第9話 叫び

なんで泣いてるんだい。

わたしが何かしたのかい?

それとも、誰かにイジメられたの?

それなら、おばあちゃんに言いなさい。

とっちめてやるんだから!

どうしたんだい?

もう泣くのはおやめ。

わたしまで、悲しくなってくる。

さっきから、顔に雨が降ってくるんだよ。

どうしてだろうねぇ。

お前は、濡れてないかい?

傘は持った?

もう泣くのはおやめ。

おばあちゃんが、お前を守ってあげるから。



 また、喧嘩してしまった。

 最近、いつもそうだ。

 顔を合わせると気まずくなる。

 なぜだろう?

 昔は大好きだったのに。

 いると落ち着く、話すと心が軽くなる、笑っている顔をみると、自分も笑顔になる。

 今は全部が反対になった。

 いるとイライラする、話すのが億劫、悲しそうに笑う顔は見たくない。

 今日も、お父さんとお母さんは仕事から帰って来ない。

 今日は弟の弘樹も友達の家。

 だから、家には、私とおばあちゃんだけ。

 (おばあちゃんはキライ?)

 ううん、そんな事ない。

 (なら何で喧嘩になるの?)

 だって、おばあちゃんがいろいろ言うから。

 (いろいろって?)

 友達はできたかい?学校ではどんなことをしてるんだい?お昼はパンよりお弁当を食べなさい!それじゃ、栄養が足りないだろう?あーちゃん、いい加減にお風呂に入りなさい!携帯も食べてる時はダメだよ。

 (それで喧嘩になったの?おばあちゃんは間違ってる?)

 自分で自問自答しているけど、いつも答えはおなじ。

 おばあちゃんは間違ってない。

 だけど麻美だからって、子供を呼ぶみたいに、あーちゃんて呼ばれるのはもうイヤだし、携帯の事だって言われたくない。

 おばあちゃんには分からないんだ。

 まだガラケーだもの。

 そう思いながら、先程喧嘩した時の悲しそうな顔が浮かぶ。

 せっかく用意してくれた晩御飯を半分も食べなかった。

 おばあちゃんが、「あーちゃんの好きな物を作ったんだよ。」そう言って、ハンバーグが食卓に置いてあった。

 「おばあちゃん、またハンバーグを作ったの?私の好みは変わったの!それに、2人しかいないのに、こんなに作らないでよ。言ったでしょう、今、ダイエットしてるんだから!それに制服のボタン、友達に変だって言われた。私のに触らないでよ!」

 御飯もそこそこに、部屋に逃げ込んでしまった。最後のボタンのくだりは、勢いに任せた酷い言葉だ。

 優香に褒められたのになぁ。

 おばあちゃんの悲しそうな顔が頭にこびりつく。

 枕を抱きながら、ベッドにうつ伏せになった。

 どうしてこうも上手くいかないんだろう。



 あーちゃんに嫌われちゃったな。

 洗面所の鏡を見ながら、目を擦ったせいか、少し腫れぼったい目を触る。

 昔は素直でいい子だった。

 ハンバーグが大好きで、嘘のつけない子だった。

 今は、分からない。

 だからいろいろ聞いてしまう。

 彼女の言葉でいう、ウザいのだろう。

 息子からは、思春期の難しい時期なんだから放っておけと言われた。

 でもね、あーちゃん。

 おばあちゃんは、あなたが大好きなの。

 これは永遠に変わらないんだよ。

 鏡に微笑むも、口でしか笑えない。

 あーちゃん、また楽しく心から笑いたいねぇ。

 ああ、どうしたらいいんだろう。

 何だか、頭が痛くなってきたよ。

 痛い場所を触ると、少し抑えてみた。

 軽く頭を振ると、体から崩れ落ちた。

 どうしたんだろうねぇ。

 (あーちゃん、ごめんね。)



 言霊があったと、あの時も今も信じている。

 だって、おばあちゃんが呼んだんだ。

 (あーちゃん、あーちゃん、ごめんなさい。)

 そう聞こえたの。

 だから、ベッドから転げ落ちると階段を駆けおりた。

 「おばあちゃん!」

 返事がない。

 おばあちゃんの部屋に行き、リビング、そして、洗面所へ。

 「おばあちゃん!!おばあちゃん!!返事してよ、おばあちゃん!!」

 青ざめた顔には、血の気がない。

 「誰か、おばあちゃんを助けてー!」

 叫びは発狂に、絶叫になる。

 「救急車だ。」

 母親にいつも言われている。

 『勉強は見てあげれないけど、病気は治してあげられる。何かあったら、救急車を呼んでお母さんの病院に来なさい。必ず、治してあげるから。』

 豪快に笑いながら言うのだ。

 「お母さん、おばあちゃんを助けて!」

 携帯に手を伸ばし、祈りながら番号を入力した。

 涙を流していただろう、おばあちゃんの顔を見て、自分も涙を流す。

 (ごめんね、おばあちゃん、ごめん。)

 おばあちゃんの顔に、涙の粒が広がっていく。

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