お仕事を終えて疲れきっている体と心を回復させるべく、主人公の麓郎さんは不思議なコンビニ「ルリエーマート」でコンビニ飯を求める。
そのコンビニチェーンでは、どこの店舗に行っても、必ず本物の「クトゥルフお母さん」が出迎えてくれる。麗しいお母さんの姿を拝み言葉を交わせば、それだけでも麓郎さんは癒される。そしてお母さんが、すっかり疲弊している彼にふさわしいお勧めの一品を選んでくれる。
コンビニ飯を買って帰宅した麓郎さんは、それをお酒と一緒に楽しみ至上に近い満足感を得る。たまにはお酒のチョイスや飲み方をミスるような、お約束的展開があったりもするし、あるいはお酒以外を飲む場合もある。
ほとんどは普通のコンビニでも手に入るような大衆的料理のはずが、いつも食べた後になってから、とんでもない食材を使って作られていたのだと麓郎さんは知る。だがしかし、それが判ったとき既に彼は滅亡に向かって突き進んでいる。
各話とも必ず主人公に死亡が待っている食レポは他にあっただろうか。クトゥルフ神話が融合されたグルメなホラー系エンタメ小説だからこそ、この妙味が実現できたのだろう。
ややこしい話は抜きにするとして、とにかく目次から好きな料理名をどれか選び、そこから読んでみれば、この小説の面白さがすぐ判ります。クトゥルフ神話を知っていても知らなくても、楽しめる作品なのです。
それはどこにでもある食堂で、とっても美味しいご飯を売っている――とだけ書けば、グルメレポートのお話なんだなと思われますが、ひと味ちがいます。
だって――クトゥルフお母さんが女将なんだから。
クトゥルフ×ご飯という、有り得ない組み合わせが今、ここに。
主人公・麓郎と共に、そのご飯をかき込むように食べてみよう。
そしてその麓郎が最期まで書き込む、レポートを読んでみよう。
きっと――病みつきになること請け合いですよ。
毎回の「ご飯」の魅力の紹介、そしてその食し方は、読む者をして癖になるくらい、胃袋に訴える活写です。
そして、そこから――今や様式美に等しい、その「ご飯」の食材に、麓郎が食される様は、読む者をして心胆寒からしめます。面白いけど。
さあ、あなたもクトゥルフお母さん食堂に逝ってみませんか?
今回読者諸兄に紹介するのは、あのクトゥルフ神話を食レポにしてしまった問題作……いや、意欲作である。
クトゥルフ神話を知らなくても全く問題ないが、知っていればそれだけニヤニヤ出来るので、神話ファンの皆様には是非ともお勧めしたい。
本作品の内容は主人公であるフリーライターの『麓郎(ろくろう)』が、仕事終わりや仕事の合間に、コンビニであるルリエーマート内のクトゥルフお母さん食堂でご飯を購入し、自室で食する。
そしてクトゥルフ神話の例にもれずと言った所なのか、麓郎が毎回酷い死にざまを晒す。
ただそれだけである。
だがそれがスゴイのである。
先ず毎回の食レポの内容が素晴らしい。
味、香り、見た目、食感、食事の際の音、それらが克明に描写され、読者の五感を容赦なく刺激してくる。
又、食べ物の描写に隠れがちだが、各種飲み物(だいたい酒類)の存在も食事にアクセントを加えており、心地良い酩酊感を与えてくれる。
そして、食事が終わった後はお楽しみの『神話タイム』だ。
ここで登場する神話生物と主人公の死に様が実にバリエーション豊か。
ただキワドイだけではない。
各エピソード毎に、テーマになっている神話生物由来の死に様を晒すので、クトゥルフ神話のヘビーファンにも説得力がある。
全体的としてはブラックコメディの範疇に入るのだろうが、各回を読み進めていく毎に少しづつ明かされる作品世界のバックボーンや主人公の秘密。
それら暗澹たる隠し味が、この作品を只のスプラッタからコズミックホラーへと昇華させている事は間違いない。
そこの匙加減が作者の妙技と言えるだろう。
繰り返すが、本作品はクトゥルフ神話経験者、未経験者問わず楽しめる作品である。
最後に、この作品を切っ掛けにして、一人でも多くのクトゥルー神話ファンが生まれることを願って……
乾杯……じゃなくて、頂きまーす!
あ~食べた食べた。
もう満腹だ。
幸せいっぱいだ~。
……、……あれ、何か腹が痛いな。
……うん? このニュルニュルしたの何だ? どっから出てる?
……そうか触手か! これが触手って奴か! え? ……触手⁉
巷で有名なルリエーマート。
クトゥルフお母さんが経営するステキな食堂だ。
キミ達の街でも見かけたことがあるんじゃないか?
まだ入ったことが無いと言うなら一度は足を運ぶことをお勧めする。
どの店でも何時も優しいクトゥルフお母さんが出迎えてくれる。
惣菜から冷凍食品にいたるまで、どんな高級店でも仕入れることの出来ない食材で造られた様々な料理にはクトゥルフお母さんの愛が込められている事がヒシヒシと伝わるだろう。
あまりの品揃えに目移りして困ってしまったらクトゥルフお母さんに相談してみよう。
キミがその時、本当に食べたかった料理を選んでくれるのだから。
素晴らしい食材で造られた食事に舌鼓すること請け合いだ。
――そして。
必ず新しい自分に生まれ変わる事をキミは知るのだ。
ここの所、食に対してあまり積極的になれず、空腹が訪れる前に適当に詰め込み美味しさも感じない状態でした。
この小説は減退した食欲を取り戻してくれます。欲張って一日にたくさん読むよりも、自分の食事と同じサイクルで楽しみたい作品です。一話の満足感がすごいのです。食事のサイクルに合わせてと言いましたが、胃袋がこちらに引っ張られそうです。真夜中なのにお腹が空いてしまいました。
以下、一話読了時のレビューです。
これは単なる飯テロではありません。こんなにハラハラする食レポは初めてでした。途中で読者は気が気じゃ無くなってくるのに、主人公はお総菜に夢中。食に対する情熱を感じました。
以下、最終話読了時のレビューです。
一話でも死ぬ、二話でも死ぬ。いったいどういうこと? すごく気になりますよね。これからずっと、彼は死に続けるの?
百話? 二百話? 千話まで? 私も首をかしげながら読んでおりました。しかし、このクトゥルフお母さん食堂は五十と数話で完結します。気になりませんか? かといって、いきなり最終話を読むのは早計です。ぜひ、ラストに至るまでのプロセスを追っていって欲しいと思います。個人的には空腹時、食欲不振時、食べ過ぎ時に一~数話ずつ読まれるのがおすすめです。もちろん一気読みもあり!
駆け出しのライターである麓郎は原稿を書きあげれば慰労の意味を込めて酒とつまみを買ってきて祝杯を挙げ、仕事でヘマをすれば酒とつまみを買って憂さ晴らしのヤケ酒をする。そしてどちらのケースでも麓郎が利用するコンビニが、クトゥルフお母さんが働くルリエーマート……うーん、既にろくな予感がしない。
この麓郎、毎回イカ焼きや山羊のチーズなど怪しいものを買ってきては食レポをするのだが、ライターを職業にしているだけあって食レポが非常に上手いのである。描写がいちいち丁寧で、コンビニグルメという身近な題材だけあってその味や食感が自然と伝わってきてついつい読んでいるこちらまでお腹が減ってしまう。そしてその巧みな語り口を維持したまま、食後の自身の身体に起きている異変を詳細に伝えて無惨に死んでいく……。例外はない。
毎回とても美味そうな食レポのあとに、神話生物によるグロテスクな人体損壊描写という死にレポが続くせいで、読み終わった後、どんな顔をすればいいのかわからなくなってしまう短編集。
この奇妙な作品に関して言えることは一つ、毎回麓郎にオススメ商品を教えてくれるクトゥルフお母さんが妙に可愛らしいということだけだ。
(「カクヨムで読める冒涜的なクトゥルフ特集」4選/文=柿崎 憲)
私のようなクトゥルフ・ビギナーにも楽しめる(これ、重要!)連作です。
読者は主人公の麓郎くんと一緒に、まずはいつものマートでお買い物。話数を重ねるごとになぜかどんどん可愛くなっていくお母さんとの会話を楽しみ、いざ食レポへ。
「これがどのメニューも、とっても美味しそうなんですよねぇ(よだれ)」
作者様の筆力にグイグイ引っ張られ、ひたすら美味しそうで美味しそうで♡ クトゥルフのことなんか一時どこかへいってしまいます。ハッと我に返って物語に漂う黒く怪しい霧を思い出すのは、ラストへ向けてのとんでもない展開に突入してから。ブラック・コメディやホラーが好きな方なら、きっと誰でも楽しめます。
小説や漫画やアニメで、あなたも知らないうちに触れているかもしれないクトゥルフ神話。この作品をきっかけに、改めてご本体を覗いてみるのもいいかもしれません。そうそう。『文豪ストレイドッグス』に出てきたクトゥルフの生みの親、ラヴクラフト氏はなかなか良い雰囲気でしたね。