第28話 卒業試験


 大会会場、バンシーを連れた実況者が叫び声を上げる。

「今回はエキシビションマッチに集まってくれてどうもありがとう! これは王様のお言葉だよぉ!」

 拍手が沸き起こる、歓声が響く。

「今回の対戦カードは事前に発表した通り! 今回のメタリア杯優勝者、バニロと、我が国の姫君、リルカ姫だぁー!」

 拍手喝采である。

 二人が同時に会場へと入り込む。

 対峙する二人。

「この時が来たっすね師匠」

「あんたこそ、覚悟は出来てる?」

「勿論!」

 召喚書サモンブックをホルスターから引き抜く二人。

 二人の下に魔法陣が現れる。

「――天の導きよ、我が呼び声に答えよ、天竜!」

「――我が呼び声に答えよ、ブラウニー!」

 曇天に暗む空。現れる小型の熊。対峙とは言い難い絵面。

 のたくった身体でブラウニーを睨みつける天竜、意外にも意にも介さないブラウニー、怯えている様子もない。

「……それだけ師匠の事を信用してるって事か」

「……」

 無言のリルカ。バニロは召喚書サモンブックのページをめくる。

「サモンバトル、スタート!!」

 実況者が戦いの開始を高らかに宣言した。

「天竜、〈雷霆サンダーボルト〉!」

「ブラウニー〈構築クラフト〉」

 雷撃を土の壁でいなすブラウニー。土の壁は勿論、崩れたが、ブラウニーにダメージは無い。

「天竜、〈豪雨パワードレイン!」

 広範囲攻撃、浄化の雨。

 しかし。

「ブラウニー、

 またしたも土の屋根で防がれる。歯噛みするバニロ。

「天竜! 〈豪雨息吹ハリケーンブレス!」

 勢い良く吐き出される水流がブラウニーを襲う。

 だが。

「ブラウニー〈構築クラフト〉」

 またしても土壁で一撃をいなすブラウニー。バニロは思わず叫んだ。

「師匠! さっきから防御ばっかりじゃないっすか! もっと本気で来て下さいよ!」

 対してリルカは。

「それはこっちの台詞よバニロ。あんたこそ本気で来なさい。出し惜しみ無しでね」

「……出し惜しみ、無し」

 天竜の召喚書サモンブックの最後のページをめくるバニロ。

「……分かったっすよ師匠。〈千の咢サウザンドドラゴン〉」

 千の首が天から降り注ぐ。それを見てリルカはにやりと笑う。

「これを待っていたのよ! ブラウニー! 〈巨塔構築バベルクラフト〉!」

 その時、バニロにはブラウニーの『合点だぞ』という言葉が聞こえた気がした。

 土を箒で操るブラウニー、それは天を衝く巨塔となりブラウニーを天空まで届けた。

「ブラウニーが今さら、天竜に届いたところで!」

「それが勝ちなのよバニロ、届いた時点で」

 突然の事だった。巨塔が天空の雲に届いた瞬間、空を覆う曇天が霧散した。

「……まさか過剰供給オーバーロード!?」

「正解よ、弟子バニロ。及第点を上げる、ブラウニー!〈巨塔崩壊バベルブレイク〉!」

 天を衝く巨塔は崩壊した。天竜を巻き込んで。千の首、諸とも霧散した天竜の首は巨塔の瓦礫に絡まり身動きが取れなくなった。

「そんな、天竜! 〈豪雨息吹ハリケーンブレス〉!」

 しかし天竜は応えない。身動きが取れずにわずかに身じろぎするだけだ。

「そんな……」

「トドメよ、ブラウニー。〈構築クラフト〉杭を作って天竜を討ちなさい」

 言われた通りにするブラウニー、土を操り杭を作り、箒と杭を持ち替えて。天竜の頭を潰しにかかる。

 天竜から大魔力マクロが迸った。霧散する天竜。ブラウニーの勝利だった。

 妖精が神格に勝つという、まさかの下剋上に、拍手喝采が巻き起こる。

「すげーぜ! 姫様!」

「さすが我が国の姫!」

「姫様が居ればこの国は安泰だわ!」

「姫様万歳!」

 騒ぎは瞬く間に大きくなった。これでは収拾がつかないだろう。

 そんな会場に王様が現れた。

「おほん!」

 実況者のバンシーの力を借りて会場全体に声を届ける。

「ええ、事情は昨日話した通りだ。私は邪悪な偉大なる召喚獣グランドモンスターサタンに操られていた。そこを我が娘リルカと、その弟子バニロが助けてくれたという訳じゃ。しかし、それでは皆の鬱憤が晴らされぬという事で、今回のエキシビションマッチが開かれる事になった。その経緯は皆、理解し、満足してもらえただろうか? きっと満足してくれたものだと思う。これにてメタリア杯の真の閉幕とする! 皆、これからもメタリアと共にあらんことを!」

『メタリアと共にあらんことを!』

 観客は王様が現れてから静まり返り、そして声を揃えてメタリアへの忠誠を誓った。

「さぁー! みんな! 気を付けて帰ってくれよな!」

 実況者が帰りのアナウンスをする。

 リルカがバニロに近寄る。

「私達はお役御免みたいね」

「……そうっすね」

「どうしたのよ、暗い顔して」

「俺、悔しいっす」

「私に負けて?」

「はい」

 真っ直ぐリルカの目を見てバニロは言った。

「フフ、千年早いわよ」

 バニロにデコピンを喰らわすリルカ。

 手でおでこを押さえるバニロ。

「俺、天竜まで貸してもらったのに」

「私、ブラウニーのが使い慣れているもの」

「え!? それじゃあ……」

「せっかく手に入れた美味しいクッキーを作れる小間使いよ。簡単に手放すわけないじゃない」

「し、師匠~!」

 思わず泣き顔で抱き着こうとするバニロをひらりと躱すリルカ。

「あんたが私に触れようなんてそれこそ二万年早いわ」

「長すぎるっすよ~」

 泣くバニロ、笑うリルカ。そんな二人の元へフィルがやって来る。

「良かったです! お二人共! あたし信じてましたよ! きっと三人一緒に居られるって!」

「フフッ、そうね、それがいいわ」

「……グスッ。そうっすよ、やっぱこの三人じゃないと!」

 そこでリルカが提案をする。

「ねぇ二人共、次、

「「!」」

 フィルとバニロが顔を見合わせる。

 そして言い放つ。

「「伝説竜エンシェントドラゴンを探しに!!」」

「英雄ヤーヴェの冒険譚を追うのね……いいアイデアだわ!」

 リルカが指を鳴らす。すると、馬車の荷台が運ばれてくる。

「さ、フィル! ユニコーンを呼んで頂戴!」

「え、え、まさか!」

「もう行くんすか師匠!」

「ええ、善は急げよ!」

 こうして再び三人の旅が始まったのだった。

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弟子と師匠の召喚術 亜未田久志 @abky-6102

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