第7話 願い

ねぇ、ぼくに、なにかできる?

ぼくはどうしたらいい?

あのね、なみだが、目からかってに出てくるの。

胸がね、かってにイタくなるんだ。

手をいっぱいに開いて、両手でつよくにぎる。

ほんとは夜なんて、くらくて、こわくて大キライだけど、でも絵本に書いてあったから。

お星さまが、願いを叶えてくれるって。

だから、なんどもなんどもお願いする。

ぼくの友だちをどうか助けてあげて!



 一ページめくる。

 天使の絵が出てきた。

 ようこ先生に聞いたら、これは神様のお使いなんだって。

 よういち君にも教えてあげたら、死んだら天使が迎えに来てくれるんだよって、教えてくれた。

 よういち君は物知りなんだ。

 たくさん絵本も読んでるし、ようこ先生にいつも質問してる。

 ぼくは、まだまだ上手く読めない。

 もっと大きくなったら、たくさん勉強して、本もたくさん読むんだ。

 よういち君がぼくに言う、

 「りくと、こんな綺麗な天使が来てくれるんなら、死ぬのはこわくないよな。」

 ぼくをまっすぐ見て言う、よういち君。

 でもぼくには答えられなかった。

 死ぬってことがわからないし、綺麗な天使も本の中だけだもの。

 こんど、お母さんに聞いてみるよ。

 ぼくのお母さんは、人を死なせないように頑張ってるんだ。



 「りくとは将来、何になりたい?」

 よういち君が聞いてくる。

 ぼくは絵本を見ながら、絵本の中にあるページを指さした。

 よういち君は覗き込みながら、笑った。

 「りくとはカッコいいな。なら、俺になんかあった時は助けてくれよ。こんな風にさ。」

 よういち君も絵本を指さす。

 そこには、片手を上げ、みんなの真ん中にカッコよく立っているヒーローがいた。 

 「分かった。必ず助けに行くよ。」

 えへへ、笑い合いながら拳を当てた。



 ここはどこ?

 白い天井を見上げ、両眼を左右に動かす。

 ベッドにいる。

 鼻にはチューブがつけてあり、腕には点滴用の針が刺さっていた。

 (私、注射ダメなのに)

 ぼやけていた頭が、覚醒する。

 (そうか、病院だ)

 自分がコロナの陽性者で、自宅待機中、高熱が出て救急搬送されたのだ。

 体を少し動かしてみた。

 大丈夫。

 息も思いっきり吸ってみる。

 少し楽な気がする。

 前髪が額にくっつき、気持ち悪いが、だんだん視界がぼやけてくるのが分かった。

 「助けてくれてありがとう。」

 誰もいない病室で、涙が溢れるままに任せた。



 ようこ先生はいつもニコニコしている。

 ぼくやよういち君がイタズラしたって、怒らないんだ。

 この前は、ようこ先生のスカート2人でめくったの。

 お母さんもそうどけど、ヒラヒラしたスカートって、覗きたくなっちゃうよね。

 よういち君に言ったら、許してもらえるのは今だけなんだよって。

 大きくなって、そんな事したら、お巡りさんに捕まるんだってさ。

 つまんないよね。

 「よういち君、今日は何して遊ぶの?」

 よういち君はぼくに、しーと口に人差し指を立てると、手招きをする。

 「今日は探検に行こうぜ。」

 「ダメだよ、ここにいないと、ようこ先生が困っちゃう。」

 「少しだけ、ようこ先生!俺とりくと、トイレに行くね。」

 ようこ先生がこちらを向くと、

 「一緒に行くから待ってて。さち先生、お願いします。」

 もう一人の先生に言うと、

 「大丈夫だよ。すぐそこじゃん!漏れそうだから行くね。」

 僕の手を素早く握ると、扉から出て行く。

 後ろで、ようこ先生が、

 「待ちなさい!」

 呼んでいるのが聞こえた。



 「脱出成功‼︎」

 ニヤリと笑う、よういち君。

 僕はビビリなので、笑い方が変になっちゃった。

 「どうするの?」

 「だから、探検さ。」

 そう言って、ズカズカ歩き出す。

 「りくと。俺、手術ってやつ、しないといけないんだって。母さんには、平気だって言ったんだけど、やっぱり怖いや。」

 「手術って何?」

 僕には分からない。

 聞くと、よういち君が悲しそうに、

 「勇気がいることをするんだ。応援してくれ。だから今日くらいは、好きにしたっていいだろう?」

 「うん。僕、よういち君が好きだもん。一緒に探検しよう。」

 2人で手を繋いで、笑った。

 ブンブン腕を振りながら、よういち君を見る。

 まだまだ一緒にいたい。

 いっぱい遊んでよね、よういち君。

 もう一度、力強く手を握りしめた。

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