巨人ないし“魔神”と形容できるような容姿であった。
「あ、あれは・・・?」
「“デモンデウス”だ」
隣にいたケンがアキラの疑問に答える様に言葉を放つと彼女の全身が光に包まれていき粒子となってデモンデウスと呼ばれた黒金の魔神へと吸い込まれていく。
ケンが吸い込まれると同時にバイザーの奥底にあった眼が炎を灯した様に光ると
同時に鋼の魔神は叫ぶ。
『魔に染まりながら邪を拒みし黒金の戦刃。我はデモンデウス、邪悪を滅する刃金の魔神なり!!』
4.
場所は変わり、デモンデウスの内部。
光の粒子となっていたケンが服装を変えて再び姿を現す。
バイクを模した操縦席に跨り、操縦桿を握りしめるケン。
「準備はいいかゴウ?」
『応よ、さっさと片づけるぜケンッ!!』
デモンデウスへと変身したゴウの声が響く。
吹き飛ばされ体勢を崩していた怪物はゆっくりと起き上がると
殺意の籠った視線をデモンデウスへと向ける。
『キシャアアアアアアアアアア!!!』
『怒り心頭でわけかい…来な!!』
デモンデウスの挑発に乗るように怪物の腕から無数のケーブル状の触手が飛び出す。
触手は鞭の様にしなやかな動きを見せ、デモンデウスの腕に絡みつくと
同時に怪物の身体から触手を介して電流が放出、デモンデウスに強烈な電撃を浴びせる。
電撃を浴びせながら怪物は笑みを浮かべるがデモンデウスは微動だにしない。
すると突如デモンデウスは絡みついている腕とは反対の腕で触手を
纏めて掴むと勢いよく引っ張るのであった。
当然バランスを崩した怪物はそのまま勢いよく引き寄せられると
そのままデモンデウスは拳を怪物の顔に叩き込む。
直撃した怪物は絡みつけていた触手を引き千切られながら吹っ飛ばされる。
「・・・ゴウ、もう少し中にいる私にも気を配れ・・・」
『別に中まで電流は通ってなかったろ?だったらいいじゃねぇか!』
愚痴をこぼすケンの言葉に視線を怪物へと向けてたままゴウことデモンデウスは答える。
よろよろと起き上がった怪物は更に怒りを高めた視線をデモンデウスへと向け、身体を震わせる。
「・・・そろそろ決めるぞ」
『オウッ!!』
相棒の言葉に答える様にデモンデウスは吼える。
『デモンズゥゥゥゥゥゥゥゥハーケンッ!!!』
デモンデウスの横から光の紋章が出現すると同時に長い棒が現れ、
それを引き抜くと刃の様な巨大な錨がその全容を晒した。
そしてそのままの勢いで怪物に向けて振り下ろす。
しかし怪物もそれを察してか直撃する寸前、後ろに飛び跳ねる様に動き、紙一重に躱す。
空振りに終わり、弧を描く巨大な錨を持ったデモンデウスだが動じた様子はない。
すると突如折れたかの様に錨の先端が下に落ちたか見えたが
そこには柄から鎖に繋がった錨の姿があった。
『オラァ!!!!』
デモンデウスは叫びながら鎖が繋がった錨を勢いよく振り回す。
物凄い勢いで錨が怪物の身体へと迫り、躱す暇もなく深々と突き刺さる。
『グギャアアアアアアアアアアアア!?』
悲鳴を上げる怪物。
だがそれを認識終える前に怪物へと素早く近づく黒い巨影があった。
『!?』
それに気づいた直後、怪物の身体は横に上下は分かたれていた。
地に墜ちた怪物の身体は痙攣をしばしした後、灰塵の様に崩壊していく。
怪物の身体は塵となって消滅しそこに残っていた巨大な黒き人の鋼たるデモンデウスのみが立っていた。
アキラは呆然とした感じで機械仕掛けの巨大な人型を見る。
「デモン・・・デウス・・・?」
それが少女と黒金の魔神と魔女との出逢いであった。
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