第15話 ブルーブルーブルー

 大勢の顔を思い出す。

 嬉しい顔、驚いた顔、はにかんだ顔、くしゃくしゃな顔、溢れるほどの涙、そして一番好きなのは、目尻が出るほどの優しい笑顔。

 この空の下、どれだけの人が笑顔でいてくれるのか?

 悲しい涙は嫌だ。

 苦しい涙も嫌だ。

 人が泣いていると自分も泣きたくなる。

 ねぇ、この青空は届けてくれるかな?

 たくさんの人に届いてくれるかな?

 僕は「チカラ」。

 僕は、歌を歌う。

 僕は、ぼくは、生きている!

 さぁ、始めよう明日への歌を!

 さぁ、歌おう、どうかどうかこれ以上の悲しみがないように。

 僕を光だと言ってくれた、みんなのために。

 僕は歌う。

 この青空に向かって、この青空を見ているみんなに届け!

 


 額が擦り合う。

 お互いに「ふふっ」、笑いながら優しい朝を迎える。

 「おはよう、佳奈」

 額にキスを落とす。

 「おはよう、私のいい人。」

 カーテンを開けると、窓の外は青空が広がっている。



 「冒険だぁー!」

 その言葉を聞くと、ぼくはワクワクする。

 よういち君のベッドの側で、キラキラしたよういち君の顔を見ただけで、ぼくの頬は緩みっぱなしになってしまう。

 「りくと、約束。元気になったら、ようこ先生を困らせるくらい冒険しような。」

 「うん、困らせようね!」

 よういち君、よういち君、ぼくはよういち君が大好きだよ。

 今度は、青空の下で思いっきり遊ぼうね。



 学校のお昼休み。

 麻美の様子が変だ。

 こそこそとお弁当箱を開けると、蓋をこちらに向けたまま、中身が見えないように食べている。

 その様子をじっーと見ていると、麻美が決まり悪そうに、

 「優香、あんまり見ないでよ。」

 なぜか少し赤くなる。

 「なら、なぜコソコソしてるのか教えなさいよ!」

 「別にコソコソなんて。」

 「あっ、重道君。」

 「えっ!」

 重道達也は隣のクラスのモテ男だ。

 顔良し、性格良し、バスケ部の時期エースとくれば、女子ならお近づきになりたい男子だ。

 麻美もその1人だけど、こんな古典的な方法でまだ騙されるんだね。

 すかさず麻美のお弁当を見た。

 「あっ!」

 隠そうとするがもう遅い。

 白いご飯に、形の崩れた卵焼き、ウィンナーは蛸にならず不恰好な形で焦げている、後は冷凍の揚げ物が入っていた。

 「麻美、野菜がないよ?」

 目の前で真っ赤になっている麻美に、笑わないように口元を押さえながら言うと、

 「何よ、笑いたきゃ笑えばいいじゃない。野菜なんて、若者にはいらないの!」

 少し不貞腐れたように言う麻美は、何だか可愛く新鮮だ。

 よって、抑えていたものを吐き出す。

 「あはははっ、もうダメ。麻美、何だか可愛いよ。どうしたの、そのお弁当。パン派だったんじゃないの?」

 まだ、顔がにやにやするも、目の前でいじけている麻美を見ると、これ以上笑うと後が怖い。

 「・・・自分で作ったの。卵焼き、包む前に焦げちゃって、同時進行で蛸さんウィンナーを焼いてたんだけど、卵焼きにてまどってたらこっちも焦げて、もう散々。時間無くなって冷凍をチンしたの。パンは、バランスが悪くてよけいに太るような気がしてやめたの。」

 私がクスリと笑うと、

 「もういいでしょう!ほら、食べよ、時間無くなるじゃない!」

 そう言って、卵焼きを食べながら、うぇ、変な声を出している。

 目の前の友人の優しさに思わず癒される。

 何だかんだ言って、おばあちゃんが大好きなんじゃない。

 まだ退院してないおばあちゃんに、お弁当作って持っていってるの、報告したいんだよね。

 麻美が、不味いと言いながら、どこか楽しそうに食べている姿に、私もおばあちゃんに報告しに行こうと思った。

 大切な友達が出来たんだよ、毎日楽しくやってるからね、私は大丈夫、お父さんもお母さんも病院で頑張ってるよ、たくさんたくさん話をしたい。

 その時、教室のスピーカーから歌が流れてきた。

 麻美と目が合う。

 私も麻美も大好きな曲。

 空の青さを思い出し、海の広さを感じさせ、爽やかな風のように耳に心地よい。

 「チカラの歌だね。」

 私も顔を緩ませながら頷く。

 「ブルーブルーブルー。」



 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブルーブルーブルー オレンジ @nakasublue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ