第3話 修行


 草原であった。リルカとガリゴが戦った村はずれの場所だった。

「さてじゃあブラウニーを呼び出してみなさい」

「はい! 我が呼び声に答えよ……ブラウニー!」

 現れる箒を持った小型の獣。

 次にリルカは自分のホルスターから本を抜き出す。

「我が呼び声に答えよ。デーモン!」

 現れる蝙蝠の翼、筋骨隆々の身体、山羊の頭と角。悪魔の姿。

「あれ、それって……」

「ああ、この前の奴からいただいて来たわ」

「いただいてって……、そんな簡単に……」

「勝者の特権よ、さ、本を構えなさい」

 召喚書サモンブックを開く二人。

「「サモンバトル、スタート!」」

 声を揃えて叫んだ。

 ページをめくる音が草原に響く。パラパラパラ、パラパラパラ。

「デーモン、〈火炎撃フレイム〉」

 ガリゴが使っていた時よりもはるかに強い炎がブラウニーを襲う。

「ブラウニー! 〈建築クラフト〉!」

『がってんだぞ!』

 箒で地面を掃くブラウニー。するとそこから土で出来た壁が出来上がる。土の壁は見事に炎を防いでみせた。

「よく読み込んでるみたいね。でもこれはどうかしら。デーモン! 〈呪術カース〉!」

 悪魔から黒い波動が放たれる。それは土の壁を貫通し、ブラウニー目掛け飛んで来た。

「えっ!? えっと……、ブラウニー避けろ!」

 とっさの判断で呪文を選ぶ事が出来ず、そんな指示を出してしまうバニロ。しかし。

「それじゃ駄目ね、バカ弟子」

 黒い波動はブラウニーを追いかけてくる。そしてブラウニーに届くと。

『グアーッ!!』

 その身体を黒く蝕んでいった。

「ブラウニー!」

「そういう時は、を使うのよ」

「精神に作用……? ブラウニーにそんな事が……?」

『……で、出来るぞ!』

「そうか、このページ! ブラウニー! 〈大工の心意気ビルダーソウル〉!」

 黒く蝕まれていた箇所が治っていく。さらに。

『うおおーっ! 気合い充分だぞ!』

 ブラウニーに闘志が宿る。〈大工の心意気ビルダーソウル〉とは使った者が受けた精神的攻撃を跳ね除け、さらにその士気を上げて攻撃力を高める業だ。

「そこまで!」

 リルカの声が轟いた。いざデーモンに挑もうと言う時だというのにとバニロは目を白黒させる。

「どうしてですか師匠!」

「もうお菓子の時間だわ。今日はここまで」

「そんなぁ……」

『やる気十分なんだぞ……』

 仕方なく虚空に消えていくブラウニー。デーモンも同じ様に消えていく。

「さ、弟子。お菓子を買いに行きなさい」

「うう……了解しました……」

 急いで村の方へと戻るバニロ。それを見送った後、そっと草原に座り込むリルカ。

「……やっぱり長時間は無理ね」

 額には汗、先ほどの戦いで疲労したとはとても思えないが。それでも確かにリルカは弱っていた。

 しかしバニロはまだ、それには気づかない。

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