第8話ついに私服を買う気になったのかい?

 古着屋に入ったところで、アーリーから手を離す。


 薄暗い店内には服や小物が乱雑に放置されており、いくつもの小さい山が出来ている。ゴミ山の様にも見えた。この中から目当ての物を探すのは相当苦労するだろう。


「いらっしゃい。ついに私服を買う気になったのかい?」


 木の箱に座っている老婆が、声をかけてきた。


「連れの服を探している」

「ほぅ、あんたじゃなく、そこの嬢ちゃんかい」

「これから教会に住むアーリーだ」


 紹介するとアーリーは頭を下げた。


 その姿を見て、老婆は片眉を上げる。


「礼儀はなっているようだね。覚えておくよ」


 屋台と服屋。この二人に紹介しておけば、アーリーのことは勝手に広がっていく。北地区の住民として受け入れてもらえるはずだ。後ろ盾に俺がいることも伝えているので、簡単に手を出すようなことはされない。


「三着まで好きな物を選べ。それ以外にも必要な物があったら遠慮なく言うんだ」


 女、それも少女が好む服など分からないので、一人で選ばせることにした。


 待っている間、老婆の近くに立つ。


「あの娘、東地区のストリートチルドレンだね」

「知っているのか?」


 この老婆は、情報屋もしている。


 無言で手を出されたので、銀貨を一枚置いた。


「東地区にあるアールド・キングスという小さな組織の参加にいるグループだ。あんたのところから話を通せば、簡単に終わるだろうね」


 北地区まで傷だらけのアーリーを追って来れなかったことを考えれば、大きな組織ではないと予想していたが、想像よりもはるかに小さなグループだった。


「何をやって抜け出そうとしたのか調べるかい?」

「頼んだ」


 銀貨を五枚、追加で老婆に渡す。


「景気が良いね。分かったら教会を使いに向かわせる。それでいいかね?」

「あぁ、大丈夫だ」


 話が終わったので、腕を組みながらアーリーを見ることにした。


 服の山をかき分けて物色している。既に手に二着持っていて、さらにもう一着も、見つけたようだ。茶色いワンピースを抱える。


「お待たせしました」


 駆け寄ってきたアーリーが服を見せる。善し悪しなどわからないので、さっと見ただけで終わらせた。


「ばあさん、いくらだ?」

「一着、銅貨十五枚だよ」

「それと頑丈なブーツを追加で一つお願いしたい」

「銀貨一枚」


 相場通りなので、値切るようなことはしない。


 銀貨一枚と銅貨四十五枚を渡してアーリーにブーツを選ばせる。遠慮しているようだったが、さっさと選べといった視線を送ると、素直に従った。


 その後、購入した商品に着替えさせてから、別の店で日用品を買いそろえ、教会に戻る。


 今日一日歩いたとこで、アーリーの顔見せは無事に終わることになる。

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