第十六話 新たな旅の始まり
ヒストリアの呪いを解いた翌日。俺たちは王都の宿に泊まっていた。
昨夜は既に夜も遅く他の街に行くことも出来なかった。そのために宿をとり泊ったのだ。
ただ、そんなに金がなく二人一部屋、一つのベットで寝ていた。
「お兄ちゃんダメですよ~、そんな私、でもお兄ちゃんのお・ね・が・いならいいですよ」
少しはだけた服。目のやり場に困る。それにこの寝言、他の人が聞いていたらなんと思われるか。
まだ出会ってたった一日。ヒストリアのことを殆ど知らない俺だが、さすがにこの状況はまずいと俺の中の何かが訴えていた。
「おい、朝だぞ! そろそろ起きろ!」
ヒストリアを起こそうと名前を呼ぶも起きる気配が全くない。それどころか布団を自分の方へと引き寄せていく。
凄く気持ちよさそうな寝顔。まるでお人形を見ているように思えてくる。
だが今は、
「こら、ヒストリア! もう朝だぞ! 今日は冒険者ギルドに行くんだろ! 早く起きろ」
今度は体をゆする。少し抵抗はあったが名前を呼ぶだけでは起きないので仕方がない。
今日はヒストリアの冒険者に登録に行く予定になっている。
「こらそろそろ起きないとこうだぞ!」
俺はヒストリアが掴んでいた布団を思いっきり引っ張る。少し強引かと思ったが仕方がない。
「痛っ!」
もともと一人用のベットで二人で使っている少し手狭。そのため、ヒストリアはベットから下に落ちてしまった。
「もう朝ですか?」
未だに少し寝ぼけている。
「おはよう、もう朝だよ」
俺は優しく声を掛ける。
「も~、お兄ちゃん少し強引すぎますよ」
今の状況を見て何を思ったのかは知らないが、俺は、
「悪かった、名前を呼んでも起きないし、揺すっても起きないから仕方なくな」
「なんのことです? 私はてっきりお兄ちゃんに襲われたのかと思ったのです」
頭を捻りながら言ってくるのはまた可愛いが一言とんでもないことを言いやがった。
周りに人がいないだけよかったが他の人がこれを聞いていたらとんでもない誤解を与えることになっていた。
俺は決して幼い少女を襲う趣味はない。決してだ。
「でも昨夜のお兄ちゃんは凄かったです。私はもうお嫁さんに行けなくなりました」
「おまえな! ただ一緒に寝ただけだろう」
「そうです。私の初めてはお兄ちゃんに奪われました」
顔を赤くしながら言ってくるヒストリア。
俺はもういいかと思いながら、
「今日は冒険者ギルドに行くんじゃなかったのか!?」
話題を今日の予定へと変える。
「そうでした。私きっとお兄ちゃんの役に立って見せます」
ガッツポーズをしながら言ってくる。
その姿を愛おしく思う。
「それなら早く着替えて飯食ったら冒険者ギルドに向かうぞ」
「はい!」
俺は先に宿の食堂へと移動してヒストリアを待つことに。
それから十分程、支度を終えたヒストリアが食堂へとやってきた。
「お待たせしましたです」
「ああ、朝食は何にする?」
「お兄ちゃんと同じ物がいいです」
「そうか? それなら俺はこのトーストのセットだな」
「私もそれにするです」
俺たち二人は同じ物を注文し、食べた。
ヒストリアは凄く美味しそうにパンを食べていた。
「お兄ちゃん、これ凄く美味しいです! こんな美味しいもの初めて食べたです」
「大袈裟だな~、ただのパンだぞ!」
「はい、でも今まで食べてきた食べ物の中で一番美味しいです」
今までヒストリアはどれだけ酷い物を食べてきたのだと思ってしまう。
だが、今の状況でそんなことは聞けない。
それよりもヒストリアがこうして幸せそうに食事をしていることが大事なんだ。
そして、食事を終えた俺たちは宿を出て冒険者ギルドへと向かう。
「楽しみです!」
「何がだ」
「だって、この私が冒険者になるんです。昨日まで死ぬ日のことしか考えられなかった私がですよ」
嬉しそうな顔。本当に楽しみなんだと実感する。
だが、俺の中で少し気掛かりなことがあった。
それは、冒険者ギルドでガイルたちに会うのではないかと言うこと。正直会うくらいなら別にどうでもいいのだが、絡まれるのが非常にめんどくさい。
だが、ヒストリアの楽しみにしている顔を見ているとそんなこと絶対に言えない。
「お兄ちゃんまだですか?」
「もうすぐだよ、ほら見えてきた」
俺は冒険者ギルドの建物を指さす。
「あれですか?」
「そうだよ」
目を輝かせるヒストリア。
嬉しさのあまりダッシュで冒険者ギルドへと向かって行くヒストリア。俺はその後ろを着いていく。
そして冒険者ギルドへと到着した。
「こら! 急に走り出したら危ないだろう」
「ごめんなさい、です」
「うん、分かればいいよ」
俺は素直に謝るヒストリアの頭を撫でてやる。
そして、
「中に入るぞ」
「はい!」
扉を開き中へと入る。
いつものように賑わっているギルド。扉を開けてすぐは視線が俺の方に向くも一瞬で元に戻る。
初めて見る光景にヒストリアの目が輝いている。
俺はヒストリアの手を引き、受付へとやってくる。ここに来て俺の中で少し疑問に思うことがあった。ヒストリアはまだ十歳になっていない。大体十歳前後で
「ヒストリア、神が出てくる夢を見たことあるか?」
「はい! 九歳に誕生日に神様と夢の中でお話をしました。そこで魔導を授けると言われたです」
「よし、それなら問題ないな。冒険者登録を済ませようか」
「はい!」
俺は、受付へと到着すると、
「冒険者ギルドクルシャへようこうそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「この子の冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました。ではまずこの水晶に触れて下さい」
ヒストリアが水晶に触れて瞬間に強く光り出す。
「これは!」
受付けのお姉さんが水晶に映し出されるヒストリアの
「凄い! これほどの魔導の
それを聞き、腰を抜かしそうになる俺。
今までに魔導を持つ者いろいろな人と会ってきた。だが大抵の者は五大属性の内二属性から三属性程を持っているもので、四属性を扱えれば凄い方と言われているのなかヒストリアが使えるのは九属性。しかも五大属性と呼ばれる火、水、風、土に雷は全て扱える者が散在しない言われている。それに空間と聖属性の魔法は使える者はごく一部、両方使える者は存在しないとされている。だからこその驚きなのだ。
「これで冒険者登録は完了となりますが、ヒストリアさん所属する冒険者パーティーを決めていますか?」
「はい! ですどうしてですか?」
「ヒストリアさんの持つ
笑顔で話すお姉さん。
「はい!」
それに笑顔で返事するヒストリア。
「ではこれを」
お姉さんはヒストリアに冒険者カードを渡す。
「絶対に無くさないでくださいね。その冒険者カードは身分証にもなります。それと冒険者としていろいろな街や村で割引などが受けられますので大切にしてください」
「はい!」
「では、頑張ってくだい。あなたらなきっと伝説と呼ばれる冒険者になることも夢じゃないですよ」
「ありがとうございます」
ヒストリアはお姉さんに一礼する。
そして、冒険者ギルドを出ていく。
俺とヒストリアの新たな冒険者がこれから始まっていくのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます