第二十話 初めての戦闘
トレントを発見した。まだ少し距離がるためまだ気づいていないが、俺たちも攻撃を仕掛けることが出来ない。距離にして六十メートル。遠くもないが近くもない。魔法での攻撃をするなら後二十メートルは近づいておきたい。俺の戦い方なら剣で一撃で倒すのだが、今回はヒストリアに魔法を使った戦い方を見せるのが目的のために距離をとる。
じりじりと、距離を詰めていく。
「お兄ちゃん、どうしたのですか」
俺の歩く速度が落ちたことを疑問に思うヒストリア。それに対して俺は、
「何でもないよ、タイミングを計ってるだけだからね」
タイミング、俺はただ倒すことだけを考えていない。遠距離から魔法を当てて倒すだけなら正直簡単だし誰にでもできる。だからこそ、トレントが気づくギリギリの距離まで近づいた後、正体を見せた後に倒す。俺はヒストリアにトレントがどういう姿をして、どのように襲ってくるかを知ってもらいたいのだ。
そして、その距離へと近づいたとき、普通の木に化けていたトレントが姿を現した。
「つられたか」
俺はトレントを見つけてから微量にだが魔力を垂れ流していた。それを目的のトレントが気づくように操作して。そして、気づく距離まで近づいたわけだ。罠とも知らずに引っかかったトレントは俺たち目掛けて向かってくる。
「ヒストリア、よく見とくんだぞ。これから魔法の使い方を説明するからな」
「分かったです」
俺はこちらへと向かってくるトレントの方を見据える。
「まず、さっき確認した魔法を思い浮かべる」
「はい!」
「その魔法をイメージする」
「イメージですか?」
「そうだ、何となくでいい。使える魔法として確認出来たら自然と思い浮かぶはずだからな」
「分かったです」
「思いうかべることが出来た、狙う相手を見定めて魔法名を唱える」
「はい」
「ウインドカッター!」
俺は風の初級魔法、ウインドカッターを放った。数本の風の刃がトレントに向かって飛んでいき、切り裂いた。
一撃で終了。
「こんな感じだ」
「やってみます」
俺は次に先ほど倒したトレントより二十メートル先にいたトレントを誘い出す。
その誘いにのり姿を現すトレント俺たちへと向かてくる。
「ヒストリア、火魔法は禁止だぞ」
「どうしてです?」
「ここは森の中だからな、山火事になる。それに、今回の依頼の目的は山で仕事をする人を困らせているトレントの討伐だ! もし火魔法で森を焼いてしまったらその人たちの仕事を奪ってしまうことになるからな」
「わかったです。ならお兄ちゃんと同じやり方でやるです」
ヒストリアは先ほど俺がやって見せたように魔法をイメージする。
そして、
「ウインドカッター!」
俺と同じ魔法をトレントに向かって放つ。しかもその数と威力は俺と同じ。
これにはさすがの俺も驚いてしまった。初めて魔法を放つヒストリアが俺と同じ数、同じ威力の魔法を放つなんて。
そして、トレントがバラバラになってやられてしまった。
「出来た! 出来たです!」
飛び跳ねて喜んでいるヒストリア。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「お兄ちゃん! 倒せたです! 魔法発動出来たです」
「偉いぞ! 完璧な魔法だったぞ」
俺は、ヒストリアの頭を撫でてやりながら魔法をほめてやる。
するとより喜んでいる。
「よし、だが冒険者としてはまだ半分の出来だぞ」
「どういうことですか? モンスター倒すだけじゃだめなのですか?」
「ああ、倒すだけじゃ依頼の達成は出来ない。俺たち冒険者は倒したモンスターの一部を持ち帰ることで証拠となり冒険者ギルドで討伐が認められるんだ。それともう一つ、モンスターは全て体の中心に魔力結晶を持っている。この魔力結晶は武器や防具を作るときに使われる素材でそこそこな値が付く。だからこそ俺たち冒険者は倒したモンスター魔力結晶を回収して売るわけだ」
「わかったです」
ということで俺とヒストリアは先ほどたしたトレントの素材を回収する。
冒険者としての仕事の中で一番地味で面倒な作業であるがこれが出来ないと冒険者としてこれからやっていけないからこぞきっちりと教えておく必要がある。
「こっちの回収終ったです」
「こっちもだ」
俺たちはお互いに回収した素材を見せ合う。
「上出来だ」
ヒストリアの回収した素材が問題ないことを確認する。
これで後三体と思い他のトレントを探そうとすると、ここより北に百メートルほどのところからものすごい速度こちらへと向かってくる気配を感じる。しかもその全てがモンスターであることがわかる。
「ヒストリア! 逃げろ!」
俺はヒストリアを対比させようと声を掛けるも、
「どうしたんですかお兄ちゃん?」
ヒストリアに俺は一番大切にして冒険者として必須の魔法を教えるのを完全に忘れていたことをここにきて思い出した。戦闘のことで頭がいっぱいだったために周囲を探る魔法のことについて教えていなかったのだ。周りの情報把握をすることは冒険者にとってかなり大事。これが出来ないと上に上がることが出来ないのだ。
「たいりょ」
俺がヒストリアにモンスターのことを伝えようとしたその時、俺たちの視界に入るところまでモンスター、トレントの集団が迫って来ていた。
その数はおおよそ百。見た目がきもい。
だが俺以上に驚いていたのがヒストリアであった。探知の魔法で状況の把握が出来ていたため俺はそこまで驚いていないが、隣にいるヒストリアはかなり驚いていた。
そして、驚きのあまり、
「ビックバン」
前方にいるトレント達に向かって火魔法の上位である爆発魔法のビックバンを放ってしまった。大きな爆発とともに前方数十メートルを焼き払う魔法。そんな魔法を発動した後に森の木々が残るわけもなく、地形が少し変わってしまったのだ。
「あれ?」
目の前に広がる景色に対して何が起きたのか理解できていないヒストリア。
「はぁ~」
俺はため息をついてしまった。かなりの魔法の才を持っているヒストリアだったが、まさかここまでの威力が出るなんて思ってもいなかった。
「これ私がやったです」
「そうだよ」
優しく言ってやる。さすがにあんな数のトレントを見れば誰だって驚くし、初めての戦闘のときにあんなものを見せられたらこうなるのも納得だ。
俺の中である程度整理もつきかけたとき、隣にいるヒストリアが涙を泣き始めた。
「ごめんなさいお兄ちゃん。私、森を焼いてしまったです」
自分のやったことを理解しているヒストリア。この子はこの年でしっかりと善と悪の判断がつく子だ。優しくするだけじゃだめだ。
俺は、ヒストリアの頭に手をおき、同じ目線になるように膝をつき、
「そうだな。森が焼けちゃったな。ヒストリアはこれが悪いことだってわかるか」
「はい。村の人たちの仕事をする場所がなくなっちゃたです」
「よくわかっている。でもヒストリアはすぐにごめんなさいが出来た、これは誰にでも出来る事じゃないぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、ここにいるのは俺たちだけだ、つまり俺が黙っていればこのことは誰にもばれない可能性だってある。そういう考えになればあえて黙っているだろう」
「そんなことをする人がいるですか?」
「いるよ、でもヒストリアはしっかりとごめんなさいができた。だからっといって許してもらえるかは分からないけど俺はそんなヒストリの勇気偉いと思うよ。だから今回のことについては俺が責任を取ってやる。だからもう泣くな」
俺はヒストリアをぎゅっと抱きしめて頭を撫でてなだめてやる。
そして、一時間程かかってようやくヒストリアが泣き止んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます