幸せな未来に想いを馳せて(後編)

 家に着いたことを助手席で眠る彼女に伝える。しかし、彼女はううんと寝ぼけた返事をするだけでシートベルトを外そうとすらしない。仕方なく一度降り、家の鍵を開けてから助手席の彼女を抱き上げて中へ。リビングのソファに降ろし、車と家の鍵をかけてソファの前に座って一息付くと、後ろから腕が伸びてきて首に巻きついてきた。


「……みんなは?」


「もう飲み会は終わったよ。今お家帰ってきたところ。明日は有給取ってるって言ってたよね。お風呂は明日にしてもう寝ちゃおうか」


「ん……」


「よっ……と」


 彼女抱き上げ、寝室に向かう。ベッドに降ろして、風呂に入るために立ち去ろうとすると腕を引かれ「いっちゃやだ」と止められる。仕方なく戻ってベッドに座ると、這いずりながら寄ってきて、私の膝の上に頭を乗せた。酔うと甘えてくるのはいつものことではあるが、今日はいつも以上に甘えん坊だ。


「……うみな」


「ん?」


「すき」


「うん。私もだよ」


「ぎゅーして」


「はいはい」


 寝転がり、抱きしめてやる。すると彼女は私を推し転がして私の上に乗った。「うみなのおとがする」と私の心臓に耳を当てる彼女の頭を、ラッコのように腹の上に乗せたまま撫でてやっていると、頭が上がり、目が合う。徐に近づいてきた彼女を受け入れ、唇を重ねる。彼女は満足そうに笑い、イモムシのようにうねうねと身体を後退させてまた私の胸の上に頭を戻した。うとうとしながら「だいすき……」とうわごとのように呟く。帰ったら絶対抱くと決めていたのに、流石にこの状態の彼女に手は出せなくてため息を吐きながら頭を撫でてやっていると「しないの?」と、彼女は顔を上げて私を見る。


「そのつもりだったけど無理でしょ。絶対途中で寝るもん。てかもう半分寝て——ん」


 言い切る前に彼女の唇に言葉を遮られる。はむはむと味わうように唇を甘噛みして、離れたかと思えば耳へ。「好き。大好き」と囁きながらゆっくりと手を身体に滑らせる。

 誘うような手つきに耐えられず、応援しようと彼女をひっくり返す。目が合うと彼女は「いっぱいして」と笑って私を抱きしめ——そのまま寝息を立て始めた。


「でしょうね! 絶対そうなると思った! もー!」


 ため息を吐き、首に巻きついた彼女の腕をそっと外して上から降り、一旦部屋を出て行き場の無くなった劣情を発散してから戻ると、彼女は私の枕を抱いて幸せそうに眠っていた。


「全く……煽るだけ煽って勝手だな君は」


 枕を取り返して頭の下に敷き、彼女を抱き寄せる。「うみな。だいすきよ」という彼女の幸せそうな寝言を聞きながら、きっとこの先もこうやって彼女に振り回されて生きていくのだろうななんて、幸せな未来に思いを馳せてため息を吐きながら眠りについた。

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