盛者必衰の波を踏み越え、諸行無常の世に咲き誇ったその花の色は

数々のドラマがある源平争乱。
本作は、平家に仕える『玉虫』という女性が主人公の物語です。那須与一が射抜いた『扇の的』の横に立っていた美女が彼女です。

勇猛な将・平教経を幼少時から慕い続けた玉虫。
教経を見つめる視線の端々に映りゆく世の盛衰。
それらが過不足のない端正な筆致で綴られ、この時代の女性の立場や戦況の厳しさなどがすっと理解できました。

何よりも、心理描写が非常に巧みで素晴らしかったです。
少女から大人の女性へ移り変わっていく玉虫の心境が手に取るように分かり、深く深く共感しました。
滅びへ向かう一方の状況の中、ひたむきに教経を想い、決して自分を見失わずに背筋を伸ばし続けた玉虫の姿は、現代社会を生きる私たちにも通じるところがあるのではないでしょうか。

壮絶な悲劇の末路を辿った平家ですが、それぞれの覚悟や生き様を気高く美しいと感じました。それゆえに、どうしようもなく哀しく遣る瀬無いとも。

めちゃくちゃ泣きました。本当に素晴らしい物語でした。

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