スラムで生まれ育った暗殺者の俺は、逃げ出した少女と一緒に悪人どもを殺していく~助けてくれ? 見逃して欲しい? 改心するから許してほしいだと?~

わんた@[発売中!]悪徳貴族の生存戦略

第1話ターゲットは殺した

 誰もが寝静まった夜。裸のまま、二人の女を抱いて寝ている男の前に立っていた。


 小さな部屋にはクスリを使ったと思われる煙と香りが残っており、ベッドの下にはクスリが入っていたであろう、小さい袋がいくつも転がっている。


 今日のターゲットは、頭がハッピーになる違法なクスリを売っている男だ。


 俺が懇意しているマフィアの縄張りを荒らしたとので、粛正の対象になった。


 小物だ。


 普通なら駆け出しの暗殺者が担当する。


 残念なことに、今回は人手が足りないのでかり出されてしまった。


 まぁ、どうでも良いか。さっさとコイツをころして、家に帰るとしよう。


『永久の眠りを、スリープ』


 より深い眠りを誘うために魔法を使った。魔放というのは、人間だとごく一部しか使えない。俺は選ばれた側であり、そのおかげでスラム街を生き残り、暗殺者として活動を続けられている。


 女の方は魔法の効果が効いたようで、寝息が静かになる。しかし、男の方は違った。魔法に抵抗したようで、頭をフラ着かせながらも立ち上がった。


「てめぇ、どこから入ってきた……?」


 裸で逸物をぶらさげたまま、威嚇をしてきた。


 耳が長い、エルフか。


 魔法に長けた種族なので、俺の魔法に抵抗できたのも理解できる。ターゲットがエルフなら、毒物を使って眠らせれば良かったと後悔するが、たいした違いはないと気持ちを切り替える。


 持っている棒を振るうと、静かな音を立てながら伸び、1mほどのショートスピアに変形した。


「こ、殺す気か!?」


 裸のエルフが、ナイトテーブルに置いてあったダガーを取ろうとする。


 返事をする代わりに一歩踏み込み、男の胸に突き刺した。


「うっ……」


 口から血がこぼれ、ベッドのシーツが赤く染まる。


 部屋に月明かりが差し込み、部屋が明るくなった。


「黒い……神官服…………だと……」


 エルフは目をまん丸としながら、俺の服装を口にした。


 俺は運命を司る女神を信仰している神父だから、着ていてもおかしくないだろ?


 といってみたものの、スラム街に放棄された教会に住み込み、勝手に名乗っているだけなので、正式に洗礼を受けたわけではない。


 もし願い出たとしても、スラム街の住人は門前払いされるのがオチだろう。


 槍を引き抜くのと同時に、大きく後ろに下がって、ドアの後ろに隠れる。


 噴水のように血を吹き出したエルフは、こぼれ落ちる命を押しとどめるように胸を押さえながら、力尽きて倒れた。


 隣にいる女は、血まみれだが起きる気配はない。魔法の効果が続いている。


 ショートスピアに残った血をシーツで拭き取ってから、壁に組織のマークであるシルクハットを描く。


 部屋の外に置いておいたマントを羽織ると、窓から屋根に飛び移る。そこに、一人の男が立っていた。今回の作戦全体を管理しているマフィアの人間だ。


 雇われているわけなので、無視をするわけにはいかない。簡単な報告をする。


「ターゲットは殺した」

「よくやった。後は掃除屋に任せろ」


 暗殺者がいた痕跡を消す専門のチームだ。基本的には徹底的に物を破壊することが多い。


 部屋に残した女は殺されるか、売られるかのどちらかになるだろう。売人と一緒にクスリをやっているようなヤツだ、同情する価値はない。


「任せた。俺は帰る」

「また、次の仕事が来たら連絡をする」


 返事をせずに一歩踏み出し、そして止まる。


「ターゲットが人間以外なら必ず教えろと、調査部に行っておけ」

「……人間ではなかったのか?」

「エルフだった」

「情報の伝達ミスがあったようだな。後で原因は調べておく」


 その言葉を聞いてから、次の屋根に飛び移り、住処であるスラム街にある崩れかけた教会に向かうことにした。

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