第9話 大妖精
遺跡の外も明るかったが、遺跡内部も明るかった。
「なんでこの遺跡、こんな光ってるんでしょうね?」
「なんで村に住んでるアンタが知らないのよ……これは此処が
「あ、此処も
「ええ、出るわよ?」
思わずそこら辺にあった石壁に隠れるバニロ。
「めちゃ危ない場所じゃないっすか! ガリゴさんが止める訳だ……」
「
「さ、さすが師匠! 今はとても頼もしく見えます!」
「今は?」
「あ、いえ、いつも頼もしいです。はい」
「ほら、そんな事言ってたら出てきたわよ!」
遺跡の奥、そこから何かの影が近づいて来る。それは身長にして子供ぐらいしかなかったが、近づいてくるにつれてその狂暴な様相が見えてきた。
上下剥き出しになった乱杭歯、緑色の肌、手には木を削り出して作った棍棒を持つ。
それは。
「ゴブリン! しかも……」
一匹だけではなく、群れでそれらはやって来た。
「ヤバいっすよ師匠! この数相手は!」
「ふんっ。軽く捻ってやるわよ。アンタも
「取りこぼしってうわ!?」
ホルスターから白銀の表装の
「――天の導きよ、我が呼び声に答えよ、天竜!」
狭い遺跡の中に巨大な雲が現れる。遺跡の天井を埋め尽くした。
雷鳴が轟き、雨が吹き荒ぶ。
現れるだけで、この威容。これが神格。
「天竜! 〈
雲の中から顔を出した天竜が、水を勢いよく口から放射する。
薙ぎ払われるゴブリン達。
だがリルカの言っていた通り、生き残った者もいた。
そこで。
「我が呼び声に答えよ、
『フッ、俺を呼んだか?』
「……なんだかキザな奴だな。まあいい〈
『フッ、任せな』
尻尾の鎌で空気を切り裂き真空の刃を生み出す
「さ、さっさと最奥まで行きましょ?
「師匠、元気っすねぇ」
「いや、疲れたわ。おぶって頂戴」
突然、バニロの首に飛び掛かるリルカ。
「うわっ!? いきなり何するんすか師匠!? ていうか首締まる締まる……おぶりますから肩! 肩に捕まってください!」
「わかったわよ。ほらこれでいい?」
「はい……俺の方もこれでいいっすか?」
「まーまーの乗り心地ね」
「はいはい、じゃ行きますか」
そうしてバニロはリルカを背負って遺跡最奥へと向かうのだった。
辿り着いた。特にトラップや強力な
そこは湖だった。遺跡の中に広がる地底湖。遺跡の光を反射して碧く輝いていた。
「ここね、降ろして頂戴」
「はいはい」
リルカを地面にそっと降ろすバニロ。
「こっから先、アンタは一言も喋っちゃだめよ。いい? 分かった?」
「……なんでっすか?」
「なんでもよ。師匠の言う事は聞いときなさい」
「はい……」
大人しく引き下がるバニロ、リルカは一歩前へ踏み出す。湖に足が浸かる。その時だった。
『何者だ! 我が神域に土足で踏み込もうなどと!』
「これはとんだご無礼をお許し下さい
『私を
「――知識を」
そこで湖に変化があった。突如、間欠泉のように湖の中心が噴き上がったのだ。
現れたのは見目麗しい女性の姿をした耳の長い緑の装束を身に纏った妖精だった。
「興味が湧きました。神話の時代から幾星霜。我らに知識を求める者などもう現れないと思っていたのに」
口を開き人語を介する、まさにリルカの言っていた通りだとバニロは思った。
「私は今、とある呪いを受けています」
バニロは、突如、リルカから飛び出した言葉に思わず「えっ!?」と声が出そうになるのを
「ほう、その呪いとは?」
「
その言葉に(師匠って今、いくつなんだ……?)と疑問を持つバニロ。話は続く。
「その呪いの解呪方法を教えろと?」
「はい、
大妖精は顎に手を添え、考え込むような素振りする。
「我が真名まで知っての事ですか……ですがまず結論から言いましょう。私は解呪する方法を持ち合わせていない」
沈黙が地底湖を包み込む、ちゃぽっという水の跳ねる音が響いた、魚でもいるのだろうか。
「……そう、ですか」
「しかし解呪する方法を知ってはいます」
リルカは下げていた頭をバッと上げた。
「本当ですか!?」
深く頷く大妖精。
「王都に行きなさい! 王都の城に眠る
「!」
リルカは目を大きく見開く。
王都、そこはリルカが籠の鳥のような生活をしていたという苦痛の地だ。
バニロは心配そうにリルカを見つめる。その背中は、いつもと違って頼りなさげに見えた。
「私からは以上です。他に聞きたい事は?」
「……この呪いが解けなかった場合。私は後、どれくらい生きられるでしょうか?」
観察するようにリルカを見回す大妖精。
「見たところによれば、もって一年と言ったところでしょう。では私は去ります。久々の人との会話。中々に楽しめましたよ。それでは」
ばしゃり! と水となって消えた大妖精。
「……師匠、今の話って本当なんですか?」
「ええ、本当よ」
「あと一年って」
「しょうがないじゃない」
「行きましょうよ王都に!」
「嫌よ! もうあそこには戻りたくない……」
「そんなわがまま言ってる場合じゃないですよ! 自分の命がかかってるんですよ!?」
「分かってる! 分かってるわよ!」
「師匠は俺が守ります」
バニロはリルカに目線を合わせて告げた。
「……え?」
「俺、召喚術じゃ師匠より弱いけど。他の事なら師匠の事守れます。どんな嫌な事からも俺が師匠を守ります。だから行きましょう? 王都に」
リルカは潤んだ目を拭った。
「馬鹿弟子。調子に乗るんじゃないわよ。誰がアンタなんかに守られてやるもんですか」
立ち上がる二人。
「いいわ! 行きましょう王都に! あの忌まわしき箱庭に!」
「はい! そんな箱ぶっ壊してやりましょう!」
二人は遺跡を後にした。
王都を目指すべく旅立つために。
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