第八話 呪いの少女5

 一時間ほどの休憩を入れた後、再びダンジョン攻略を開始。


 そこから先は五分から十分に一度の間隔でモンスターとの戦闘を繰り返していた。


 ここまでモンスターの出現率が高いとは思わなかった。


 だがそのおかげである程度の戦闘経験を積むことが出来た。


 俺に唯一足らなかった実践での経験をこれほど得られるなんて思ってもみなかったことだ。


 そして、俺たちは休憩から数時間経ってやっとこさボス部屋であろう前へと到着した。


「こ・怖いです」


 何かを感じ取ったのだろう。俺にしがみつき震えている。


「大丈夫、大丈夫だよ。お兄さんにまかせなさい」


 一回縦に首を振る。


 俺はその少女の反応を見て、トビラを開けて中に入る。


 少し重たいトビラ。


 大きな音を立てて開かれる。


 トビラを開けた先にはスケルトン千体と戦った部屋と同じくらいの広さがあった。


 中は薄っすらと明るく、何もない。


 だが確かに嫌な気配はする。


 何処からその気配がするのかはつかめない。


「アルク様、気を引き締めてください」


 耳元でウンディーネが声を掛けてくる。


「ああ分かってる」


 気配が次第に強くなっていく。


 それと同時に部屋の中央に一つの黒い塊が出現。


「あれはなんです?」


 俺の後ろから少しだけを顔を出している少女が、目の前の黒い塊を見ながら首をかしげる。


 なんだかわからないが、やばいものであることは分かる。


 それに、相手の準備を待っている暇などもない。


「ウンディーネ力借りるぞ!」


「はい、アルク様の思うがままに」


 精霊王たちのリーダーをしているウンディーネはいつも冷静で視野が広く戦場全体を見渡している。


 昔の、俺が一人訓練のためにモンスター討伐をしているときに何回か助けられたこともある。


「ウォーターランス、アイスランス」


 水属性と氷属性の魔法を発動。二種類の属性の槍数十本を一斉に黒い塊に向けて放った。


 だが、その魔法が黒い塊に届くことなく消滅する。


「はい?」


 (おいおい、なんで魔法が途中で消滅するんだよ)


 それから数発魔法を放つも全てが黒い塊に届く前に消滅させられてしまう。


 それからも暫くは同じような光景が続き、黒い塊より先ほどの感じた何十倍もの嫌な気配が部屋を中を埋め尽くした。


 悪寒のようなものを感じる。


「お兄さん、あれはやばいです。無茶苦茶やばいです」


 少女は地面に膝をつき体をかなり震わせていた。


「心配するな。俺は負けないよ。あのモンスターを倒して君の呪いを解かないといけないからね」


 少女を抱きかかえて扉近くにあった物影へと少女を連れて行く。


 そこで、おとなしくしとくようにとだけ伝えて結界を張り少女の気配を消し、モンスターに気づかれないようにしておいた。


「さて、このダンジョンのボスだ、今までに見たことのないような強いモンスターが現れるに違いない!」


 少しワクワクしている自分がいる。


 ここまでに戦闘でこのダンジョンが最難関だと言われる理由は十分にわかった。


 道中に現れたモンスターは十分に強かった。


 ならボスモンスターだって絶対強い。


 そうでなければ困る。


 そして黒い塊より現れたのはやはり骨のモンスター。


 三つの首を持つ犬型のモンスター。何かの本で読んだ伝説の獣ケロべロスと呼ばれる生き物によく似ている。


 そのうえ、周りに数十体の武器を持つスケルトンたち。


 そしてなによりやばいのはこいつら弱点の首をしっかりと守っている。


「さすがボス戦、一筋縄ではいかなそうだ」


 顔がにやけてくる。


 俺は、少女を助けるためにここにきた。決して戦闘を楽しむために来たのではないのだが、ガイルたちから解放された解放感からか、戦闘をすごく楽しく感じ始めていた。


 雑魚モンスターとの戦闘が何十回も続けばめんどくさくもあったが、それでも倒した時の爽快感は忘れられない。


 そして、今俺目の前にはこのダンジョン最強のモンスターが現れた。こんなに胸躍る展開はなかなかない。


「さて、少し本気を試させてもらおうかな」


 腕を回して、


 コリコリ!


 肩を鳴らしながら準備を整える。


「今回は俺だけの力で戦うから精霊王たちは休んどいて」


「御意!」


 精霊王、十一人全員が声をそろえて返事をする。


 俺は右手に剣を持ち、前進する。


 ゆっくりと一歩ずつ。


 俺を視界にとらえる三つの首を持つ骨の獣。


「ガァーーーーーーーーーー!」


 大きな咆哮。


 だが、そんなもので俺を止めることなどできない。


「どうした、その程度か!」


 俺は少し挑発してみる。


 それに反応を示したのは三つの首を持つ骨の獣ではなかった。


 武器を持つスケルトンたちが俺に向かってくる。


 それに対して、俺は剣を一振り。


 刀身に乗せた魔力の刃が全てのスケルトンたちを消滅させる。


「おお、ここまでの威力がでるのか」


 少し驚いていた!


 全力の一割ほどの魔力を込めた一撃で三つの骨の獣以外の全てのスケルトンを消滅させた。


 でも、この部屋はボスモンスターの部屋。つまり主は三つの首を持つ骨の獣である。


 だから雑魚をいくら倒そうと復活してくる。


 しかも、数が倍になってだ。


「っち! 厄介なやつだぜ」


 俺は、刀身に魔力を纏わせる。


 そして、一瞬にしてボスモンスターとの距離を詰める。


 だがそれに気づいたスケルトンたちが俺と三つの首を持つ骨の獣との間に割り込んでくるが、一撃で全てを消滅。


 だが、俺の意識が一瞬外れた所を三つの首を持つ骨の獣は見逃さない。


 俺の死角となっている右方向より前足が飛んでくる。


 それを、純粋な魔力の壁で受け止める。


 そして、その隙に俺は三つの首を持つ骨の獣の真下へと侵入。


 俺の姿を見失う三つの首を持つ骨の獣。


「終わらせようか」


 俺は剣を一振りして全魔力の二割を一点集中で放ち真っ二つに切断。


 一瞬にして回復するこのダンジョンのモンスターたちでもほんの一瞬どうしても隙が出来る。


 俺はその隙を見逃さずに、もう一撃を与え守られている首の骨をその守りごと砕き倒した。


 圧勝、そう言ってもいいかもしれない。


 今回の戦闘で俺はノーダメージ。つまりは一撃も受けていないのだ。


「お見事にございますアルク様」


 ウンディーネが声を掛けてくる。


 そして、先ほど消えた三つの首を持つ骨の獣から一つの宝箱が現れた。


 俺は走り足で宝箱に近づく。


「罠ではないようだな」


 スケルトン千体との戦闘のときのことがあり、少し警戒をしていたが不要であったようだ。


 俺は宝箱を開ける。


 するとその中には一つの薬草が入っていた。


 その薬草に解析魔法を使う。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 癒しの薬草

 どんな病気、呪いに死にかけの大けがでも一瞬で治すことが出来る


 但し、一回のみ


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 間違いなく目的の物である。

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