第27話 日常
「これで本当に終わったんっすねぇ」
バニロが呟く、王城の一室、椅子に腰かけ、リルカに話しかけている。
「そうね、お父様も人が変わったみたいだったわ」
サタンの支配から逃れる事の出来た王様は、リルカに今までの事を誤り、ハーケンナッツという忌み名を変えさせてくれと懇願してきた。
しかしリルカはそれを断った。
「お父様、私はこの名を背負って行こうと思います。この名のおかげで、良い弟子にも巡り会えました」
王様は泣いて謝った。
「本当に良かったんすか?
「後名はそんなに簡単に変えられるものではないわ、変えるとすれば一度、剥奪という形になるの。せっかくこの名が馴染んで来たんだもの、勿体ないでしょう? 強さの証でもあるんだから」
バニロは頭の後ろに手を組みながら。
「そういうもんすかねぇ」
と天井を見ながら呟いた。
「それより、あんたはこれからどうするつもりなの?」
リルカがバニロに問う。
「へ? そりゃ勿論、師匠に着いて行くっすよ?」
「はぁ……あのねぇ、私はもう旅をする理由もないの。この国の姫として役目を果たさなくてはならないわ」
「そんな!? じゃあもう召喚術師を止めるって事っすか!?」
「そこまでは言わないけど……そうね、そこまで付いて来たいって言うなら、王直属の召喚術師でも目指す事ね」
「……そんな事でいいんすか?」
「……あんたどれだけそれがハードル高い事か知ってんの?」
「ふふふ………」
不気味に笑うバニロ。リルカは気味悪がる。
「何笑ってんのよ、気持ち悪い」
「実は! 王様に優勝賞品の代わりに好きなモノを要求できる権利を貰ったんっす! つまり! 王様にお願いすれば、王直属の召喚術師になれるって訳っすよ!」
「んなっ!?」
ふふーんと胸を張るバニロ。リルカは唖然としている。
「あ、あのクソ親父……!」
「口が悪いっすよ師匠。これからもよろしくお願いするっすよ?」
「……そもそも疑問だったんだけど、なんでアンタは召喚術師になんてなりたいと思った訳?」
「あ、それ聞いちゃいます?」
「何よ、もったいぶって」
「実は、あれは俺が子供の頃……」
「今も子供じゃない」
「師匠に言われたくないっす」
「私はこれから成長するのよ!」
サタンの呪いが解けたという事はそういう事だ、止まっていた少女の成長が始まり、やがて大人になるだろう。
「ま、それはいいっす。俺が子供の頃。アイスル村に旅の召喚術師が来たっす」
「へぇ……それはまたどんな用事で? 私と同じで
「いえ、その人は旅芸人みたいな人で、召喚したジャックオーランタンに芸をさせて金を稼いでいました」
ズコーっとこけるリルカ。
「ま、まさかアンタの夢って旅芸人なんじゃないでしょうね!?」
「違うっすよ。俺はただ、そうやって召喚術で人を笑顔に出来る、その人が羨ましかった。ただそれだけっす」
「あんた……誰かを笑顔に出来たの?」
リルカが怪訝な顔で呟く。バニロは笑って。
「師匠、今楽しくないっすか!?」
そう聞いた。
リルカは驚き、ハッとなる。
「……それは」
「俺は楽しいっす! 師匠と一緒に居れて!」
顔を赤くするリルカ、そこで王城の一室、そのドアがノックされる。
「誰っすかね?」
「さあ、フィルかしら」
扉を開けてみる、正解だった。
「あの! お二人共! 急いで外に!」
「「?」」
二人してフィルの言葉に首を傾げた。
王城の外、といってもバルコニーのような場所に出る。王都メタリアを望む事の出来る場所だ。
その城の下、黒山の人だかりが出来ていた。
「なんだ! あの大会は!」
「もっとちゃんとした大会を見せろ!」
「年に一度の楽しみなんだぞ!」
「そーだ! そーだ!」
暴徒が迫っていたのだ。
「うへぇ!? 嘘でしょ……俺、あんな頑張ったのに……」
「最後のサタンと
「どうしましょう、リルカさん、バニロさん……」
三人して頭を抱える。
そこに王様が現れる。
「おお、救国の三人よ、揃っておったか」
「その救国のって恥ずかしいからやめてくれないっすかね……俺、操られてただけだし……」
「ほっほっほっ、それは儂も同じよ。だがそなたはサタンを引きずり出す役目を担ってくれたのだ」
ぽんぽんとバニロの肩を叩く王様。
「それでお父様、この状況をどうするおつもりで?」
「ふむ、そこでだ。リルカ、バニロ。二人に頼みがある」
「「頼み?」」
またしても二人して首を傾げる。
「そうだ、明日、メタリア杯会場にてエキシビションマッチを開く事にした。二人にはそれに参加して欲しい」
「……師匠と戦えって事っすか!?」
「へぇ……面白そうじゃない」
「あわわ……」
突然の展開になぜか蚊帳の外のフィルが慌てふためく。
「うむ、頼んだぞ二人共。我は今からその旨を国民に直接伝えてくる」
「強制なんすか!? 拒否権は!?」
「残念ながら、ない」
そう言って王様は去って行った。
「そんなぁ!?」
「そんなに私と戦うのが怖いのバニロ?」
「そりゃ怖いっすよ、相手はあの師匠っすよ!?」
「……いいわ、じゃあハンデをあげる。あんたは天竜を使いなさい。私はブラウニーを使うから」
「……マジっすか」
「大マジよ」
バニロは心の中で勝った! っと思った。
しかし声には出さず、顔にも出さないようにして変に顔が歪んだ。
「どうせ、あんたの事だろうから勝ったとか思ってるんでしょうけど、もしあんたが勝ったら私から卒業してもらうわ」
「……へ?」
変に歪んだ顔がさらに変になった。
「師匠に勝つ弟子なんて、もう弟子じゃないわ。それはつまり、もう教える事なんてないって事だもの」
「そんな! じゃあ俺勝ちません!」
「なんで勝つ前提なのよ」
「あっ」
「全ては明日決まるわ、いい? 全力でかかってきなさい。ちょっとでも手加減を見せたら弟子失格だから」
「……本当にやるんすか」
「二言はないわ」
リルカがその場を後にする。取り残されるバニロとフィル。
「どうしよう、フィル……俺、どっちに転んでも弟子失格だよぉ」
「……本気でやるしかないですよ、バニロさん。リルカさんを信用してください」
フィルの言葉にバニロがポカンとする。
「……どういう意味?」
「貴方の師匠はハンデなんてものともせずに貴方を打ち負かすほど強い、とそう信じてあげてください。それが大事なんだと思います」
フィルの言葉に、水を浴びせられたような顔になるバニロ。
「そっか……そうだよな。俺、ちょっと思い上がってたのかも」
「はい」
フィルがはっきり頷いた。
それに苦笑いするバニロ。
「明日、か。気を引き締めていかないとな」
「応援してますよ」
「どっちを?」
「勿論、お二人共。です」
「ははっ、そうか。じゃあ頑張らないとな」
そうしてバニロもバルコニーから自室に戻った。
一人、バルコニーに残ったフィル。
「
天に願ったのだった。
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