第4話ライマの神官様らしいお返事ですね

 翌朝。目が覚めると、体をほぐして祭壇の前に立つ。


 敬虔な信徒というわけではないが、ライマにはお世話になっているので、時間があるときには祈るようにしていた。


 膝をついて、目を閉じ、手を組む。


 今日も運命を切り開く一日になるように。


 人がいる気配がしたので、短い祈りで終わらせると立ち上がる。


 後ろを振り向いて声をかけると、


「ケガは完全に治ったようだな」


 固まった血のついたチュニックを身にまとい、柔らかな笑みを浮かべた少女が立っていた。


「神官様のおかげです。昔の傷ですら、なくなっていました」


 間違いなく、ヒールの効果だ。


 彼女の肌にはシミやケガの後は一切残っていない。生まれたてのようなキレイな肌をしているはずだ。


「元気になったのであれば問題ない。さっさと家に帰るんだな」


 その一言で、少女は黙った。


 下を向いてしまったが、すぐに顔を上げて俺を見る。


 覚悟を決めた人がする目だ。


「帰れません。ご迷惑かもしれませんが、しばらくここに住まわせてもらえないでしょうか……」

「組織から抜けるために逃げ出したから、帰る場所がないのか?」

「えっ。なんで、それを……」


 少女は警戒心をあらわにしているが、夜中に、スラム街で血を流して倒れる理由など限られている。


 物取りか、暗殺、または組織内のもめ事ぐらいだ。この少女にとっては一世一代の出来事かもしれないが、ありふれた事件なんだよ。


「お前がどこの組織に所属していたなど、知らない。密告するつもりはない。そう、警戒するな」


 俺の言葉を信じたのか、少女の態度は元に戻った。


 さて、そろそろさっきのお願いに返事をしようじゃないか。


「コイントスを知っているか?」

「え、はい。コインを上にはじいて、表か裏かを当てる賭け事ですよね」

「そうだ。表が出たら、気が済むまで住んで良い」

「裏が出たら……」

「即刻、出て行ってもらおう。どうする?」

「その勝負、受けます」


 実質、選択肢などない問いだったな。


 硬貨を入れている袋から銀貨を取り出すと、少女に投げる。


 弧を描きながら、かわいらしい手の中に落ちた。


「お前がトスをしていい。やってみろ」

「私がイカサマをするかもしれませんよ?」

「バレずにできるのであれば、それもまた運命。お前の勝ちにしていい」

「ライマの神官様らしい、お返事ですね」


 運命を司る女神の名前を知っているとは、驚いた。


 スラムに住む連中は、神が複数いることすらしならいのがほとんどだぞ。


 意外に博識なのかもしれない。


「いきます」


 そんなことを考えている間に、少女は親指に銀貨をのせて弾いた。


 クルクルと宙を回転しながら、上昇していき、頂点に達すると落ちていく。


 少女の手の甲に当たると、もう一方の手でコインを押さえた。


「見せろ」

「……はい」


 少女が手をどかすと、銀貨があらわれる。


 人の顔が描かれている。表だ。


「や、やったぁ。表です!」


 俺にとっては最悪な結果だ。思わず、内心で舌打ちをする。


 アーリーは、緊張から解放された影響か、腰を抜かして地面に座り込んでしまった。


 住む場所すらも、己の運命と闘い、切り開いた。


 この結果を否定することはできない。ライマ神は、アーリーをここに住まわせろと、仰っているからだ。


「ここに、客人として住むことを認めよう」


 数年間、ずっと一人で暮らしていた教会に、新しい住民が増え、余計な荷物が一つ増えてしまった。

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