物語は主人公、藤咲風香が女子高時代の思い出を振り返るところから始まります。
彼女は「一番楽なクラブ」という理由で美術部に入るのですが、そこで黒谷姫という少女と出会います。
黒と赤の絵の具を叩きつけるように画用紙にぶつける彼女は、不機嫌そうで攻撃的にすら見えたのですが……。
主人公の風香は周りに合わせて上手くやっていくことに長けた、適当な性格をした少女として描かれています。
そんな彼女は人間関係についても、クラスメイトと仲良くやっているように見えて本当は興味がなく冷めているところがあるのですが、そんな彼女が黒谷姫と出会うことで「友達とはなんなのか」を知っていく物語です。
キャラクターも血が通っていて、自然で軽快なやり取りも読んでいて心地よく、短い青春ドラマを見た後のようなさわやかな読後感がありました。
一読の価値があると思います。
風花さんは黒姫さんを笑わせたい。
言ってしまえばそれだけなのですが、どうして彼女を笑わせたいのか、ひいてはなぜ彼女は笑わないのかと言うところにフォーカスが当たっていき、二人のやり取りに引き込まれて行きます。
そして同時に、それに対する世間の動きと風花さんの動きが合わなくなります。
多分お互いがお互いを思い、お互いに対してやさしいだけなのに、それなのに世間の風向きのせいで、本質は歪にねじれていって……。
この作品に登場するラッキーチョコ。毎日食べてもハッピー、ときどき食べてもハッピー。
このチョコレートが、とても素晴らしいガジェットになっています。チョコレートは歯車と噛み合い、あらゆる装置に働きかけ、人生そのものを大きく動かします。
他人から見れば、それは小さな揺らぎのようなものかも知れません。しかし、私には世界を揺るがすほどの、力があったのではないかと思わずにはいられませんでした。
読後感、素晴らしかったです。
心のモヤモヤが取り払われるかのような、清々しい気持ちになりました。
周囲にあまり興味を抱かない語り手。
けれど、高校生の頃、一人の女子生徒に関心を持ち、自ら声をかけるようになります。
彼女は、ある理由によって周りから避けられていました。
語り手の言葉には、この感覚分かる、と思える箇所が非常に多く、この年頃の女子の感性、周りとの関係性がとても良く表現されていたように思います。
興味が無い、けれど多少は興味があるように振舞っておかないといけない。
多かれ少なかれ集団生活の中で感じ得る倦怠感と打算的な人との関わり方がリアルで、だからこそ、そういう張り詰め方から解放される「黒姫」との間にある気楽さがよく分かります。
個人的な感想ですが、私自身がそういう「面倒くささ」を常に感じてしまう質なので、語り手の感じ方には非常に共感しました。
二人の間の、ベタベタしてはいないのに唯一無二である繋がり。
そこへ、面倒くさい周りの人間の面倒くさい目が注がれてしまう面倒くさい展開。
語り手の嫌気がよく伝わってきました。
見どころは、やはり最終話でしょう。
シンプルなメッセージには、けれど飾り立てられた言葉のどれよりも真摯な思いが込められていて、語り手の心へまっすぐ届いたことが分かります。
届いたそれを打ち返すような返事も、また、ずっと言いたくて言いたくて仕方がなかった思いだったのだろうなと感じられます。
衒ったところのない、外連もない、言葉のやり取りは、上辺だけでの付き合いが溢れている環境の中で、とても気持ち良く響きました。
作品を読んでから改めてタイトルを見ると、なんというか、本当に笑わせたいんだな、と思えて、それもまた味わい深いものでした。
主人公の『適当女』こと風香は、周りに合わせるのは上手いけど、実は他人にとことん興味がない。
一方の『性悪女』こと黒姫は、父親が殺人犯だったせいで平凡とは程遠い、後ろ暗い人生を送っていた。
そんな二人の『平凡な』友情を描いたお話です。
テンポの良い会話の応酬が心地よいです。
風香と黒姫の関係性はもちろんのこと、その周囲を取り巻く人間関係がとてもリアルでした。
物語中では何か劇的な事件が起きるわけではなく、淡々と日常が過ぎていく。
ちょっとした行き違いで黒姫との関係が途切れかけた末の卒業式、日々適当に過ごしていた風香の心の揺れ動きにカタルシスがありました。
『平凡な人生』も、全然悪くない。
ありきたりな幸せだって、あたりまえにあるものじゃない。
卒業後、『平凡』になってしまった黒姫の人生に、胸の奥がじんわり温まりました。
毎日食べてもハッピー、ときどき食べてもハッピー。
そんなキャッチコピーの入った『ラッキーチョコ』というお菓子が、まさに二人の友人関係を象徴するアイテムでした。
すごく好きなお話です!