第四十六話 封印されし少女
ダンジョンの最奥にある封印の間へと、たどり着いた俺たち。
封印の間は、ダンジョン内の他の部屋と全く違う雰囲気。辺りは岩ではなく結晶、クリスタルで覆われていて、とても神秘的な空間。広さも先ほど地竜と戦った部屋の二倍以上ある。
まさかここでも戦闘にならないよな、などと考えながら辺りを見渡す。
すると、部屋の中に一つ、俺の身長の二倍はあろうかと思うほどの水晶が一つある。
「勇者様! あれは何でしょうか?」
サーシャも気づいたようで、水晶を指しながら聞いてきた。
部屋の入り口からでは、ただ大きいだけの水晶にしか見えない。
「分からんが、とりあえず近くに行ってみるか」
「そうですね。もしかすると、あの水晶に吸血鬼族のお姫様が封印されているかもしれませんし?」
「そうかもしれませんね、ヒストリア様!」
「そんなことないよ~、お兄ちゃんだってきっと気づいているはずですよ」
「そうなんですか勇者様?」
「ああ、可能性としては考えていたよ。だが、何の確証もなかったから言わなかっただけだ!」
「さすがです勇者様!」
ヒストリアに言われるまで、俺も水晶に吸血鬼族のお姫様が封印されている可能性については、考えていなかった。だがこの二人の前でそんなことを言えるわけがない。そのため誤魔化しておいた。
と、そんなことは置いておいてだ。
「水晶の近くまで行くぞ!」
「はい!」
「分かりました」
俺に続き、ヒストリアたちもついてくる。
水晶の前、近づくとその中に幼い少女が閉じ込められていた。長い金髪ストレート、幼い体格の少女。口に小さな牙が生えている。将来は絶世の美女に成長するであろうと確信できる美しさを持っている。
ただ、服を着ていないために、少し目のやり場に困るのだが。
などと思っていると、
「吸血鬼族のお姫様です?」
サーシャが、水晶の中で眠る少女を見て、口走った。
見た目は間違いなく、吸血鬼のように見える。体格からヒストリアやサーシャと同じくらいの年のように見える。
「そうだろうな」
「どうやって封印を解いたらいいのでしょうか?」
「さあな」
とりあえず、水晶に触れてみることにした。
すると、
(だれですか?)
頭の中に声が響いてきた。少女の声。俺は、どこから聞こえてくるのかと、辺りを見渡す。
(どこを見ているのですか! 私が話しかけているのですよ)
「水晶の中にいる少女なのか?」
水晶に話しかけている俺を見て、サーシャとヒストリアが、
「勇者様どうかされましたか?」
「お兄ちゃん独り言なんて言ってどうしたの?」
不思議そうに聞いてくる。
おっと、二人に聞こえていないようだな。
(そうです。あなたが水晶に触れたことで、私とあなたの間にパスが繋がっています。そのおかげで今、会話が出来ているのです。あなたも頭の中で念じるだけで、私との会話が可能なはずですよ)
俺は、少女の言う通りにやってみる。
(これでいいか?)
(はい! 聞こえています)
(君は数百年前、人族によって封印された、吸血鬼族のお姫様であっているか?)
(その通りです。私は吸血鬼族の最後の生き残りにして、吸血鬼族が王の娘、リーヤス=スクリルと申します。)
(俺はアルク=スピッチャー、竜人族の長より、あなたの封印を解きに来た冒険者だ!)
(ありがとうございます。ですが、すぐにこの部屋より離れてください)
(なら君の封印を解いてからでも)
(いえ、私の封印を解くことは不可能なのです)
(それはやってみないとわからないだろう!)
(やらなくても分かります。アルク様、今すぐ水晶から離れてください! 急いで!)
かなり焦っているようである。
それに、
「勇者様、何か来ます」
「お兄ちゃん、凄く嫌な感じがするよ」
二人も何かを感じ取っているようだ。
それに、俺たちが今いる封印の間全体に、嫌な気が満ちていく。そんな時、俺は頭上に何かが集まってきているのを感じた。
水晶に封印されている少女の言葉に従い、その場から二人を連れて離れる。
すると、先ほどまで俺たちがいた場所に鋼鉄の柱が落ちてきた。もし、あのまま水晶の前にいれば、鋼鉄の柱によって潰されていただろう。
「二人とも大丈夫か!?」
「はい!」
「うん、大丈夫だよ」
ガチャ! ガチャ!
背後より聞こえてくる足音。
探知で感じる邪悪な気配。
振り向くと背後に、鋼鉄の体と、強固な鎧をまとっている騎士が、一歩ずつこちらへと近づいてきている。
ただの騎士であるわけがないよな。
「二人とも離れてろ!」
「私たちも戦います」
「そうです勇者様!」
二人の気持ちは嬉しい。
でも、
「ここは指示に従ってほしいんだ」
「でも・・・・・・」
ヒストリアが何かを言おうとしていたが、俺を見て口をつぐんだ。
それにサーシャも、何かを言おうとしていたが、堪えているように見える。
「二人とも水晶の所で隠れていてくれ」
「分かりました」
「お兄ちゃん! ムリだけはしないでね」
「分かっているよ」
二人は俺から離れて水晶の近くへ。
これで何も気にせずに戦える。
俺は、剣を構えて、鋼鉄の剣士へと向かって行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます