第12話よう! 傷だらけじゃねぇか!

 館の敷地を出て、裏路地を歩いていると、陽気な声に呼び止められた。


「よう! 傷だらけじゃねぇか!」


 口調は軽いが目が鋭い。貫くような視線を向けている。


 失敗した可能性を考えているのだろう。


「心配するな。ターゲットは殺した」


 証拠として手に入れた指輪を投げる。


 ブラウリオは空中でキャッチすると、片目をつぶり、月明かりに照らして真贋を確認する。


「魔道具で間違いなさそうだな! いやー! あんな大物を倒せるなんて、俺が見込んだだけはあるな!」

「大物と言っても本人の実力はたいしたことなかったぞ」

「本人の戦闘能力は並程度だが、この魔道具と手下を使った戦い方は上手い。常に人を置いてて警戒していたこともあり、組織も苦労してたんだよ!」


 俺の周囲を、陽気に跳ねながらぐるぐると回る。ブラウリオの異常なまでの喜び方を見ると、組織は任務が失敗すると思っていたのかもしれない。


「これで、貸し借りはなしだ。いいか……?」

「もちろんだぜ! ボスにも伝えておく!」


 俺の前で止まると小さい笛を取り出した。ブラウリオが吹いても音は聞こえない。


 ホビット族だけが聞こえる特殊な音を出すので、人間の俺には影響がないのだ。


「さて、これから仲間と宝探しに行ってくる!」


 さっき殺した男の屋敷を荒らして、金物のを盗んでいくと宣言した。


 預けていたショートボウを俺に投げると、祭りに向かう子供のように、笑いながら走り去って行く。


 見送ってから、服の袖を破いて右腕と胸にまく。強めに結んで一時的な止血をした。


 神聖魔法のヒールは使えない。神の寵愛を受けているとバレてしまえば、俺の自由は一切なくなるからだ。


 牢獄に監禁されて、ポーションの代わりに使われ続けるか、それとも高貴な血筋ではない人が神聖魔法を使うことを良しとしない、神の勘違いという名目で、異端審問官に殺されるか。


 最悪な未来はいくつも考えられる。


 よほどのことがない限り、使うつもりはなかった。


 血を失いすぎたことで視界がぼやけている、壁に手をつけながら時間をかけて教会に戻ると、アーリーが眠る部屋に入った。


 出て行ったときと同じだ。ベッドの上で寝ている。


 暗殺に使った装備をしまい、黒い神官服を脱いで薬を塗って包帯をきつく巻く。手当が終わって立ち上がると、アーリーと目が合った。


「起きたのか」

「神父様、そのケガは……」


 帰ったときに、もう一度スリープの魔法を使えば良かった。


 言い訳が面倒だな。


「気にするな。寝てろ」

「でも……」

「手当は終わった。死にはしない」


 ベッドから降りて立ち上がった。


 アーリーは小さい体を使って抱きつく。


「私を助けたから傷ついたんですか?」

「それは関係ない」

「嘘です。そのぐらいわかります……」

「お前がいた組織とは話がついている。その対価を少し払っただけだ。気にすることではない」


 返事の代わりに、アーリーは静かに泣いた。


 ここはスラム街。他人を利用するために小賢しく生きる人が多い世界で、彼女は優しすぎる。


「私にもお仕事を手伝わせてください」

「俺が何をしているのか知らないくせに、生意気なことを言うな」

「戦うお仕事だってことぐらいは、分かっています! 足手まといにならないように頑張ります!」


 そう言って俺の体から離れ、見つめる。


 また覚悟を決めた目をしていた。


「私にも戦う方法を教えてください!」


 その場で答えは出せない。


 白い神官服を着ると、逃げ出すようにして部屋を出るしかなかった。


◆ ◆ ◆


 その後、何度もお願いされて根負けすると、アーリーに戦う技術を仕込んでいくことになる。


 ただ暗殺の技術は伝えない。スラムで生きていくための力を教えるだけだ。


 いつか来るであろう俺の死、もしくはアーリーの旅立ち。いつかくる別れに向けて、これからの日々を生きていく。





====

ここまで読んでいただきありがとうございました。

物語は一旦完結とさせてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スラムで生まれ育った暗殺者の俺は、逃げ出した少女と一緒に悪人どもを殺していく~助けてくれ? 見逃して欲しい? 改心するから許してほしいだと?~ わんた@[発売中!]悪徳貴族の生存戦略 @blink

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ