第6話 東の方


 とある日、何故か家具やら服やらが散乱したリルカの家にて。

「師匠、前に鎌鼬カマイタチを捕まえた時、天竜が東の方だからみたいな事言ってたじゃないですかぁ?」

 突然、バニロが部屋の片付けをしながらそんな事を聞いてくる。リルカは眉をひそめながら。

「なによ」

「いや、竜のいる東の国の名前、知らないのかなって、ふと思ったんです」

「――!?」

「いやぁ、まさかないっすよねぇ。自分の召喚獣の出所の名前も知らないなんて」

「そ。そうよ! 知ってるわよ!」

「……え、師匠まさか」

 リルカに疑いの目を向けつつバニロは部屋の家具からほこりを落としていく。

「ぐぬぬ、確か」

「たしか?」

 もこもことしたパジャマ姿のリルカがうなっていた。

「そう! ジャーマン! ジャーマンよ! いやぁ……ちょっとど忘れしれたわぁ!」

「違います。正解はジャポニアです」

「ぐっ!? ぬうう……」

 何か反論しようとして、口をぱくぱくさせるリルカ。バニロはそれを呆れたように見ながら家具を整えていく。次に散らかった服などを片す。というか部屋の至る所に菓子屑が多い。ブラウニーを召喚した方がいいかもしれないとバニロは考える。

「なんで知らないんすか。自分の召喚獣でしょう?」

「う、うるさいわね! このド田舎のアイスル村じゃ売ってないから知らないでしょうけど召喚書サモンブックなんて二束三文で売ってるんだから! その辺で買った物が元々どこにあったのかなんて知らなくったってしょうがないのよ!」

「いや神格の召喚書サモンブックが二束三文で売ってるわけないでしょうが。それぐらい僕でも分かりますよ」

「ぐっ、ぐぬぬ」

 部屋の隅に例の黒くて速いあの虫の巣らしきものを見つけてしまったので、ブラウニーを召喚する事に決めたバニロ。

 リルカは諦めたようにベッドに身体を投げ出した。そのベッドも掛け布団がぐちゃぐちゃになっている。後であれもベッドメーキングしなくてはと決意するバニロ。

「本当に知らなかったのよ。私、王都から出た事無かったから」

「王都!?」

 バニロは思わず作業の手が止まった。

「王都ってあのメタリア王都ですか!?」

「ええ、そうよ。私はそこでかごの鳥のような生活をしてた。召喚術だけをひたすらに覚えさせられた。……神童なんてはやし立てられたりしたけれど。あんまり嬉しくなかったわ」

「すごいじゃないっすか! 王都! 俺も行きたいなぁ!」

 バニロはあまりリルカの話を聞いていないようだった。ただただ『王都』というワードに惹かれているようだった。

「あんまり楽しいところじゃないわよ? 美味しいお菓子も無いし」

「評価基準そこっすか……それよりもっと聞かせて下さいよ! 王都の話!」

 んーっと伸びをするようなポーズを取ったリルカ。少し思案してから。

「あんたが私の弟子として大成したらね」

「そんなぁ」

 悲し気に部屋の片づけに戻るバニロ。ホルスターから茶色い表装の召喚書サモンブックを取り出した。ブラウニーを召喚するのだ。

「それより、あなたの知ってるジャポニア? だっけの話をしてよ。私の天竜の元々居た場所だもの。知っておきたいわ」

「ジャポニアっすかー。ジャポニアは召喚獣戯画とかアニマとかが有名っすねぇ」

「召喚獣戯画!? アニマ!? なにそれは!?」

 先ほどまでとは打って変わって目をキラキラと輝かせるリルカ。その勢いに若干引くバニロ。

「えーっと。召喚獣戯画はサモンバトルとかをテーマにした絵描き物の事で。アニマって言うのはクリスタルっていう召喚獣を使って壁とかにその召喚獣戯画を動かしたりする奴で――」

「絵描き物!? 動かす!? 絵が動くの!? 凄い凄い! 夢のような話だわ!」

「あはは、神格を操る師匠が言うとすごく大げさに聞こえるっすねぇ」

 そんなわけで、そうした他愛のない話と部屋の片付けで日は暮れていったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る