第15話 城塞都市


 馬車に揺られて一週間。食料もそこを尽きた頃。

 城塞都市ワイバーンことアメジスの町に着いた。

「ここが城塞都市……すごい高い壁っすね」

 感嘆の声を漏らすバニロ。

「そうね、ワイバーンでしか越えられないわ」

「え? 門とかないんすか?」

「あるでしょうけど通行手形がないと通してくれないでしょうね」

「無いんですか通行手形……」

「無いわ」

「師匠……」

「そんな心配そうな顔しなくても、ワイバーンの召喚書サモンブックなら持ってるわよ」

 赤黒い表装の召喚書サモンブックを取り出すリルカ。

「あれ? じゃあ最初から師匠のワイバーンに乗って行けば良かったんじゃ……?」

「私の小魔力ミクロが持たないわよ」

「あ、そうでしたね……すいません」

「別にいいわ。それよりフィル」

 少し遠くでリルカとバニロの様子を伺っていたフィル。

「はい、なんでしょうか……?」

「ちょっと付き合いなさい。貴女もワイバーンに捕まりなさい」

「え? でも私はユニコーンを見てないと……」

「ユニコーンも連れて行くわ。いいわね?」

「あっ、はい……」

 有無を言わさぬ圧力に負けて渋々、承諾するフィル。

「我が呼び声に答えよ、ワイバーン」

 リルカはワイバーンを呼び出すと、背中に三人を乗せ。ユニコーンを足で掴んで運んで行く。

 壁を越えるとそこに広がるのは、蒸気に煙る町並みだった。

「これが、アメジス」

「そう武器の輸出を主としている武器の販売屋の集団よ」

 鉄が溶ける音、鉄を叩く音、焦げ付くような音がする。

 家々から焼け付く蒸気の煙が湧いてきてリルカ達が乗るワイバーンにまで届いてくる。

「熱っ!?」

「これぐらい我慢しなさい……とは言えないかしら。そろそろ降りるわよ」

 アメジスの都市に降りる三人とユニコーン。

 都市の人々から注目を集めてしまう。ワイバーンはあちこちに飛んでいて珍しいものではないが、ユニコーンと半妖精ハーフエルフのフィルが注目を集めている。

「さて、ちょっと武器でも買いに行きますか」

 リルカが言う、バニロが呆けて。

「へ? 武器?」

「自衛手段くらい持ってないと、旅人の常識でしょ?」

「持ってるんすか師匠?」

「ええ、ここにね」

 スカートをひらりとはためかせるリルカ、いつの間にかその手にはナイフが握られている。

「うわっ!?」

 ナイフを出した事に驚いたのか、スカートを翻した事に驚いたのか。それはバニロ本人にも分からなかった。

「もしかしてフィルも……?」

フィルはもじもじしながら。

「い、いえ、武器は持っていません。あたしにはユニコーンがいますし。あっ、でも護身術を多少……」

「うへぇ、じゃあ俺だけ丸腰……? で、でも俺だってもう召喚術師ですし」

 リルカがため息を吐く。

「あのねぇ……いつでもサモンバトルが展開出来ると思ったら大間違いよ! 召喚術師の寝首を掻こうとする奴は大勢いるわ。召喚術の使えない者にとって召喚術師は脅威なんだからね」

「召喚術師が……脅威?」

「そう、今、混沌としたこの世界で、大きな力を振るう召喚術師は普通の人々にとっては尊敬すべき存在であり、対してそれを畏怖している者達も居るの」

「混沌。尊敬、畏怖……なんかよく分かんなくなってきましたよ俺……」

「ま、もっと単純に『自分が召喚獣を呼び出せない状況』に陥った時の事を考えなさい。そうした時、逃げる手段くらい必要でしょう?」

「まあ、そうっすね」

 一応、納得するバニロ、リルカは頷いてとある店を指さす。

「あの店にしましょう。さ、行くわよ」

 そう言って一行は歩き出す。

 

 着いたのは少し寂れた店だった。

「……なんかちゃっちくないっすか?」

 バニロは小声でリルカに呟いた。

「ま、これくらいのが掘り出し物があるもんよ、ごめんくださーい」

「はいよ、いらっしゃい」

 歳を取った白髪の男が出てくる。

「おや? 召喚術師とは珍しい。何をお探しだい?」

「自衛用の武器をね、こいつに」

 親指でバニロを指さすリルカ。

「そこに兄ちゃんにかい? そうだねぇ。こんなのはどうだい?」

 そう言って筒状の何かを取り出す店主。

「これは?」

火筒ひづつだよ。火薬で鉄の弾を飛ばすのさ、これが引き金」

 そう言って火筒の下の方を指さす店主、確かにそこには引っかかりらしきものがあった。

「鉄の弾を飛ばす? それって威力はどれくらい?」

 リルカが訊ねる。

「おっと試射したいのかい? じゃあちょっとこっちに来な、店の裏に標的がある」

「……行きましょう」

 リルカが先を行く店主の後に続いた。

 その後ろ、ごくりと生唾を飲み込んでリルカの後に続くバニロとフィル。

 店の裏、岩が並ぶ場所にたどり着く四人。

「まさか、この筒、岩を砕くの?」

「そのまさかでさぁ……ひひっ!」

 奇妙に笑う店主、リルカは若干引いている。

「……バニロ、撃ってみなさい」

「ええ、なんか怖いんすけど……」

「いいから」

「……はい」

 渋々、と言った感じで火筒を構えて引き金を引くバニロ。すると。

 火薬が弾ける音が響いた、それは雷が地面に落ちた時の音に似ていた。

 鉄の弾が筒から飛び出し、目の前の岩に砕き、喰い込んだ。

 バニロはひっくり返った。

「いてて、というかうるさっ!? これ危ないっすよ!?」

「……そうね、持ち運んでて暴発でもしたら危険だわ」

「あらら、お気に召さなかったようで」

 店主がさして残念そうでもないように言う。ただ試射させたかっただけなのかもしれない。

「普通のナイフでいいわ。あるかしら?」

「ええ、ええ、ありますとも」

 そうしてその店ではバニロの身の丈に合ったナイフを購入し、その場を後にした。

「なんか、まだ耳がぐわんぐわんするっす……」

「私もよ……今の戦争にはあんなものが使われているなんてね。ルールの整備されたサモンバトルのがよっぽど優雅だわ」

 リルカのため息。そこに――


「戦いに優雅も何もあるものか!」

 

 割って入る声があった。

 それはバニロより少し歳を取ったぐらいの青年、鎧を身に纏っている、兜は外しているが。

「……師匠まさかこいつ、洞窟の時の」

「……仲間かもね」

 小声でやり取りする二人、フィルはおろおろとしている。

「何を小声で言い合っている! 俺の名はジーク=ブラッドブレイド! この都市の騎士団長だ! リルカ=ハーケンナッツ! お前を不法侵入者として裁く、よって勝負を挑む! 尋常に受けてもらおうか!」

 それはリルカに対する挑戦状だった。

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