第8話 ガリゴ


 村を越え遺跡へと辿り着く二人。バニロは引きずられながら器用に道案内した。

「あれ? こんな夜中にだれかいるわ?」

「ああ……。それはきっと――」

 謎の人影がこちらに向けて話しかけてきた。

「おう! 此処は立ち入り禁止だ帰んな帰ん……ってお前らは!?」

「あらデーモンの持ち主」

「ちわっす。ガリゴさん」

 いかついオーバーオールの大男。ガリゴだった。面倒くさそうに刈り上げた頭を掻きながら何かを呟く。

「……どうする、こいつらなら入れてもいいか? いやしかし、此処が立ち入り禁止なのは――」

「ごちゃごちゃ五月蠅いわね。行くわよバニロ」

「え? あっはい師匠」

「ちょっと待て!」

 横を通り過ぎて、夜中だというのに光り輝く遺跡へと向かおうとする二人をガリゴが止めた。

「俺と勝負しろ! お前だけは、そうして勝った場合しか通さねぇ!」

「ええ!?」

「私が監督しとくわよ。それでいいでしょう?」

「いや駄目だ! これだけは絶対だ!」

「でも貴方、今。召喚書サモンブック持ってないじゃない」

 そう言って黒い表装の召喚書サモンブックを取り出すリルカ。

「いや! 俺にはこいつがある!」

 そう言って赤い表装の召喚書サモンブックをホルスターから抜き出すガリゴ。

「あら、この辺境の村でどうやって新しい召喚書サモンブックを手に入れたのかしら?」

「これは遺跡守りの一族が代々受け継いできた由緒正しい召喚書サモンブックだ!」

「あら貴方そんな由緒正しい一族だったの? その割には後名とかないみたいだけど?」

「ちょっと師匠。言い過ぎっすよ……」

「うるせぇ! 俺だって落ちこぼれてんのは分かってる! だが責務は全うする!」

「見た目通りの頑固モノねぇ……いいわバニロ。相手をしてあげなさい。今のアンタとブラウニーなら勝てるでしょ。私はふわぁ……ちょっと仮眠して待ってるわ」

 そういって茂みに寝転がるリルカ。バニロは呆れたように自分の上着をかけてやった。

「……マジでやるんすかガリゴさん?」

「お前らが遺跡に入るってんならな」

「はぁ……分かりましたよ」

 バニロはホルスターから茶色い表装の召喚書サモンブックを抜き取った。

「来い! サモンバトル開始!」

「我が呼び声に答えよ、ブラウニー!」

『合点だぞ!』

 現れたのは小型の熊が箒を持ったような妖精。

 ガリゴが一つ深呼吸して叫ぶ。

「我が呼び声に答えよ、!」

 現れたのは赤い鱗を纏い、悪魔のような翼で宙に羽ばたく。伝説の魔獣。

「ど、ど。ドラゴン!?」

 ドラゴンと言えば、召喚獣の中でも高位に属する者だ。様々種類が居り、リルカの天竜もドラゴンの亜種となる。

「はぁ……はぁ……行くぞ! バニロ! 〈爆炎フレア〉!」

「――!? ブラウニー! 〈構築クラフト〉! 壁を作って守れ!」

『こんなの城壁レベルじゃないと守り切れないぞ……!?』

 そうは言ってもやるしかない。土の壁を作り出すブラウニー、なんとかドラゴンが放つ炎の吐息ブレスをやり過ごそうとする。しかし。

『このままだと蒸し焼きだぞ!』

「ええと、ええと……ブラウニー! 〈悪戯トリック〉だ! ドラゴンに隙を作れ!」

『宙に浮いてる相手に無理言うなだぞ!』

 しかしやるしかない。ブラウニーは意を決したように飛び出しドラゴンへ食らいついた。

『ほら! ここがくすぐったいはずだぞ!』

 するとドラゴンの吐息ブレスが止まる。ドラゴンが笑っている。腹をくすぐられて笑っているのだ。咳き込み炎が途切れる。

「今だ! ドラゴンの鱗で武器を〈構築クラフト〉しろ!」

『そうか! 合点だぞ!』

 龍の鱗を剥ぎ取るブラウニー。そしてパパっと手の中で器用に形を変えていく。

『出来たぞ! 名付けてスケイルブレイド! だぞ!』

「よし横っ腹に突き立てろ!」

『あいあいさーだぞ!』

 言われたとおりにドラゴンの横っ腹にスケイルブレイドを突き立てるブラウニー。血が噴き出す。それはあくまで大魔力マクロなのだが。

 大魔力マクロを大量に失って。疲弊するドラゴンと、その影響で小魔力ミクロを吸い取られ疲労したガリゴ。

 決着は着きつつあった。ブラウニーを振り落とすドラゴン、しかし疲弊し地面に着地した。

「ドラゴン! 〈尻尾攻撃テイルアタック〉!」

 尻尾で地面を薙ぎ払うドラゴン。対するブラウニーは。

「跳んで避けろ! ブラウニー!」

『さっきから無茶ばっかだぞ!』

 なんとか跳躍するブラウニー。尻尾の薙ぎ払いを躱した。

「ブラウニー! 破城槌はじょうついを〈構築クラフト〉しろ!」

『そんなデカいの時間がかかるぞ!』

「時間は……俺が稼ぐ!」

 ブラウニーの前に出るバニロ。ドラゴンとガリゴが目を丸くする。

「なにしてやがる!」

「へへっ。ちょっと卑怯ですけど……野良試合なんでいいっすよね!」

 サモンバトル中、相手の召喚術師に攻撃するのは禁忌とされている。バニロはそれを利用して肉盾となったのだ。

「この野郎、舐めた真似しやがって!」

『グルルルルッ!』

 ドラゴンも主人に合わせ唸り声を上げる。その間にブラウニーは近くの木々を切り倒し破城槌を造り出していく。

『よし! 完成だぞ!』

「いいぞ! ブラウニー! 放て!」

 ブラウニーは怪我が塞がらないまま血を垂れ流しながら徐々に弱るドラゴンに向けて、破城槌を放った。

 ドゴォ! という音と共に、躱そうとしたドラゴンの脚に直撃する破城槌。

 ドラゴンは悲鳴を上げて霧散した。ガリゴも意識を失い倒れ込む。

「……嘘だろ? 俺が? やった勝った! 師匠やりましたよ!」

「……ううん、お菓子がいっぱーい♪」

 寝言を呟くリルカ。

「師匠……寝たふりで見てたとかじゃないんすかー……」

 そんなリルカをゆすり起こし。寝ぼけまなこのままで手を繋いでリルカを連れて光り輝く遺跡へと向かうのだった。

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