旅人と赤い本。いくつもの小さな物語が、やがて大きな物語へ——!

 教会の秘密の図書室に納められている「赤い本」。若い助祭がその本と出会い、惹かれてしまうところから物語が始まります。

 1〜3話ほどの、それぞれ別の登場人物の視点で語られる物語は、ひとつひとつがとても個性的で、時にはやんちゃな少年、あるいは磊落な酒場の主人、少しくたびれた兵士、そしてある時には人ではない吸血鬼の目線で——。

 そんな個性的な登場人物たちの目を通して語られるのはそれぞれ違う時代、違う街。たったひとつ共通するのは、つば広帽子を被った謎の青年ギル。

 この物語の素晴らしいところは、それぞれが独立した掌編でありながら、やがてその登場人物たちがあちこちで再登場し、少しずつ繋がっていくところです。読んでいるこちらも、お気に入りの登場人物を別のお話で見つけて、あ、あの人だ!と嬉しくなってしまったり。

 いくつもの小さな物語が、やがて一つの大きな物語へと収斂していく、見事なハイ・ファンタジー。ぜひ、ゆっくりとひとつひとつの物語を楽しんでこの世界に浸り、その結末を見届けて欲しい一作です。

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