第7話俺はそれを受け入れる
朝食を食べたあとは、中古の服でも買おうかと考えていると、アーリーが話したそうに見ていることに気づく。
律儀なことに、話しかけるタイミングを見計らっているようだ。もしかしたら、話して良いと言うまで黙って見ているつもりなのかもしれない。
「言いたいことがあるなら、遠慮なく言え。見つめられたままだと飯が不味くなる」
いきなり声をかけられたアーリーは、ばつが悪そうな顔をしながら、口を何度かパクパクと開閉させる。
俺に何を伝えたいのか、そのこと自体に興味はないが、アーリーの行動は、魚のようで面白い。
黙って見ていることにした。
「あの……私を助けてくださったときに使った回復ポーションですが、働いてお金を返します。だから、見捨てないでください」
子供なんていつも腹を空かせているもんだから、もっと食べたいというのかと思っていたが、どうやら違っていたようだ。
神聖魔法を使えることは伝えていないので、回復ポーションを使ったと勘違いしているのは、まぁ、わかる。訂正する気はないので、そのままだ。
暗殺業もそうだが、巻き込まれることを考えると、伝えるべきではない。
全てはアーリーが賭けに勝って手に入れたものなので、何一つ返す必要はない。さらに教会に無期限で住めるので、俺が死なない限り見捨てることもない。飯代くらいはサービスしておいてやる。
だから、彼女が不安に感じていることは、まったくもって杞憂なのだが……一人の生活が長すぎて、なんと声をかければいいかわからない。子供の扱い方なんてしらんぞ。
仕方がない。事実をそのまま伝えよう。
「お前は俺との勝負、コイントスに勝った。それは賭け事が好きな女神が、教会にいてよいと認めたことになる。見捨てるはずがないだろ。そんなことをしたら天罰が下る」
比喩でもなく、神との誓いを破ったら本当に天罰が下るから怖い。特に俺は神からの寵愛を受けて、神聖魔法が使えるようになっている。他よりヒドイ仕打ちが待っているに違いない。
追い出したくても追い出せないが、正しい表現となる。余計な荷物を背負ったことにはなるが、賭けに負けた俺には、文句を言う資格はなかった。
「教会が安全だと思うのであれば、ずっと住み続ければいい。俺はそれを受け入れる。それとだ、言い忘れていたが、逃げ出した組織には、金で話をつける段取りをしているから不安にならなくていいぞ」
無言が続き、アーリーから涙がこぼれ落ちた。
手で押しとどめようとするが、効果はない。むしろ、勢いは強くなる。
ポタポタと、ほほをつたって地面に落ちていき、黒く濡らしていく。
こんな時、どうすれば良いかわからない。
やはり子供は苦手だ。
ただ、見ていることしか出来なかった。
「組織のことまで……ぐすっ……ありがとう……ございます」
「俺が懇意にしている組織——笑うシルクハットは、北地区全体の元締めだからな。すぐに処理されると思うが、それまでは俺と一緒に行動するように」
「は……い」
残っていた肉を一気にに口に入れると、飲み込んで、串を地面に投げ捨てる。
アーリーの頭を乱暴に撫でてから、立ち上がった。
「ここがスラムだとはいえ、血だらけの服装はマズイ。新しいのを買いに行くぞ」
まだ目をこすってグズグズしていたので、手を取って立ち上がらせる。そのまま一緒に古着屋へ歩き出したのだった。
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