第11話なめ腐りやがって!!

 待ち伏せされたからと言って、ブラウリオや組織に裏切られたと勘違いしてはいけない。


 敵対組織を使って俺を処分するなら、ご同業を派遣した方がリスクは低いからな。単純に情報が漏れていたか、もしくは予想されていた、そのどちらかだろう。


「どこの組織の者か、だいたいは想像がつく。さっさと死ね」


 左右から剣が振り下ろされた。後ろはドアが閉まっていて、逃げ場はない。


 回転しながら上に跳躍をして天井に足をつける。


 俺を狙っていた剣は空を斬って、床に当たっていた。


『矢より早く敵を貫き、燃やし尽くせ、ファイヤーボルト』


 近くにある照明をつかんで、落下までの時間を稼ぎながら魔法を使うと、周囲に炎の矢がいくつも浮かぶ。


「ま、魔法だとッ!?」


 炎の矢が降り注ぎ、辺り一面を焼いていく。狙いはつけてはいなかったので、床や家具なども貫いていく。運のない奴は体を貫かれて即死だ。腕や足に刺さって戦闘不能になるヤツが多い。


 ターゲットの暗殺者は部下を盾にして生き延びていた。


 手を放して火の海となった床に降り立つ。


 マントが燃えてきたので、片手で脱ぎ捨てる。


「黒い、神官服だと! なめ腐りやがって!!」


 ターゲットの男が剣を突き出しながら攻めてきたので、ショートスピアで打ち払う。男はバランスを崩しながらも、回転し、けりを放ってきた。


 体をのけぞらせて回避すると、すかさずまた蹴りが放たれた。腕を十字にして受け止めると、吹き飛ばされて、ドアに背中を打ち付ける。


「くっ」


 一瞬、痛みによって俺の動きが止まった。


「なんでもいい! 投げろ!」


 生き残っていた敵が、ナイフや剣、椅子などを、投げてくる。そんな雑な攻撃が当たるほど弱くはない。ショートスピアではじきつつ、大きいものだけ回避する。


 近くにいる敵からショートスピアで突き刺し、ターゲットを含めて三人まで減らすと、突如として魔力が発生するのを感じた。ターゲットの男がつけている指輪が怪しく光っている。


 ——魔道具。


 魔力がない人でも魔法が使えるという、古代文明の遺産だ。使い切りと魔力をチャージして繰り返し使えるタイプがある。あの男が使っているのは、チャージ式のようだ。


『拘束せよ、パラライズ』


 体が硬直して、動かなくなる。


「殺せ!」


 指示に従って、二人の男が胸と頭を狙ってきた。


 魔力を全身に回して、魔法に抵抗する。完全ではないが少しは動かせるようになったので、左腕を前に出すと、頭を狙った剣が貫く。心臓を狙ったダガーは、体をねじって腹に突き刺さる。急所を外すことに成功した。


 左腕は完全に動かない。口から血が垂れ落ちる。


 だが、生きているのであれば、十分だ。


 右手に持ったショートスピアで、腹を刺した男の胸を刺し返す。心臓を貫いた感触があった。


 ショートスピアを手放すと、俺の右手から剣を引きぬこうとしている男の腕をつかみ、引き寄せる。頭突きをかまして、怯んだところで、腰につけていた刀を抜刀。それと同時に切り付けて、上半身を斜めに切断した。


「くそがッ!」


 また指輪から魔力を感じる。


『拘束せよ、パラライズ』


 拘束の魔法が発動したが、来るとわかっていれば対処できる。


 全身の魔力を活性化して、抵抗した。


「な、効かないだと……ッ!」


 一歩、二歩と踏み込み、三歩目で切り捨てる。ターゲットの男は体が上下に分かれると、信じられないという目をしながら死んでいった。


 ベテランの暗殺者とは聞いていたが、実力は大したことはなかった。


「ゴフッ……」


 激しく動いたことで、傷口が大きく広いた。


 燃える部屋の中で、ポーチからポーションを取り出して飲む。10段階ある等級のうち、下から二番目の8級ではあるが、傷を完全にふさぐことはできなかった。


 血の流れが弱まったものの、傷口は残ったままだ。これ以上は、教会に入ってからではないと治療できない。


 ターゲットを殺した証拠としてパラライズの指輪を抜き取ると、窓から飛び降りて、屋敷から逃げ出すことに成功した。

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