第5話へぇ~。あのガキ、お前さんとの賭けに勝ったのか!

 その場限りの関係になるとばかり思っていたので、興味すら持たなかったが、そろそろ名前ぐらいは聞いておいた方が良いだろう。


「俺はスヴェンだ。お前は?」

「アーリーです。これからお世話になります」


 少女が頭を下げた。スラム街の住民にしては礼儀正しい。


 もしかしたら、育ちが違うのか?


「スラムのガキにしては礼儀が出来ているな。外から来たのか?」


 生まれは別の場所で、スラムの外からやってきたのか? という意味の質問だ。


 借金や犯罪を犯した者がくることがあり、そう言ったヤツらを「外の人間」と読んでいる。


「いえ、スラムの東側に生まれ、育ちました。礼儀については、小さい頃に母から教え込まれまして……」


 親世代が外の人間であれば、一応は納得できる。


 嘘をついているようには見えない。まぁ、仮に違ったとしてもたいした問題ではない。


 それより、入り口に人の気配がしているほうが重要だ。


 教会の来訪者は、俺が懇意にしているマフィアの関係者のみ。


 本業の話を聞かれては困るので、理由をつけて追い出すことにする。


「教会の裏に井戸がある。体と服を洗ってくるといい」

「は、はい! 行ってきます!」


 急に話題が変わったので疑問は残っているはずだが、そんなことは口にはせず、小走りで出て行った。


 入れ替わるような形で、身長が一メートルぐらいの男が入ってくる。


 種族は確か……ホビット族で、名前はブラウリオだったはずだ。


 陽気でコミュニケーションが高い。俺と組織の連絡役として働いている。


「ようよう! スヴェンよ! 女でも囲うことにしたのか!? 成人前の女が好みだなんて、知らなかったぜッ!」


 毎日が楽しそうに過ごしている声を出しながら、瓦礫を飛び越えて俺の元に来た。


「勘違いするな。娼婦ではないぞ。ここの新しい住民として、俺が認めた」

「へー! そりゃ珍しい! ってか、初めてだろ!! 馴れ初めを聞かせてくれよッ!」

「組織から抜け出して死にかけていたところを助けた。その流れで住むことになっただけだ」

「そりゃぁ……」


 ブラウリオの陽気な声が一転して、低く暗いものになる。


「マズイだろ。向こうの組織に戻さないと、抗争になるぞ」

「わかっている。組織の方で上手くやれないか?」

「さっきチラッと見たが、あれはタダのガキだぞ。お前が組織に借りを作ってまで、かばう必要なないと思うが」

「その疑問は、運命の女神様にでも言ってくれ」

「へぇ~。あのガキ、お前さんとの賭けに勝ったのか!」


 話を聞いてようやく納得したようだ。


 明るい陽気な声に戻った。


「女神様との約束じゃぁ、断るわけにはいかないなぁ! 俺から話を通しても良いが、代価はどうする?」

「次の仕事は無料で受けよう」

「おぉ! いいね! わかってるね!」


 俺の腰をペシペシと叩きながら、喜んでいる。


「さっそくボスに話をつけてくわ!」


 硬貨が入った小さい袋を押しつけると、ブラウリオが体から離れた。


 昨日、クスリを売りさばいていたエルフを殺した代金が入っている。


「名前はアーリー。歳は15歳以下、見た目はあんな感じだ」

「オーケー! そこまでわかれば、なんとかなるさっ! 任せなって!」


 短い足を必死に動かしながら、ブラウリオは教会から出て行く。


 まったく、落ち着きのないヤツだ。

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