第11話 フィル


 森を抜けキンギの町に着いた二人。

 すっかり日は暮れて、夜になっていた。

 しかし打って変わって町は賑わいをみせていた。

「賑やかなところっすねぇ! キンギ!」

「そうね、宿場町として栄えてるらしいじゃない」

「ここにはどんなお菓子があるんすか師匠?」

 きっとリルカの事だ。それを楽しみにしていたに違いないと思って質問したバニロだったが……。

「ないわ」

「え?」

「だ・か・ら! この町に美味しいお菓子なんてないのよ! だからさっさと出てくわよ! バカ弟子!」

「宿場町なのに!?」

 首根っこを引っ掴まれて引っ張り回されるバニロ。旅馬車がある馬宿へと向かう。

 そこの主人と話をした。

「あー、すまねぇけど、馬車なら昨日出て行っちまったよ。後三日は帰って来ねぇな。他を当たってくんろ」

「そんなぁ……」

「師匠どんだけ此処に居るのが嫌なんすか」

「だって! お肉料理とかお魚料理とか! そんなんばっかで甘味が全然ないのよ! この町は!」

「そうは言ってもどうにもならないっすよ……宿場町なんだからそんなもんでしょう?」

「普通、土産物のお菓子くらい置いてあるものでしょう!?」

「それは……まあ確かに」

「ほら次の馬宿にいくわよ!」

「ういっす……」

 リルカに引きずられるようにして後に続くバニロ。しかし。

「あー、ウチの馬、怪我しちまってな」

 次の馬宿も。

「今、産気づいてんだ!」

 その次の馬宿も。

「ロバでいいなら……あっでもダメだ。まだ子供だった」

 その次の次の馬宿も。

「馬はみんな出払っとる」

 とまあそんな感じで連敗中の師弟二人。どこか他に馬宿がないか聞きこむと。

「馬宿ねぇ……ああ、ちょっと変わったところでいいなら町の外れにあるよ」

「「本当ですか!?」」

 二人は声をそろえて言った。

 二人は道案内を受け町の外れへ向かう。案内してくれた町人は、馬宿の前まで来ると。

「じゃあ俺はここまでだ」

 と言って去って行った。別に問題は無かったが、馬宿の主と知り合いだとしたら、その主に紹介ぐらいしてくれてもいいのではないか? と疑問に思う二人。しかし気にせず馬宿へと入っていく。

「ごめんくださーい」

 すると。

「あ、はーい。今行きまーす」

 奥から少女の声が聞こえた。怪訝に思う二人。現れたのは。

「こんにちは。はじめましてですね? 私、この馬宿の主、フィルと申します。今夜はどういったご用件で……!」

「!」

 フィルとリルカの視線が交差する。しかしバニロの視線はフィルのに向けられていた。

「耳が……長い……?」

 可憐な少女だった。銀色のセミロングまで伸ばした髪、黒曜石のような瞳、そして横に長い耳。白いローブに身を包み、下は青いホットパンツを履いていた。

 その姿はまるで。

「貴方……半妖精ハーフエルフね?」

「そういうお客様は召喚術師……ですね」

「えっ? えっ? 話についていけてないんすけど。半妖精ってなんすか?」

「はぁ、そんな事も知らないのバカ弟子。いい? 妖精エルフっていうのはもっとも人に近い召喚獣で、人との間に子供を作った例も確認されている……そう言われているのは知識としては知っていたけれど。まさか本当に実在するなんてね」

「あうう、あんまり見ないで下さい……」

 顔を赤らめ、耳を真っ赤にし顔を隠すフィル。

「すごいじゃないっすか!」

 バニロはそこで叫んだ。

「召喚獣と人間の愛の結晶! 素晴らしいっす!」

「愛の結晶とか言わないで下さい恥ずかしい……」

 フィルはさらに顔を真っ赤にした。

「そこまでにしなさいバカ弟子」

 こつんと頭を叩くリルカ。バニロは反省したように頭を下げる。

「すいませんでした……」

「い、いえ……あたしの為を思って言ってくれたんですよね? う、嬉しかったですよ?」

「素直に感動しただけっすよ~」

「ま、こういう奴なのよ。悪気はないからあんまり気にしないで? それより旅馬車の手配をお願い出来るかしら?」

「あ、はい旅馬車ですね。どこまで行きますか?」

「王都メタリア……と言いたいとこだけど、そこまで贅沢は言わないわ。一番遠くの次の馬宿がある所まで行って頂戴」

「メタリアですか……行けない事もありませんけど……」

 そこでリルカが驚いて目を見開いた。

「今、なんて?」

「いえ、ですからメタリアなら行けない事もないと……」

「嘘でしょ? 馬車でも一月ひとつきかかるのよ?」

「いえ、それでも私とこの……」

 そう言って馬宿の中へと案内するフィル。

 そこに居たのはただの馬ではなかった。

「このユニコーンなら!」

 白銀のたてがみ、赤い瞳、煌めくひづめ、頭に伸びた立派な一本角いっぽんづの

 召喚獣、ユニコーンだった。

「これ……まさかずっと現出させてるの?」

「はい。小魔力ミクロの量だけには自信ありまして」

「……それだけじゃないはずよ。貴方、身体に大魔力マクロを内包してるわね?」

「……!」

 驚くような顔をするフィル。リルカはふふんと鼻を鳴らし。

「ま、半妖精ハーフエルフなのだから当然よね。半分は召喚獣なんだから」

「はい、仰る通りです。私の身体には大魔力マクロが流れています。おかげで私の周りには霊脈レイラインが出来やすくなっています……」

 何か合点がいったように手を打つリルカ。

「そうか、だからこんな町外れに居を構えていたのね」

「……はい、だから町の皆さんには住まわせていただけるだけで感謝しているんです」

「そんな事情が……」

 バニロが悲し気にフィルを見つめる。リルカはそのバニロをはたき。

「ま、事情はどうでもいいわ。メタリアまで連れて行ってくれるんでしょう? それならこの商談は成立でいいわよね?」

「……え、あ、はい! 私で良ければ!」

「いてて師匠、今、俺なんで叩かれたんすか……?」

「さ、行くわよメタリア! 待ってなさい! 大天使ミカエル!」

 こうして師弟二人は旅の足と新たな仲間を手に入れたのだった。

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