結婚初夜

私の愛しい王子様

 法が改正されて、恋人という名の他人だった私達は今日、晴れて正式に家族になった。


「というわけで、初夜ですよ。百合香さん」


 ベッドに寝転がり、向き合って並ぶ彼女の腰を撫でる。ペシっと払いのけられてしまった。


「……あなた、式の間ずっとそのこと考えてたでしょ」


「いや、ウェディングドレス買えば良かったなって思ってた」


「……着たまましたかったとか言うんじゃないでしょうね」


「んふふ」


 答えずに笑って誤魔化すと、氷のような視線が突き刺さった。


「……変態」


「けど好きでしょう?コスプレ」


「式で使ったウェディングドレスは流石に嫌」


「式で使ったやつじゃなければ良いと」


「……」


 答えず、目を逸らす彼女。


「……よし。作るか」


「着ないから」


「えー。じゃあ私が着ようか?」


「着なくていい」


「ウェディングドレス姿の私、抱いてみたくない?」


「……」


「想像したな?えっち」


「し、してない!」


「あははっ。冗談冗談」


「もー……」


 半分くらいは本気だったけど。


「……それで。どうする?初夜ですけど」


 改めて問う。彼女は一度目を逸らし、もう一度私を見て、言葉の代わりに、唇へのキスで答えた。

 承諾の意味だと解釈して彼女を推し転がそうとするが、逆に押し転がされてマウントを取られてしまった。


「……今日はされるよりしたい」


「えー。私もなんですけど」


「駄目。あなたが先だと私、体力無くなっちゃう」


「それは君が鍛え足りないからだよ」


「あなたが体力馬鹿で絶倫なせいよ」


 彼女の愚痴はスルーして、胸元に実るたわわな果実に手を伸ばす。しかし、捕まって頭の上で押さえつけられてしまう。左手も伸ばすが、同じく捕まる。捕まった左手はそのまま彼女の口元へ。薬指にはめられた指輪に口付け、彼女は女神の如く優しく微笑む。


「……私達、やっと家族になれたわね」


 優しい声でそっと放たれた一言のせいで、涙腺が緩んでしまった。

 彼女は溢れた涙を拭い、ニヤリと笑って私の両腕を頭の上に左手で抑えてから唇を奪った。


「んっ……」


 そのまま、空いている右手で器用に服のボタンを外していく。


「あっ……百合香……」


「好きよ。海菜」


 今日は私が抱く気満々だったのに、露出していく肌に触れる彼女の指先から、手のひらから、唇から伝わる体温が、心地良くて、力が抜けてしまう。


「ふふ。良い子ね。今日はそのまま大人しく抱かれなさい」


「っ……」


「可愛い」と囁かれながら優しく触れられ、幸せで胸が一杯になり、涙が止まらなくなる。

 抱く気満々だったのに、結局その日は彼女になされるがままで終わってしまった。少し悔しかったが、今までの人生で一番幸せな時間だった。きっとこの先の人生で、この日を超える幸せは訪れないだろう。

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