ブルーブルーブルー
オレンジ
第1話 はじまり
僕という人間が光だと言ってくれた人がいた。
希望だと、支えだと。
だけど、僕には分からないんだ。
何故だろう、僕にはわからないだ。
ただ、分かっている事は、今が混沌で、曖昧で、自我が確立していないと言うこと。
ここがどこで、今日がいつで、朝なのか夜なのか、僕には答えられないと言うこと。
囚われているわけではない。
だけど、自由は全くない。
きっと、僕は、ここから出なければいけない。
それだけは、ココロが叫ぶんだ。
ココロが絶叫しているんだ。
誰か、僕を見つけてほしい。
僕の手を握ってほしいよ。
朝からひっきりなしに、アラームがなる。
誰かが椅子から飛び上がり、足早にかけて行く。
自分にも、もしかしたらその瞬間が訪れるかもしれないが、今は折角入れたコーヒーと昨日から食べれていない、菓子パンを口の中に放り込みたい。
周りに気を使いながら、小さな音でコーヒーをすすると、菓子パンの縁に手をかけた。
「先生、救急の患者が急変しました。」
緊張した声が部屋中に響く。
発した人物は明らかに自分を見ていた。
やはり食べれそうにはないな。
明日で、賞味期限は過ぎるが、帰るまでに食べられるだろうか?
菓子パンを机の引き出しにしまうと、呼んだ相手に頷く。
この部屋から出た時点で、戦いが始まる。
大きく息を吸うと、眼鏡を手で少し押し上げた。
「先生!」
もう一度緊張をはらんだ声が自分を呼ぶ。
「今、行く。」
自分もまた、足早に部屋を出るのだ。
いつもの日常。
退屈な1日が終わろうしている。
カバンを片付けながら時計を見た。
きっと、帰っても誰もいない。
小さくため息が出た。
その時、後ろからいきなり抱きつかれた。
「ため息はダメだぞ。」
一緒のクラスになってから、仲良くなった片桐麻美が腕を絡ませてくる。
「分かってる。幸せが逃げるっていうものね。」
なぜか、頭をヨシヨシされながら、
「よろしい。何よ、何かあったなら、私にいいなさい。助言を授けよう。」
よく分からないが、ブッダの様に、両手で拝むポーズを取っている。
まだ、友人になってから、日が浅い。
自分の家庭環境を話すには、躊躇われた。
私こと朝田優香は、高校2年生で、一応進学高校に通っている。
私は一人っ子で、親は医療従事者だ。
父親は医者、母親は看護師をしている。
いわゆる職場結婚でゴールインした夫婦だ。
両親ともに忙しく、中々家族で揃う事はないのだが、今までは、おばあちゃんちが近く、そのまま泊まったりしていたので、寂しいと思った事はなかった。
しかし、今は、そのおばあちゃんがいない。私もなんだかんだで、高校生だ。
身の回りの事くらいは出来る。
出来るのだが、やはり甘えられる人間がいるかいないかは大きい。
「何、言えない事。好きな人でも出来た?それなら、言ってよ。」
的外れの事だが、曖昧に返事をしておいた。勿論、私とて人並に彼氏は欲しい。
ただ、そういう感情は、その内、自然にやってくるものだと思っている。
「なになに、誰よ。私がとことん聞いてしんぜよう。優香、カラオケにでも行く?」
私は苦笑いしながら、
「今はダメでしょう。学校からも言われてる。部活がないのだって、コロナが流行ってるせいなんだから。素直に帰るわよ。」
「つまんないなぁ、つまんないけど、仕方ないか。私の家はおばあちゃんと同居だし、絶対コロナにかかっちゃダメよ、って言われるんだけど、そんなの分からないよね?」
溜息をついている麻美を見ながら、
「ほら、帰るよ。麻美も鞄、持って来て。」
「はーい。」
少し拗ねた様に返事をするが、本人もどうにもならない事は分かっている。
自分の両親もまた、帰れないのは、そのせいもある。
だからこそ、自分も我儘は言えないのだ。
なぜ、こんな事になったのか?
1人の人間から全世界に広がるウイルス。
そんなものは、漫画の世界だけで、十分だ。また、元の生活に戻りたい。母のアップルパイが食べたい。
重たい足取りで、今日も誰もいない家に帰るのだ。
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