第4話 座学


「いい? バニロ、あなたは基本中の基本を知らないみたいだから、そこから教えてあげる」

「お、今日は気前がいいっすね師匠。俺の手作りクッキー気に入ってもらえました?」

 バニロはリフォームされたリルカの家で授業を受けていた。机に座り、リルカはどこからともなく取り出した木の板に筆を走らせて行く。

「お黙りなさい。今は授業の時間。私語は厳禁よ」

「はーい」

「……あのクッキーはまた作ってくるよーに」

「え? 先生、今なんて?」

「コホン!! 授業を続けます!」

 木の板に一文が描かれる。

『召喚獣とは魔力の塊である』

「師匠~。これぐらい俺でも知ってるっすよ~」

「私語厳禁! 罰として今日の二倍クッキーを作ってきなさい!」

「そんなぁ……」

 落ち込むバニロ、そんな彼に背を向けてやたっ! と小さくガッツポーズするリルカ。

 授業は続く。筆が走って行く。

『召喚獣を形造るには召喚術師の存在が必要不可欠』

召喚書サモンブックに封じられた妖精、魔獣。神格などとパスを繋ぎ、この世に顕現せしめるのだ』

「へえ~。パスなんてのが繋がってるんすねぇ~」

「ホントに当たり前の事を知らないのね、このバカ弟子は……。いい? 人間が体内で循環するエネルギー。それが『小魔力ミクロ』、魔力は自然界にも存在していて普段は溶け込んでいる。それが『大魔力マクロ』。この二つを繋ぎ合わせる事で普通なら世界に溶け込んで消えてしまう召喚獣を召喚書サモンブックから取り出す事が出来るの」

小魔力ミクロ大魔力マクロ……なんだか覚え辛いっすね」

 へらへら笑うバニロ。リルカはこめかみに青筋を浮かべながら。

「あんたねぇ……まあいいわ。確かにここはそんな重要なポイントじゃない。この大魔力マクロ小魔力ミクロが繋がれた時。小魔力ミクロの循環に変化が起きるってところが重要なの」

「変化!? 俺、なんか変わっちゃたんっすか!? まさかもう人間じゃなくなっちゃたとか……」

「馬鹿たれ」

 リルカは筆の柄でバニロの頭を叩いた。

「いてぇ」

「変化と言ってもそう大したものではないわ。パスが繋がった影響で、小魔力ミクロの循環に召喚獣が割り込むようになるってだけだから」

「なんだ。それなら安心……でもないっすよね!?」

「召喚してる間だけの話よ。なんの問題もないわ」

「いやいや、つまり召喚してる間はどんどん小魔力ミクロが減ってっちゃうって事じゃないっすか!? 無くなったりしたらどうなるんすか!?」

「ぶっ倒れるだけよ」

「……いや、だけって」

「実際、意識を失って、召喚獣も消える。小魔力ミクロが無くなって起きる現象なんてそれだけよ」

「……まあ確かに、それだけかも知れませんけど……師匠、質問でーす!」

「なにバカ弟子」

小魔力ミクロを増やす方法ってないんすか?」

 それを聞いたリルカがニヤリと笑った。

「いい質問ねバニロ。一点を上げるわ」

「わーい! やった……?」

「百点満点中の一点よ、もっと頑張りなさい」

「うえー」

「これからアンタに小魔力ミクロの増やし方を教えてあげる。外に出なさい。例の草原まで行くわよ!」

「またっすか……ここ数日、草原と此処行ったり来たりじゃないっすか……」

「口答えしない。さあゴーゴー!」

「なんかテンション高いな……はっまさか通り道にある店で俺にお菓子奢らせる気じゃ……!?」

 ニヤァと笑うリルカ。嫌な汗を掻くバニロ。

「俺、最近、金欠で……村の仕事もサボり気味だから……」

「だからブラウニーでリフォーム工事する仕事すれば大儲けよって言ってるじゃない」

「あれ滅茶苦茶疲れるんすよー!」

「はいはい、ほら行くわよ」

 バッとジャンプして、バニロのシャツの襟首を掴んで引き摺って行くリルカ。

「師匠、力つよっ!?」

 いーやーと叫びながら運ばれていくバニロだった。

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