第10話 魔銃相対~demon guns cloth fire~ part1
1.
朝の教室は登校とホームルーム前ということもあってか賑わっていた。
アキラは自分の席に頬杖を付きながら端末を動かし、SNSなどを見ていた。
SNSは先日起きた郊外の廃病院の崩壊騒動で話題は持ちっきりである。
轟音を立ててほぼ全壊といった感じの崩れ方をしており、老朽化が原因ではないかと
見られていたりするが未だ究明解明には至れていない。
建物周辺に足元も確認されていたことから警察などは崩落に巻き込まれた者が
いないかどうかの周辺捜査も行っているとのこと。
アキラはニュースサイトなどに掲載されている崩落した建物の画像に注視した。
崩れ方に関してはどこか“巨大な存在”が中から現れた感じだと思われる。
(これってゴウさん達が関わっているのかな?)
ふとそう思ってアキラはSNSやメールなどをチェックしたが特にこれといったものはなかった。
すると眠そうな感じで欠伸をしながらルミコが教室に入ってくる。
「おはよ~・・・・・」
「おはようルミコ。また徹夜したの?」
「うん、C.C.C.の新作発表の生放送テッペンまで見てたからも~眠くて眠くて」
再び大欠伸しながら眠気まなこで応えるルミコにしょうがないね、と言った微笑みを見せるアキラ。
他の友達がルミコと話し合う所を見ながらアキラはふとこれが自分の“普通の日常”だと改めて認識する。
(ちょっと前から奇怪な出来事に巻き込まれているのっていう感覚も忘れそう)
ルミコたちには自分がゴウらと共にそんな不可思議な事件に巻き込まれたことは話していない。
むしろ、にわかには信じ難い上に創作と勘繰られてもおかしくない、と思う。
(―――あの科学者さんとかは・・・幻想であってほしいと思ってしまう自分がいるな)
奇天烈で破天荒な科学者とその取り巻きであるアンドロイドとガイノイドが脳裏をよぎったがアキラは即座に脳内から消し去ることにした。
とその時だった。
バリィィンと大きな音が鳴ると同時に窓ガラスが割れた。
「!?」
一瞬何が起こったのかアキラは理解できなかったが周囲の悲鳴が上がると同時にふと我に返る。
「きゃあああああ!!」
「なんだ、どうした?」
「窓ガラスが割れた!?」
「誰か先生、呼んで来いッ!」
瞬く間に教室の中は混乱によるパニック状態になった。
騒ぎを聞きつけた他の生徒たちも野次馬の如く廊下に集まり出している。
アキラを始めとした外側の窓際にいた生徒たちは全員そこから離れる様に動いていく。
するとアキラはふと床に“何か”がめり込んでいることに気づく。
「あれは・・・」
アキラはそれを見ようとした瞬間、弾丸と思しき“何か”は音も立てずに霧散していく。
騒ぎを聞いて駆け付けた教師の先導によって教室から退室し講堂へと避難する。
その後、緊急の職員会議が開かれ、急遽全校休校ということで自宅待機を命じられ、
アキラたち生徒は帰宅後に連絡する様に通達され、全員下校となったのだ。
帰路の中、アキラは先ほどの“銃撃”に付いて思考を巡らすも答えはその場では出なかった。
(あれは・・・私を狙っていたの?それとも・・・)
場所は代わり、街の中心分に位置する高層ビルの一つの屋上に二人の人物がいた。
1人はボロボロの布をマントの様に全身を覆う様に羽織り、手には自動拳銃を彷彿とさせるやや大きめの拳銃を片手に握っていた。
もう1人は髭を生やしたどこか紳士を思わせる様ないで立ちの初老の男性で
こちらは白色のマントを羽織っている。
老紳士は荘厳に蓄えた顎ひげを撫でながらとある方角を見ながら隣の人物を称賛する。
「ふむふむ。いや~実に実に素晴らしいものだ。キミの能力は大したものだよ。称賛されるほどだよ普通はね」
「・・・・・」
外套の人物―――ジョーン=ドゥは無言のまま、持っていたマガジンを銃に装填しながら老紳士―――ファウストと同じ方角を見ていた。
彼らの見ていた方角はアキラの学校のある方角だった。
距離からしても彼らのいるビルと学校は徒歩なら45分ぐらい程掛かる。
それぐらいの距離を狙撃した、というよりもジョーン=ドゥとしては“普通に射撃”しただけである。
「キミの能力は中々に興味深い。距離という概念に捉われず、銃という存在があれば目標を確実に遂行できる。他の者ではできない芸当だよ。うむ、うむ。実に面白い」
ファウストはやや芝居掛った実情の籠っていない称賛の言葉を出すもジョーン=ドゥはそれに反応することはなく
ただ己の言葉だけをファウストに向けて言う。
「これで奴らは動くか?」
「おそらくはね。とはいえ、彼らも我々が一筋縄ではいかぬことは知っているから慎重な行動を見せるだろうがそこは逐次、いぶり出す様にしてしまえばよいことだ」
「わかった」
そう言うとジョーン=ドゥは銃をしまうと同時にその場を後にする様に姿を消す。
ファウストはそんな同胞をため息混じりにこう評した。
「やれやれ、何を考えているか表情なども含めて読みづらい男ではあるが・・・きっちりと任務をこなす点は律儀と呼ぶべきか、それとも機械的と言うべきか。まあ、どちらでもワタシとしては都合がいいのだがねぇ」
不適な笑みを浮かべながら再びファウストはアキラの学校がある方角へと視線を向けるのであった。
2.
時は進み、学校に再び物語の視線を移す。
事件後、生徒が帰宅して代わりに警察が事件現場となった教室に集っていた。
鑑識を中心とした捜査員たちは教室一帯や学校全体に対しての調査を行っている。
そこには【特異事象対策係】のアオヤマの姿もあった。
周囲の刑事らと事故現場の検証を確認している所へシイナがアオヤマの方へと駆け寄る。
「アオヤマ警視!」
「おお、シイナ君。どうだった?」
「はい。とりあえずは学校周辺の聞き込みなどは行いましたが、これといった不審な人物は見かけなかったとのことです。
監視カメラが設置されている所も確認しましたが特にこれといった人物はいませんでした。」
シイナの言葉になるほどね、と顎に手を当てながら納得の頷きを見せるアオヤマは鑑識たちに声を掛けて現場の様子を再度確認するとシイナに向けて言葉を放つ。
「こっちもね。鑑識サンたちが色々調べてくれたんだけどもまあ不審つーか不明な点が多いわな・・・」
「と言いますと」
見た方が早いわな、とアオヤマは鑑識から貰った資料をシイナへと手渡す。
それを見たシイナは驚愕といった表情を見せた。
資料には銃撃に関することが書かれていたのだがその内容は“一切の詳細が現時点では不明”と記されていた。
「警視、これは?」
「見ての通り読んでの通り、“銃撃された”事実まではわかっちゃいるがその“手口”と“距離”が全くと言い程わかっていないんだよね。だからこその現時点では“一切不明”なのよ」
改めてシイナは手渡された資料には銃弾と弾痕の痕跡が書かれているがここら辺に関して疑問を浮かべた。
「警視、この使用されたと思しき銃弾と弾痕ですが・・・」
「わかってる。この口径の弾丸だと長距離の“狙撃”はできないはずなんだよね」
確認された銃弾は拳銃などに用いられている口径の物と思われるが詳細に関しては持ち帰った上でしっかりとした鑑定待ちになる為、明確な答えを出すことはできないが問題は銃撃に関する距離だった。
先ほども銃撃された教室から学校内外周辺を調べていたのだがその痕跡が全く見当たらなかったことと窓ガラスに空いた穴の関係などから“学校からかなり離れた距離での狙撃”なのは明白。
しかし、回収された弾丸では如何に狙撃を行うにしても弾速などの問題もあってか事実上、不可能に近いと言わざるを得ないのだ。
「拳銃で超長距離を狙撃するとなれば現実的な手段で行うのは無理だと考えれば・・・」
「まさか、魔法か何かの様な類による仕業と?」
「状況証拠が足りなさ過ぎるから断言はできないが・・・ただの狙撃犯じゃないのはまず間違いないないぜ」
割れた窓から外を見ながら、未だ見えない狙撃犯に対して睨み付けるかの様にアオヤマはそう言うのであった。
3.
場所は再び変わり、ジョーン=ドウたちが居たビルの屋上にゴウとケンは姿を現していた。
ケンは目を閉じ、何かに集中するかの様な雰囲気を出しながらその場に立ち、ゴウはその様子を黙って見ていた。
「・・・・・・」
ケンはしばらくそのままに立ち尽くしていたが調べが終わったのか目をゆっくりと開く。
「終わったのか」
「ああ」
ゴウの言葉に短く応じるとケンはその場でしゃがみ、周囲の床を撫でる様に手を動かす。
「何か残ってたのか?」
「残っていたな。不自然な程に。まるで見つけてくれと言わんばかりにな」
淡々と答えたケンは立ち上がり、視線をある方角へと向けゴウもそちらに視線を向ける。
方角はアキラの学校がある方角だった。
「ここからアイツの学校の一室を狙ったのか?」
「そうだ」
「俺は狙撃や魔術に関しては知識がねぇが、それが可能なのかよ?」
「狙撃に関しては私も詳しくはないが魔術との併用であれば、その様な芸当は可能だ。距離問わずにな」
「魔術ってのは魔法とは区別されてるがそんなことも出来るのかよ」
「魔術・・・厳密には“術式”に関しては魔法とは原理が異なるものは確かだ。魔術としてのやり方であれば【空間同士を繋げる】ことぐらいは造作もないぞ」
「造作もないっつーてソイツはおまえらならできるからだろ。俺からしたチンプンカンプンみたいなモンだぞ・・・」
「あれほどレクチャーしたというのに・・・物覚えが悪いな」
呆れた様な感じを見せるケンに悪ぅございましたね、と悪態をつくゴウ。
それはともかくと話を戻す様にケンは言葉を続ける。
「この一連の動き、おまえはどう見る?」
「罠じゃねぇのか?アイツと俺達は繋がりもある。いつぞやの騎士野郎や念仏野郎と同じかどうかはわからねぇが・・・」
レイアムのいる【ゲベート】。
その幹部とも実働部隊とも言える【ハンティング・ホラーズ】。
以前、偶然に近い形で狙われたアキラだったが今回は明確に彼女を狙ったとも言える動きだった。
カイテンやナイトメアの様な超常の力を行使して戦う人の形をした異質な魔人たち。
目的に関してはわからないが少なくともアキラを狙っていることに関しては心当たりがない訳ではない。
「アイツを狙えば俺らが出張ってくるだろと踏んでのことか?」
「常人の考えの範疇を越えた連中の思考は簡単には読めんのが実情だ。いつぞやのハザードとかいうヤツもいる」
「―――確かにな・・・」
人間が変身した機怪化獣。
それに更に手を加え、弄ぶ異形の改造屋ハザードの様な存在もいるだけにその目的は漠然とはしないのも確かだ。
どっちにしても連中が目的の為ならどんな手段を用いてくるか予測が困難なのもある。
「用心に越したことはねぇか」
「そうだな。しばらくは見に徹するぞ」
「大丈夫なのかよ」
「奴らがその気なら既にあの娘ないしはその関係者に危害を加えているはずだ。それをしていないのはこちらの痺れが切れるのを待っていると考える以外あるまい」
ゴウの疑問にケンはそう答えると踵を返す様に階下に降りる為に歩みを進め、ゴウもそれに続く。
そしてケンの予想通り、ゲベートらの行動は挑発とも取れるかの様に事件を起こしていった。
4.
昏く暗いとある場所の一室。
窓もない地下の様なカーテンもない無機質な小部屋。
明かりは付いているが薄暗さを強調する程度の光量しかない様な感じであった。
そんな主張のない部屋の真ん中に一つの人影が動きを見せていた。
ゲベートの幹部ハンティング・ホラーズの1人であるジョーン=ドウは黙々と自身の愛銃を手入れしていた。
「―――――」
無言のままジョーン=ドウは磨き上げた己の愛銃を眺めつつ、腕を伸ばし銃を構える。
目深に被ったフードの奥底には何かしらの意志を宿したか゚の様な揺らぎの炎を思わせる何かが見えた。
魔人はその後、立ち上がると部屋を出るべく歩みを進み部屋から出る。
寡黙な銃の魔人は次の仕事を行うべく、街へと繰り出す。
標的との対決は近い。
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