第6話 笑顔

私が好きなのは、パスタ。

好きな飲み物は、微糖のコーヒー。

朝は、ご飯よりパン派。

だから、お弁当はサンドイッチがいいの。

子供っぽいものは、ダサいから嫌い。

もう私の好きなものは変わったの。

いつまでも、子供扱いしないで!

いい加減わかってよ、おばあちゃん。


 

 「優香のお弁当、美味しそう。」

 麻美がお弁当を覗き込んでくる。

 今は、お昼休み。

 学校の教室で、向かい合ってご飯を食べているのだが、ミニトマトを手で摘んで口に入れようとした時にいきなり顔が近づいてきた。

 少し体を引きながら、ミニトマトを片手に持ち、自分のお弁当をあらためて見た。

 卵焼き、少し焦げている。後は、豚肉の甘辛炒めにミニトマト2個。

 しみじみと、普通だ。

 「美味しそうだよ。卵焼きは、不恰好だけど愛情を感じる。特にトマト。」

「トマト⁈」

 なぜ、トマトなのだろう?

 家庭菜園をしているわけでもなく、スーパーで買ってきたものだ。

 「ふふん、まず色艶がいい。そして、ほら、おしりから白い線が伸びているように見えるじゃない。これがいいの!」

 物知りでしょう、みたいに言うが、当たり前なのでは?

 「優香、その、だから?みたいな顔はやめて。大事な事だよ。ちゃんとスーパーで選んだって事じゃない。お母さんが買ってきたんじゃないの?」

 「そうだけど。」

 忙しい母がそこまで考えているだろうか?

 黙っていると、

 「愛されてるねー。前は私も買い物に良く付いて行ってたから、食材の良し悪しが分かるの。今は、コレ。」

 自分の目の前で、購買で買ったパンとジュースを持ち上げる。

 「お母さんは看護師だから、お弁当は作れないんだ。両親共に共稼ぎで。」

 ガクッと首を落とす麻美は、そうはいいつつも、美味しそうにパンを食べている。

 そうか、麻美のお母さんも看護師なんだ。

 初めて、目の前の友人の家庭事情を聞き、少し胸が疼く。

 お弁当は、母が作ってくれる。

 夜勤明けだろうが、早番だろうが、おばあちゃんがいなくなってからは、作ってくれるようになった。 

 「麻美は、おばあちゃんがいるんじゃなかった?」

 前に話した時、そのような事を言っていた気がする。

 麻美は少し目線を外し、

 「うん、まあ、そうなんど。ほら、もう好みが違うじゃない?それに、おばあちゃんに作って貰ったって、なんかダサいっていうか。なら、パンで十分。」

 ダサいかなぁ。

 私はおばあちゃんっ子だったので、そんな風に思った事がない。

 「私の事はいいんだって、それよりも今日やった小テスト、優香は数学出来るじゃない。後で教えてよ。来年は私達も受験生なんだから。」

 高校2年生の自分達としては、来年は勝負の年だ。

 実は、まだどこの大学に行くか決めていない。麻美は決めたのだろうか?

 麻美の手首に、違和感を感じ、目線を落とす。

 制服のボタンが少し青みがかった糸でしっかり縫いつけてあった。

 目線に気づいたのか、麻美が少し恥ずかしそうに、

 「おばあちゃんが縫ってくれたの。ちょうど黒の糸が無かったんだって。自分でやるって言ったんだけど。」

 なぜか、嫌でしょう、みたいな言い方をする。

 「良かったね。凄い上手くつけてある。羨ましい。私も母も裁縫は大の苦手だもん。」

 「そうかな、恥ずかしいんだけど。」

 「凄くいい。」

 力強く言うと、照れ笑いだけど笑顔になった。

 「なんだか、おばあちゃんと昔みたいに上手く話せないんだ。ダイエットしてるのに、油っこいもの作ったり、いらないっていうのに、ケーキ買ってきたり、体型維持も大変なんだから。」

 なるほど。

 「今朝も、購買のパンじゃ、栄養が足りないからって、お弁当を持たせようとするの。要らないっていうのに、だから、持って来なかった。」

 「おばあちゃん、泣いてるよぉ。」

 少し意地悪く言うと、

 「私の体型も泣きそうなの。」

 頬を膨らませて言うも、苦笑いしている。

 自分でも、悪いとは思ってるんだ。

 口許が緩む。

 それを見て、麻美もくしゃっと笑顔になった。


 

 

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