商店街で青果店を営む秋山真心と、その妻である棗は、店の裏手で「くるみ薬膳庵」という食堂を開いている。そこでは日常に疲れた人々が訪れる。薬膳料理で心と身体に癒やしを与えるヒーリンググルメストーリーです。
薬膳料理といえば、苦い薬草や漢方薬を用いた中華料理のイメージですが、くるみ薬膳庵の料理はひと味違う。
味付けこそ漢方のスパイスや発酵調味料を用いているが、シチューにフライドチキン、ロールケーキといった洋風メニューも取り揃え、お客様のその日の体調に合わせた料理が提供されるところが魅力です。
そんなくるみ薬膳庵には、さまざまな悩みや事情を抱えた人が訪れる。クリスマスイブに残業するOL、職場や家庭に居場所のない中年男、子育てと家事に疲れた若い主婦……。厳しい現実や社会の荒波に疲弊した人々を無口で店主の真心と、お節介焼きな棗が温かく出迎え、つかの間の安らぎを与える。
まるで実家に帰ってきたかのような懐かしさと心地よさに包まれ、二人の料理を口にしてホッと一息ついて、新たな気持ちで日常へと帰っていく。そんな何気ない家庭的な物語がしみじみ心に行き渡る。
毎日を真面目に働くからこそ、ときには自分自身を労わり、家族や恋人との時間を持つことも必要です。そんな日常の忙しさで忘れがちな幸福を、この物語は読者にそっと教えてくれる。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
生きていると、いろんなことがあります。人間関係に疲れたり、不運に見舞われたり、自信がなくなったり、過去を後悔したり。
『くるみ薬膳庵』のごはんは、悩める人々の疲れた心にそっと寄り添い、人生を歩んでいくための栄養を与えてくれます。
ちゃんと食べる。ちゃんと生きる。本作は、その意味をじわっと沁み入るように感じることができる短編連作です。
各章、それぞれ悩みを抱える人の視点で、『くるみ薬膳庵』との出会いが綴られていきます。
年齢も性別も立場もばらばら。抱える悩みもその人ならではで、非常にリアルです。きっと誰かに共感できる。
各話のラストでは必ずあたたかで優しい気持ちになれるのが素敵です。
店主の真心さん、明るい奥さんの棗さん、二人の作り出す空気感が柔らかで心地よく、このお店に行ってみたいと感じること間違いなし。
あなたもぜひ、『くるみ薬膳庵』の扉を開けてみてください!