平家物語、というと皆さん学校で習うと思うのですが、驕れるものは久しからず、ということで、貴族化した平家がその権に溺れた結果、源氏に敗れた……というような印象を抱いている人も多いのではないでしょうか。
この物語では、最後まで武門の誇りと勇猛さを忘れなかった教経(のりつね)と平家の行く末を、彼を幼い頃から慕い見つめ続けた玉虫という少女の目線で描いています。
古典をベースにしていますが、玉虫の目線を通すことで親しみやすく、また彼女の切ない恋心が物語に花を添えています。
全体的に軽やかでありながら、丁寧に史実を追っていて、また当時の習俗なども細やかに描かれているため、歴史物語としてもしっかりと楽しめました。
とある別の女性に心を奪われ、決して玉虫を振り向こうとはしない教経と、それでも彼を慕い続けた二人の切ない運命の行方。
おてんばな玉虫の様子が微笑ましい穏やかな始まりから、やがて平家が都落ちし、どんどん不穏さを増していく様子に、その結末を知っていいてさえ先が気になってあっという間に読み切ってしまいました。
何より、壇ノ浦の情景はあまりに過酷で、思わず目を背けたくなるほどの迫力。
十万字程度と読みやすい長さなので、腰を据えての一気読みがおすすめです!
カクヨムをやってて良かった……。
満足の溜め息と、涙が滲む目元を押さえながら読了しました。
平安末期、平清盛の甥である「教経」と彼を慕う女性「玉虫」の物語です。
恋の始まりからその結末までを、大きな時代のうねりを感じながらお楽しみ頂けます。
英雄的な人物の活躍を描く軍記物語というよりは、あの時代に生きた人々の人間ドラマが丁寧に綴られています。
情景も、人物達の心情も、選び抜かれた言葉できめ細やかに表現されていて、どんどん惹き込まれ、心が震えました。
平安宮中の様子を描くのがとても巧い作者さんなので、源平時代が気になる方だけではなく、平安の恋物語が好きな方も大いに楽しめる物語だと思います。
是非読んで頂きたい一作です。
数々のドラマがある源平争乱。
本作は、平家に仕える『玉虫』という女性が主人公の物語です。那須与一が射抜いた『扇の的』の横に立っていた美女が彼女です。
勇猛な将・平教経を幼少時から慕い続けた玉虫。
教経を見つめる視線の端々に映りゆく世の盛衰。
それらが過不足のない端正な筆致で綴られ、この時代の女性の立場や戦況の厳しさなどがすっと理解できました。
何よりも、心理描写が非常に巧みで素晴らしかったです。
少女から大人の女性へ移り変わっていく玉虫の心境が手に取るように分かり、深く深く共感しました。
滅びへ向かう一方の状況の中、ひたむきに教経を想い、決して自分を見失わずに背筋を伸ばし続けた玉虫の姿は、現代社会を生きる私たちにも通じるところがあるのではないでしょうか。
壮絶な悲劇の末路を辿った平家ですが、それぞれの覚悟や生き様を気高く美しいと感じました。それゆえに、どうしようもなく哀しく遣る瀬無いとも。
めちゃくちゃ泣きました。本当に素晴らしい物語でした。