第6話 業火喧嵐~the Inferno Storm~

1.


「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・!!」


息を切らしながらアキラは懸命に走った。

店を出てから連続での逃走ではあるが今はそんなことも考えられない。

先程出会ったあの僧侶風の男。

風貌もだが危険な雰囲気や空気も醸し出していた。

そして最初にゴウたちと出会った時の機怪化獣へと変貌した男と同じ感じだ。

だがあの時よりも数倍の危険性を感じ取っている。

あの男はそれ以上の“人の姿をした悪鬼そのもの”だと。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・ッ!!」


普段から走り慣れていないこともあってか

息が切れ、身体が悲鳴を上げていく。

だけども走りをやめることはできない。

とにかく人気のない所へ向かって走っていく。

息が苦しい・・・

呼吸が荒い・・・

とうに限界を迎えているが走りを止めれば

あの怪僧の餌食になることは明白だ。

そしてそんな怪僧の巻き添えを避けたいという気持ちもあって

アキラは限界を超えて走り続けていた。

あの怪僧は明らかに自分を狙っているのは確かだ。

理由はわからないがおそらくはゴウとケンと関わっているからではないかと

直感の様なものが無意識に働いているのもあるかもしれない。


“どれぐらい走ったのだろうか・・・”


もはやそんなこともわからないぐらいに逃げることだけを考えていた

ふと気づくとアキラは人気のない路地裏の袋小路にいた。

そしてすぐに迂闊だったとアキラは認識するも激しい呼吸の乱れと

一度止まってしまったこともあってかもはや即座に動ける体力は残されていなかった。


“早く動かなければ・・・”


頭ではそう思っても限界を迎え、一度動きを止めてしまった身体は

体力の回復に専念してしまっていた。

その時、悪寒が走った。

シャランと錫杖の音が響く。

少女は直感とも本能とも言える様な感覚を【それ】を理解していた。


―――恐怖がくる―――


「ファファファ・・・もう逃げるのはおやめにならたのですかな?むしろ諦められた?否、それは否。あなたは恐れを感じていますが恐れには“吞み込まれていない”!!」


大きな影は独りでそう自問自答しながらも通路の方からゆったりとその姿を現す。

僧侶を彷彿とさせながらもその出で立ちは仏門に属する者から逸脱した破戒僧の異様さを抱かせる。

殺戮と破壊と無法の体現者にしてそれを救済と見定める求道者。

外法を持って解脱となった狂気の怪僧。それがこの男―――カイテンである。


「強き魂の持ち主だ。なるほどなるほど、レイアム殿がお気になさるのも道理。

故に貴女は連れていかなければなりますまい。貴女の存在は“理の埒外”にあるのだから・・・!」

「?」


何を言っているのかアキラには理解できなかった。まるで別の世界の言葉の様に

あの怪僧は勝手に語り始め、そして自分を今まさに連れ去ろうとしているのだ。

殺すのではなく、生きたままどこかへ連れていく気なのだ。


「本来ならば貴女をデモンデウスへの対策に用いようと思っておりましたが些か予定を変更させていただきますぞ。貴女は我々の“救済”に必要な聖女であるのだから」


もはやこちらの言い分すら聞くつもりの無い様に勝手にしゃべり続けていた。

一刻も早く逃げたい。

だけどもそれを赦すほど相手も甘くないし、むしろ今の自分の身体が思考に追いついていない。

このままでは――――――と諦めの感情も沸き上がり始めていた。


2.

場所は代わり、とあるビルの屋上。

ゴウは床に腰を押し付け、以前とは違い、空の方へと頭と視線を見上げていた。

この前、因縁深きレイアムとの再会はかつての“嫌な記憶”を思い起こす。

あれからどれくらい経ったか、多くのことが起きた性もあってか

曖昧になってる部分もあるが“あの時”のことだけは決して忘れることはできない。


(今となっちゃあアイツの真意なんぞ知ったことじゃねぇが・・・落とし前は付けさせる!)


ふと後頭部に強烈な一撃が入る。


「―――ツァ!?」


痛みはともかくあまりの衝撃に不意に苦悶の声が上がる。

ゴウはすぐに後ろにいるやらかした張本人の方へと視線を向けて睨む。

そこには白を基調とした衣装を身にまとった麗しい魔女が立っていた。

右手に不釣り合いとも言える黒色の大型拳銃を持っているのも付け加えて


「ケン・・・!テメェ、いちいち過激なんだよ!!」

「このぐらいしなければ今のお前には効果が薄いからな」


大型拳銃をいずこかに仕舞うケンに「チッ!!」と悪態をつくゴウ。

そんなゴウの態度にケンは呆れ混じりのため息を吐く。


「全く・・・宿敵との再会があったからと露骨に不機嫌な態度をとるとは・・・あの子が不憫でならんな・・・」


ケンの言葉にゴウはおもむろ視線を逸らす。

あの子とは言うまでもなくアキラのことであった。

ゴウも彼女には悪いことをしたと自覚はしているが自分らと無関係とも言える彼女を

これ以上巻き込むのは彼本人としても本意ではない。


「それだけではあるまい・・・」

「・・・・・・・」


視線を合わさずゴウはただ黙って両目を閉じる。

言われずともわかっている・・・ゴウはアキラと“彼女”を重ねっていることを・・・


「おまえがそう思っていてもそうは思っていないヤツもいるということだがな・・・」


そう言いながらケンはゴウとは違った方向に視線を向ける。

ゴウもそれに気づき、続く様に顔を向けるのだった。


「チィ・・・!!」


舌打ちしながら立ち上がるゴウにケンは言葉を投げる。


「走っても間に合わん。術式で向かうから少し待て」


ケンの言葉にゴウは黙ってその場に留まるとケンの身体が徐々に光を帯びていった。


諦めの意思が思考も身体も支配しようとしていく、その矢先だった。


「待つメカ、この変態変質者メカぁ!!!」


通路側から軽快な叫び声と共にメカ少女が巨大な筒状の物体を片手に持ちながら飛び込んできた。

それをバズーカの様に構えながらメカ少女―――アーミィは叫びながら引き金を引く。


「メカメカバズーカ、発射メカ!!!」


不意の弾頭を頭部に受けておもむろに体勢を崩すカイテン。

更にそこへ黒い大きな影が物凄いスピードでやってきた。


「ぬぅ!?」

「フンッガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


隙を見逃さずオーヴァは怒号の如く叫びを上げながら体当たりをぶちかまし、

カイテンの巨体はビルの壁に叩き付けられる。

そのままオーヴァに抱えられながら袋小路から通路側へと移動するアキラとそれに追走するアーミィ。

それと同時にけたたましい音と声が路地裏に響き渡る。


「待て待て待てぇぇぇリアル!そこな怪しさビッグバン級のデクの棒なウドの大木的怪僧め!!か弱く可憐な小生の友たる少女に不埒な悪行をしようとしたその蛮行。天に代わって愛と正義と勇気の代弁者、このプロフェッサー・トミィとその僕たるアーミィ&オーヴァが鉄槌に下しにお呼びとあれば参上仕った所存ザマスよ!!!」


キーボードを激しくかき鳴らしながら全身でうるさくポージングをするプロフェッサー・トミィはアキラを伴ってその横に合流するアーミィとオーヴァと共に怪僧と対峙し、そう言い放つ。

怪僧はおやおやといった表情を浮かべながらこちらに身体を向ける。


「ここにきて更に救いを・・・いや、あなた方には救いは必要なそうでありますなぁ・・・むしろ、拙僧の目的の為の障害になりえる存在やもしれませぬな」

「当然ザマス。小生は世のため人のため平和の使者としてこの世に蔓延る悪と戦い続ける宿命を担う身。貴様の様な怪力乱神魑魅魍魎な輩の好きには小生の眼の白黒な内は一切合切させぬが世の条理ザマスぞ!!!」


会話が成立している様でしていない様なやり取りを行っているがカイテンはトミィの言葉を無視してアキラの方へと視線を向け続ける。


「どちらにせよ、拙僧の目的はそこな少女のみ。その邪魔をするのであれば残念ではありますがこの手で排除させていただきますぞ」

「簡単にいけると思ったら大間違いメカよ!!」

「フンガー!!!」


バズーカトンファーを構えながら身構えるアーミィとアキラの前に立ちはだかる様に動くオーヴァ。

怪僧はそれに微動だにせず、手に持った錫杖を再び鳴らしながら声を放つ。


「偽魂魄宿りし人形では拙僧には勝てませぬぞ?」

「小生のアーミィを侮れば大火傷ではすまないザマスよ!」


それを合図にアーミィはバズーカを発射。

怪僧に向けて弾頭が打ち出されるもカイテンは特に動じず、錫杖で弾頭を両断する。

左右に分かれて爆散する弾頭と同時にアーミィはバズーカでもある巨大なトンファーを携えた状態で飛び上がり、敵対象に向けて振り下ろす。

しかしカイテンは即座に錫杖を自身の前に構えて一撃を受け止める。

アーミィはそれでもカイテンの頭部に強烈な蹴りを叩き込むも怪僧は特にダメージを受けた様子を見せず、片手で錫杖を奮って彼女を弾き飛ばす。

アーミィはそれでも追撃のバズーカを放とうとするも


「甘いですぞ!!」


その動きを予測していたのかカイテンはその巨体を素早く動かしアーミィの前へと突進してきた。

怪僧はそのままのスピードを伴った錫杖を持った剛腕を振るい、咄嗟に防御したアーミィをバズーカトンファーごと吹き飛ばすのだった。


「ウボァァァァァァァァァ!!!!」


アーミィは衝撃で地面に倒れ伏すも吹き飛ばされたバズーカトンファーが

見事にクリーンヒットしたトミィは断末魔の声を上げながら共にぶっ飛んでいく。


「さて、これで邪魔物はいなくなりましたな」


カイテンはアキラの方へと視線と身体を向き直す。

再び恐怖がアキラの精神と身体を支配しようとしていく

だがしかし、怪僧はすぐさま体勢を身構える。

アキラの目の前に光が集い、それが人の形へと象り始めていったのだ。


「――――あ・・・」


彼女の目の前には黒い出で立ちの戦士と白い装束の魔女が立っていた。


3.


「前にもこんなことがあったな」


アキラに振り向かず、ゴウは目線の先の“敵”を逃さないままにそう答えた。

その姿勢はアキラを守ろうとしていることを彼女は感じ取っている。

あの時もこの前もそうだ。

この人は必ず自分の前に現れて助けてくれる。

それはまるでかつて守れなかったことを悔やむかの様に

アキラはそう感じ取る。

カイテンはおよそまともとは言い難い狂笑の表情を浮かべていた。


「フハハハハハハハハ。よくぞ、よくぞ現れましたぞ!!」


ゴウは険しい表情を浮かべながらカイテンを睨む。


「―――レイアムのヤロウの手の者(モン)か」

「左様、拙僧の名はカイテン。浄界坊・壊典(じょうかいぼう・かいてん)と申す・・・」


そう名乗り終える前に銃声と共にカイテンの頭が激しく上に動き、

身体もその衝撃で若干後ろに下がった。

アキラは視線の方をゴウへと向けると彼は険しい表情のまま右手に構えた黒い大型の拳銃を向け発砲していたのだった。

隣にいたケンは特に反応することもなく、カイテンの方を見ていた。

しばし動きを止めていた怪僧は身体を不気味な震わせをした後、跳ね上がった頭を

勢いで戻すと不敵な笑みを絶やさずにこちらを見やる。


「やれやれ、いきなりこのような仕打ちとは・・・レイアム殿に対する想念を感じますぞ」

「テメェがどんなヤツだろうが関係ねぇ・・・だがアイツとつるんでるなら容赦する理由はねぇ」


険しく鋭い眼光を怪僧に向けたまま、ゴウは言い放つ。

言葉には冷徹なまでの怒りを内包していた。

怪僧はその言葉に高笑いしつつゴウたちを見やる。


「素晴らしいまでの怒り!憎悪と紙一重の如し鋭き刃物の様な鋭利さ!!なるほどなるほどレイアム殿が気に留める理由も納得ですぞ!」

「うるせぇ、わかったような言い方をするんじゃねぇ」

「わかりますとも!そなたはかつての拙僧と同じ!!青く若き力をそのままに表現している!!」


恍惚とした表情と姿勢を見せながらカイテンは狂喜の声を上げる。


「然らば拙僧もあるべき姿にてお相手させていただきますぞ。【機怪神化】!!!」


カイテンの姿は徐々に巨大化していき、その意匠を変容させていく。

その姿は邪悪な観音菩薩と形容させる禍々しい悪しき神の形を成した鋼の獣。

カイテンの歪んだ思想が歪な感情が具現化したもの。


『機怪化神体(イビルマキナ・アバター)【カイラクテン】ここに顕現せり』


巨大な禍々しい異様を持った姿へと変容したカイテンは大地へと降りる。


「今までの機怪化獣とは感じとかが違う・・・?」


その姿を見たアキラは先ほどとは違う恐怖の様な感覚を抱いていた。


「なるほど、今までの“機怪化”とは確かに違うようだな・・・」


ケンの言葉に反応する様にゴウは叫ぶ。


「ケン、こっちもデモンデウスで行くぜ!」

「いいんだな?」


ケンの言葉に一瞬、ゴウはアキラの方へと視線を向ける。

アキラは一瞬ではあるがゴウのこちらを心配する視線を見せていた。

ゴウはそれに気づきながらも敢えて無視して巨大な機械の怪人の方へと向く。


「―――とにかく、あのクソ坊主をなんとかしてからだ」

「わかった。そこのメカ娘たち。おまえの主と共にあの子を頼む」

「了解メカ!!」

「フンガー!」


答えるアーミィとオーヴァの言葉に背にケンとゴウはデモンデウスを呼び出し、

カイラクテン・ドウセツと対峙するのだった。


4.


『ウオリャアアアアアアアアアア!!!!』


対峙した直後にデモンデウスはカイラクテンの顔面に向けて拳を叩き込む

しかし、


『!?』


腕組をして微動だにしてなかったカイラクテンだったが

いつの間にか“腕”がデモンデウスの拳を抑えていた。


『チィ!!』


即座にデモンデウスは身体を素早く捻り、蹴りを叩き込む。

だがその動きも出現していたもう片方の“腕”に掴まれる。


『ファファファ、甘いですぞ!!』


カイラクテンはそう笑いながら生えた二本の腕を振ります。

デモンデウスも拘束から解放できず、一緒に振り回される。


『グゥ!!』

『ヌゥゥゥン!!』


カイラクテンは唸り声を挙げると同時にデモンデウスを大きく投げ飛ばす。

黒い巨大な塊が物凄い速さで街中へと衝突し、その巨体を何回転かさせながら

土煙を激しく立てさせ、街を破壊していく。

デモンデウスは立ち込める土煙の中から大型の2挺拳銃を呼び出すとカイラクテンへ発砲。

立ち上がる巨大な土煙から2つの光が飛び出し、巨大な機怪の観音像に向かっていくも


『無駄ですぞ』


そう答えると巨人の4つの腕に更に腕が現れ、2つの光弾を打ち払う。


「腕が・・・6本に!?」


アキラは驚愕の声を上げる。

カイラクテンの背中には全部で6つの腕が姿を現していた。

観音像を彷彿とさせながらもその威容は邪悪さをこれでもかと醸し出す。


「阿修羅の様な風貌だな」

『かなり邪悪って感じだがな!』

『ファファファ。拙僧の真力はここからですぞ!!!』


そう言うとカイラクテンの周囲に光ともとれる無数の“穴”が開く。

と同時にその穴から無数のカイラクテンの腕と思しき“腕”が

まるで生きているかのように生える様にその姿を現していく。


「フンガー!!」

「更に増えたメカ!?」

「なんとぉー!!機怪化獣、否!機怪化神体とやらはデモンデウス並みに何でも有りザマスかー!?ムキー!!!対抗心が燃えてきたザマスよぉぉぉぉぉぉ!!!」


憤慨するプロフェッサーを余所にデモンデウスは攻めあぐねていた。

亜空間とも言うべきデモンデウスとは異なりながらも“門(ゲート)”から

出てくる無数の怪腕は“今の”デモンデウスの装備では対処は困難を極めていた。


『阿修羅どころじゃねぇな・・・!』

「ある意味での千手観音か」

『だがどれだけ手があろうが全部ぶった切るだけだ!デモンズハーケンッ!!』


そう叫ぶと同時にデモンズハーケンを呼び出したデモンデウスは

カイラクテンの腕を切り落とすべく、振りかざす。

迫る怪腕を切り落としていくもカイテンは余裕を崩さず、


『フハハハハハ!!無駄無駄に候ですぞ!!!』


高笑いを上げながら無数の腕を一斉にデモンデウスを掴みに掛かる。


『チィッ!!!』


カオティックウィングを展開して空へと回避しようとするも一歩遅く、

脚を始めとしてデモンデウスの身体に無数の怪腕が捕らえる。


「しまった!!?」

『ククク・・・捕らえましたぞ!』


その言葉と同時にカイラクテンの無数の腕がデモンデウスを

掴んだまま凄まじい速さで上昇していく。


『グゥゥゥゥゥゥゥゥ!?』

「―――ッ!!」


全体に掛かる重圧がゴウとケンを襲い、二人は苦痛の声を漏らす。

高度にまで上昇した怪腕は突如として引きずり下ろす様に

上昇同様の速さでデモンデウスを急降下させる。


『獄・烙・鏖・浄(ごくらくおうじょう)!!』


凄まじい速さでそのままデモンデウスを地面へと投げ飛ばし、

地面へと激しく叩き付け再び巻き上がった激しい土煙にデモンデウスは飲み込まれる。


『ガハッ!!!?』

「――――ッ!!」


激しい衝撃が内部にいるケンにまで伝わる。

全身に広がる痛みはすぐに消えたが衝撃による痺れはすぐには消えず、

しばし倒れ伏すこととなる。


「デモンデウスが!」


アキラの悲痛な声が漏れる。

プロフェッサー・トミィは全身で憤りを露にする。


「ええーい、何をやっているのでザマスか!それでも小生のライバルではあるまいに!!うぉぉぉぉれぇぇぇ!!!このような時にアイアンジャスティスの修復と改良が済んでないことが悔やまれるザマスよー!!!」

「ダーリン、負けるなメカ!」

「フンガー!!」


アキラは悲痛な表情を浮かべながらもそれを逸らすことはせず、

倒れ伏しているデモンデウスをジッと見守るのであった。


(負けないで・・・!)


5.


『―――ケン。大丈夫か?』


ケンは崩した身体の体勢を戻しながらゴウの言葉に返答する。


「フン、この程度でどうにかなるほど私は碌な生き方をしていない。それよりもいつまで寝っ転がっているつもりだ?おまえこそ、そこまで軟弱だったか?」

『―――うるせぇが減らず口叩けるのなら問題ないみてぇだな』

「お互いにな」


姿勢を戻しながらケンはフッと笑みを零す。

とはいえ、状況は芳しくない。

相手はレイアム程ではないがその強さはザコレベルとも言える機怪化獣とは比べるまでもない。

特に厄介なのは周囲から出現する無数の伸びる怪腕だった。

強度もさることながら一気に複数迫るあの腕をチマチマと迎撃するのは分が悪い。

“ヘルハウンド”では対処が追いつけず、かといって“デモンズハーケン”は

ただ斬ってるだけでは競り負けるだけだ。

今のままでは確実にこちらに勝機は薄い。

“無量大数と圧倒的な火力”を一気に叩き込まなければいけない。

しばしの思考の後、デモンデウスたるゴウはケンに言葉を投げる。


『ケン。今の俺ならできるか?』

「―――今のままなら消耗も激しいが出来なくはないだろう。というよりも

それしか手は無さそうだな・・・」

『―――よし』


決意を固めた声を漏らしながらデモンデウスは起き上がる。


黒い巨人の立ち上がりに邪悪な観音像は邪悪な嘲笑を漏らす。


『ファファファ、そうでなくては面白くはないというものですな!!』

『―――余裕こいているのも今の内だぜクソ坊主・・・!!』


カイラクテンにそう言いながらデモンデウスは立ち上がると

同時にバイザーの奥の瞳をギンッと輝かせる。


『“開紋(オープンゲート)!!”』


そう言いながら左手の近くに出現した“門(ゲート)”から

デモンデウスは巨大なあるものを取り出す。

それは巨大なガトリングガンだ。

だが現実のガトリングガンではない。

無数の回転砲塔がそびえ立った荒唐無稽という言葉が

似合う程のガトリングガンという名の機関砲の化け物だった。


『インフェルノバルカン!!!』


左手一本から保持した巨大な無数の砲塔を生やした機関砲は

同時に回転を始めると同時に激しい轟音を鳴らしながら、火花と閃光と硝煙を

吹き出しながら無数の弾丸を高速で撃ち出していく。


『ヌゥ!?』


尋常ではない弾幕に焦りの色を混ぜた呻きを上げるカイラクテンは

迎撃の為に無数の腕を打ち出していく。

しかし、それを意に介さずデモンデウスは異形のガトリング砲を打ち続けた。

地獄の業火の如く発射された無数の弾丸は難なくカイラクテンの無数の怪腕諸共撃砕していく。


『ヌオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!?』


凄まじいの弾丸の嵐に耐え切れず、驚愕の叫びを上げながらカイラクテンは

舞い上がる硝煙の中に沈む。

完全に姿が見えなくなったのもあってか無数の砲塔を停止させるデモンデウス。

だが警戒は解かずに多連装の砲塔は向けたままその様子を見届ける。


『やったか?』

「―――いや」


短い返答でゴウの問いに答えるケンに反応する様に周囲に笑い声が木霊する。


『フハハハハハハハハ!お見事で候。此度は拙僧の負けにござりまする。

しかし、今回が拙僧の全てではござりませぬ故、次回においてはこの全力を

持ってお相手させていただきますぞ!!フハハハハハハハハ!!!』


邪悪な笑い声はそのまま消え去った。

勝利はしたもののデモンデウスはずっと虚空に顔を向けていた。

少なくともその顔には今だ険しさを抱かせる様子をアキラは感じていた。


「終わったザマスな」

「フンガー」


プロフェッサーとオーヴァは続け様にそう言葉を吐く。

アーミィは何故かエッヘンといったポーズでふんぞり返る仕草をしている。

そんな中、アキラは不安な様子の表情を浮かべたまま、デモンデウスを見ていた。

デモンデウスは光の粒子となってその身体を消滅させていく足元に

ゴウの身体を構成させていき、その隣にケンが連なって立っていた。


ふとゴウとアキラの視線が自然と重なった。

以前から色々とあったこともあってかどう接すればいいのかわからず

不意に視線を逸らし掛けたのだが


「大丈夫か」


ふとゴウからそんな言葉を掛けられた。

それは今までの様な他人としての接し方ではなく、どこか【仲間】か【身内】の

様にこちらの身を案じるかの様な安心を感じさせるものだった。

それもあってか彼女の身体は急に震えて


「―――フ・・・ウェェェェェェェェ・・・ッ!!!」


緊張の糸がプツリと途切れたのか彼女から滝の様な涙が溢れ出すと

同時に大声で泣き始めてしまった。


「なっ、なんでいきなり泣き出してんだよ!?」

「あーあ、泣かしたメカ」

「フンガー・・・」

「このような可憐な少女を泣かすとはなんたる男ザマスかね・・・」

「お、おい俺のせいかよ!?」

「おまえの無愛想で威圧的な顔のせいだろうな」

「ケン、テメェもか!!」


周囲からの冷たい反応にゴウは慌てる様子を見せアキラは

なおも泣き止まない状態が続き、


「―――俺は悪くねぇぇぇぇぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?」


と虚しく空に向けて絶叫を上げるしかなかったのであった。

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