第11話 魔銃相対~demon guns cloth fire~ part2
1.
「ふぅー・・・・・」
アキラはひと息付く様に寝間着を兼ねた部屋着でベッドへ大の字に寝転がった。
教室が狙撃されてから早4日経過し、自宅待機から自宅学習へと切り替わってから3日経過している。
あの事件から学校は事態終結までの間、数週間ほど休校を決めた。
教室への銃撃だけでなく、学校周辺を中心に狙撃事件が多発していたからだ。
しかもその全てがアキラの通っている学校の生徒の周辺ばかりである。
幸いにも怪我人はゼロだったが連続で生徒を狙われたことは不安を抱かせるのも十分。
だからこそ今の様な状態になっている・・・
(私が狙いのかな・・・それとも・・・)
狙いは自分のはずであると思っていたが最初の時だけで後はどこか意図的に避けていると感じたのも事実だ。
敵は間違いなく、ゲベートのハンティング・ホラーズだ。
あれだけの能力を“距離”を問わずに銃撃ができるという芸当は普通の人間では絶対できないはず。
とはいえ、その正体に関しては全くわかっておらず、特殊な能力を持っていない自分では判明などもままならない。
そこが自分の・・・・・アキラという少女の限界なのだろうか・・・・・
「――――――」
自分で考えても情けなくなっているのはわかる。
今までも自分は結局、彼らの足手まといにしかないということも。
段々とネガティブになっていっていると感じたとアキラはむくりと上半身を起こす。
「――――――なんか飲もう・・・」
ジッとしているのも原因だと感じたアキラは冷蔵庫から飲み物を取りに1階へと降りていく。
両親は事件の前から仕事の都合でしばらく留守にしており、家には彼女しかいなかった。
事件直後に電話で心配の旨を伝えてきたがアキラ自身は問題ないと答えている。
(迂闊に不安があるとか言ったら仕事切り上げて帰ってきそうだし・・・)
狙いが自分だとしても下手に家族が帰ってくるとそれがゲベートに利用される可能性もあるかもしれないと考えたからだ。
無論、ただの杞憂で考え過ぎだと思うが彼らの考えが全くわからない以上、深読みになるとしても危険性を減らすのは大事だと思う。
飲み物を淹れたコップを口に向けて一気飲みした後、おかわりを淹れたコップを持ったまま、リビングへと向かいテレビの電源を入れた。
テレビはちょうどニュース番組が始まったらしく、番組の冒頭部分が流れている。
リビングのソファーへと移動し座ると番組を少し見ていたアキラ。
番組内は学校で起きた銃撃事件関連で学区内における各所の銃撃地点を紹介していた。
コメンテーターや専門家などは銃撃の方法や目的など色々話してはいたが犯人の目途が立っていないのが実情でしかないのが現状らしく、
明確な解答などのコメントは特に出なかった。
目ぼしい情報がないと思いアキラはチャンネルを変えようとリモコンを手に取り、変更ボタンを押そうとしたその時。
不意にライブ中継で“ある人物”が映ったことに目がそちらに向かった。
「―――ゴウさん?」
一瞬でしかなかった為、見間違いかもしれないと思ったがあの灰色の様な銀髪と非常に目立つ黒一色の衣装を着た人間はアキラの記憶的にも1人しかいなかった。
ただの偶然か、それとも意図的にそうしたのか。
ゴウ本人が社会的に目立つ様な素振りは避けていたと思うのでおそらくはアキラの気のせいかもしれないがそれでも彼女は気になっていた。
(もし、何か意図があるのなら多分それは・・・・・)
少しの思考の後、決意したアキラは立ち上がると部屋に戻り素早く着替えを済ませ戸締まりを済ませると街へ向かって走っていく。
行って何かできるかはわからないがそれでも無視はできない、と無意識に彼女を渦中へと向かわせる。
そんな彼女を遠目で電柱の上から見下ろす者がいた。
以前、ゴウとも接触していた少女だ。
「・・・・・・」
少女は懸命に走るアキラの姿をただ真っ直ぐに見つめ眼で追っていた。
その顔には特にこれといった感情を伴わせてはいなかったがどこかアキラを心配するかのようなそんな雰囲気を少なからず感じさせる以外は。
2.
街へと着いたアキラは肩で息を吐きながらも呼吸を整えていく。
彼女のいる場所は先ほどのニュース番組で生中継で映っていた通り。
呼吸を整えたアキラは改めて周囲を見渡す。
事件の影響もあってか人通りはいつもよりも少ないがそれでも多くの人がせわしなく行き来している。
(流石にもういないか・・・・・)
家から15分ほどは掛かる距離もあってかもう移動していてもおかしくないと思ってはいたが・・・
「―――簡単には見つからないよね」
無駄足だったかなと浅いため息を付くと帰路へと向かおうべくその場から離れようとしたアキラに声を掛ける人がいた。
「そこのキミ!!」
「ヒュイ!?」
考え事をしていたとはいえ不意に声を掛けられたのもあってか驚きと合わせて変な叫びを出してしまうアキラ。
声を掛けた人物もそんなアキラの反応に困惑の様子を見せていた様で心配の声を出す。
「だ、大丈夫かね?」
「あ・・・はい、すみません。考え事をしていたので・・・」
声の主に謝罪すると同時にその人物の方へと顔と視線を向けるアキラ。
そこには強面ではあるが心配しているかのように不安そうな格好をしたスーツ姿のガタイのいい男性が立っていた。
「え~と・・・」
「ああ、すまない。自分はこういうものです」
困惑するアキラに男性は自分の素性を教える為に懐からあるものを取り出す。
「警察手帳。警察の方?」
「自分は【特異事象対策係】のシイナ警部補です。驚かしたのと不安にさせて申し訳ない。キミ、件の学校の生徒だね」
シイナからの質問にドキッ!と身をすくむアキラ。
別に悪いことをしている訳ではないのだが学校は現在、様子見の為の全校休校の状態で生徒の用事なき外出は控える様に通達されている。
アキラもそれは知っているが故に地味にピンチだったりする。
(どうしよう・・・・・)
アキラは胸中で不安の色を出しながらどう対処すべきか思案していた。
テレビに知人がいたのでなんて理由で外出するのもどうかと思うし、ゴウたちのことをどう説明するかでやはり面倒なことになる。
とはいえ、理由もなく外出するのは後々で困るかもしれないしと色々お考えてしまう。
(もしかしなくても・・・・・詰んだ!?)
悪いことしてないとはいえ、通達無視では学校からの評価や親からの信用等々が悪影響受ける可能性もない訳ではないし、
かといってこの事件の関係者ともいえる人物とか普通なら荒唐無稽ともいえる眉唾物な与太話でしかない事態をどう信じてもらえるか
等々、色々と急激に頭の中でこんがらがり始めてしまい、目をグルグルし始めてしまう。
※アキラはこの時点シイナの肩書のことはすっぽりと失念していることは留意すべし。
「キミ、大丈夫かい?」
冷や汗を滝の様に流しているアキラを見て心配の様子を見せるシイナ。
シイナの心配の声にハッとするアキラ。
ほんの少しの間ではあるかもしれないがかなりの長時間思考していたかの様な感覚に襲われたがそこは割愛。
すぐに思考を切り替える。
「すみません。大丈夫です・・・・・」
「そうか・・・では改めてキミは学校の生徒で間違いないね?」
「―――――ハイ・・・・・」
誤魔化すのは無理と判断したアキラは素直にシイナの問いに答える。
面倒事は避けたかったのだがその方法が思いつかない以上は仕方ないと判断したのだ。
「確か今は休校中だったね。何か用事でも?」
「―――えっと、ですよね・・・」
言葉に詰まるアキラ。
答えられない訳ではないのだが少し前に警察の人にゴウがハンティング・ホラーズと共に目撃されていたことを
言っていたのを今思い出して余計にどう説明すべきか頭を悩ませることになってしまっていた。
(どうしよう。ゴウさんと知り合いとか言い出したらそれはそれで指導されちゃうとかなんかあるのは目に見えてるしで・・・・・)
なんとかこの場を切り抜けようと考えていると怖気を伴った寒気をアキラはゾワリと感じ取った。
「!?」
「―――ッ!?危ないッ!!!!」
アキラが寒気を感じたのと同時に彼女の身体が前から突き飛ばされる。
シイナもまた何かに気づいたのかアキラを突如突き飛ばす。
それと同時にシイナの右肩に“何か”が掠りるのだった。
「グッ・・・!!」
右肩を抑えてガクリと膝を折るシイナ。
それと同時にシイナとアキラの周囲に複数の飛翔物が地面にめり込む。
異常に気付いた周囲の人間は悲鳴を上げる者を始め、即座にその場はパニックとなった。
「―――ッ!?・・・・・ッ!!」
アキラも最初は目の前で人が傷ついたことにショックを受けたらすぐに自分へ向ける気配に気づき、その気配の元へと振り向く。
ボロ布をマントの様に羽織った人物を見つけた。
その人物は殺意とも取れる明確な意思を乗せた視線をアキラに向けていた。
(アイツが・・・!!)
一連の事件の犯人であると気づいたアキラは一瞬、険しい表情をした後、決意を固めた表情へと上書きしてその人物が立ち去った後に続き走る。
「キ、キミ・・・!待ちたまえ・・・・・・っ!!」
静止の言葉も届かず、街中へと姿を消すアキラ。
シイナは肩の傷の痛みに耐えながらスマホを取り出し、上司であるアオヤマに連絡を入れる。
3.
息を吐きながら街中を奔走するアキラ。
以前の逃走を主とした疾走ではなく、自らの意志で追尾の為の走り。
恐怖がない訳ではない。
逃げたいという気持ちがない訳ではない。
関わりたくないという感情もある。
家に引き凝りたい、事件から離れたい、怖いことから逃げたい。
そんな気持ちが頭の中で嵐の様に駆け巡っている。
だけど・・・
(―――逃げない。逃げたくない・・・!!)
アキラの意志は恐怖とせめぎ合っているが決してそれに負けてはいなかった。
それは以前の経験も大きかったのかもしれない。
あの時、自分は何もできず、結局ゴウたちに助けて貰うしかなかった。
今回も何かできるかわからないがだからと言って黙ってそれを看過するのは嫌だ。
何よりも“自分のせい”で関係ない誰かが傷つくのが我慢できなかった。
(だから相手の思惑に乗る。乗ってやる!)
無謀ではあるが何も“無策”でやっている訳ではない。
賭けの可能性ではあるがアキラはそれを信じることにした。
アキラは息を切らしながら走り続け、開けた場所へとたどり着く。
そこは運動公園、ゴウと最初に語らいだ場所。
膝に手を付き、呼吸を整えながらアキラは恐怖を抑えながら背を伸ばし、周囲を見渡す。
(どこから来る?)
隠れる場所がない公園に誘い出されたのは気付いていた。
どこからともなく撃ち出される“魔弾”に恐れながら自分を餌にゴウ達をおびき出そうとしているのは目に見えていた。
向こうに常識は通用しない。
だったら敢えて誘いに乗って向こうの出鼻を挫こうと考えたのだ。
そしてそんなこちらの目論見に気づいたのかどうか知らないがどこからともなく拍手の様に手を叩く音が響く。
「素晴らしい。素晴らしい。こちらの目論見に気づきながらも被害を減らす為に敢えて誘いに応じる。その行為を他人は蛮勇や無謀と称するだろうが簡単に行動として移せるものではない・・・・・そう考えればキミの判断は決して間違いではないと言える。むしろ称賛すら必要であろう」
そう言いながら声の主は姿を現し、アキラへと近づいてくる。
アキラもまた意を決してその声の主の方へと視線と身体を向ける。
灰色のスーツと白のマントにその身を包み、荘厳な髭を蓄えた初老の男性がその場に立っていた。
老紳士は拍手していた手をそのままにどこが邪悪を含めた笑みを浮かべたまま、アキラを見ている。
「初めまして、と言っておくべきだろうね。私の名はファウスト。キミももう既知だろうがゲベートのハンティング・ホラーズの1人を務めさせて貰っているよ。」
「―――ハンティング・ホラーズ・・・!」
息を吞むアキラ。
ハンティング・ホラーズ。
自分が以前襲われたカイテンのことを思い返し、身を強張らせる。
それを見たファウストは邪悪な笑みを浮かべたまま話をつづけた。
「既に我々の何たるかは理解してくれているだろう。が、別にキミに何かをするつもりは今はないよ。
わかっているだろうがキミはエサだ。デモンデウスをおびき寄せる為にね。」
「だから、私の学校に・・・ううん、最初から私を狙ってあの銃撃事件を引き起こしていたの?」
「正解だ。キミを直接狙うということも出来てはいたがそれでは芸があるまい?だからこそ一つ、趣向を凝らそうと思い、敢えてあのような形を取らせて貰ったのだよ」
「――――ッ!!」
ファウストの言葉にアキラは奥歯を噛み締めながら睨み付ける。
そんな理由で多くの人を怖がらせた。
そのことが許せなかった。
衝動で一歩前に歩もうとしたアキラの足元に銃弾が掠る。
「!?」
自分の足元を見た後、アキラはファウストの背後に視線を向けた。
そこにはボロボロのマントを羽織ったもう一人の魔人が銃をこちらに構えて立っていた。
(いつのまに・・・!!)
「紹介しておこう。彼の名はジョーン=ドウ。一連の趣向の協力者だよ」
ジョーン=ドウと称された人物は黙したまま、アキラの方へと銃を構え、微動だにしてなかった。
だがアキラは動けなかった。
理由は単純。
“銃弾がどこから来るのかわからない”からだ。
ファウストはそんな困惑を浮かべるアキラにフフフ、含み笑いをする。
「さて、自分の置かれている状況は理解出来たかね?大人しくしていればキミ自身に危害は加えないよ」
「―――それを保証することができるの?」
「それは然り、確かに今までのキミの経験から一般的な常識が通用しないのはその通りだよ」
アキラの疑問に確かに確かに、と頷くファウスト。
震える足を感情で抑えながらアキラは目の前にいる魔人たちを睨む。
恐怖の感情が沸き上がり、自分の心をへし折ろうとプレッシャーを強めている。
いつ折れてもおかしくない。
勇気があろうとも普通なら恐怖に圧し潰されて平静ではいられないはず。
それでも・・・・・彼女が最後まで折れないことを彼らは知らない。
「・・・・・」
「さあ、このままでいるのもきつかろう。そろそろ我々に・・・」
そう言った直後だった。
ジョーン=ドウは何かを察し、銃をそちらへと向かう。
「遅ぇ!!」
言葉と同時に重い音が鳴り響くと上空から複数の高速する物体が二人に襲い掛かる。
それが銃弾であることはすぐに気づいたファウストとジョーン=ドウは銃弾を避けるべく、後ろへと跳び下がる。
「むっ?」
「――――――」
その攻撃が牽制であると気づいた二人は銃撃を行った人物に視線を移す。
アキラの目の前に着地し、銃を構えたままゆっくりと立ち上がる全身黒を纏った灰を思わせる銀髪の人物がサングラスを介して二人を睨み付ける。
4.
「ゴウさん」
「―――ったく、無茶をしやがって。だが・・・よく持ち堪えたな」
アキラの方に振り向かず、ゴウは彼女の行動に呆れながらも己を保った彼女を称賛する。
彼女もゴウが来てくれたことに安堵した表情を見せる。
その後、ゴウは目の前にいる二人の魔人を睨み付ける。
「テメェらか。コソコソチマチマとコスい手使ってやがったのは・・・」
「お気に召さなかったかね?」
「ああ、むしろ大胆に真っ正面から来た方が叩き潰しがいがあるからな!!」
手に持っていた銃をファウストに向けるゴウ。
それに対して微動だにしないジョーン=ドウと不敵な笑みを浮かべるファウスト。
(余裕があるのかな?それとも・・・)
向こうの謎の余裕とも言えることに疑問を抱くアキラだがその直後に自身の背筋に悪寒の様なものが走る。
彼女の背後に黒い穴の様なものが突如出現したのだ。
よく見ればジョーン=ドウの銃を持っていた腕が“無くなっている”ことにも気づいた。
「!?」
即座に彼女は自分の背後に振り向くもそれと同時に銃声が鳴り響くのであった。
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