第三章 幽霊令嬢と皇帝陛下と私①
あと何分も
「私を
帝都の水源たるティセリア湖のほとりにあるそのお屋敷は、それほど大きくはないそうだけど、当主が
彼らの前に、私がこのまま姿を現すのはまずいということに気がついてしまったのだ。
「ええ。確かに…………というか、正直こんなにすんなりと協力してもらえるとは思っていなかったというか…………」
「…………こういうの、別料金ですからね」
身代わりの仕事はもうはじまっている。
その第一段階として、私はリルフィア姫としてお屋敷に到着しなければならない────。
「ええ、もちろんです。…………何とかなりますか?」
どうしたらいいのか? と必死で考える私を見ながら、閣下がどこか楽しげに笑う。
「…………別料金って言われて
「いえ、そうではなくて、何も知らなかったはずの
「破格の
私は
金糸で複雑な
私にとって
「……閣下は、外套か何か……上に羽織るものを持っていらっしゃいますか?」
「ああ、これで良ければ…………」
それでも私にはぶかぶかで、ちょこんと指先だけがかろうじて出る程度。とても人前に出る格好ではない。
「一応は
あえてお義兄様と呼んでみた。
「は?」
閣下は、何を言われたのかわからない、という顔をした。
「馬車の中で
「…………それは、必要なことですか?」
「はい」
「…………どうしても?」
「別に冷え込む季節でも何でもないのに、お義兄様のぶかぶかな外套を着た私が馬車から降りてきたのを見たら、使用人達はおかしく思いませんか?」
「たぶん、思うでしょうね。────下手をしたら誤解を招きます」
閣下はそれは
「誤解? ────であれば、この祭服のまま降りた方が
「もちろんそうです。…………ええ、わかりました」
苦虫を
わりと名案だと思うのに、なぜここまで渋られるのだろうか? と私は不思議に思う。
「聖女……いえ、リルフィア。……世間というのは、とかく火のないところに
「いかがわしいこと? ……ああ、そういえば帝国貴族のご令嬢の基準だと、成人した男性と二人きりで馬車に乗っただけで
すでに五日も二人きりで馬車に乗っているのだ。
それを私がさらりと
「……その……そんな風に言われるのは大変
もしかして、今までまったく気付いていなかったのだろうか?
ここで、来たー! と思ってしまうのは、ビビの教育の成果だ。
ビビは私のすべてを報酬にかえていく主義にあまりいい顔はしないのだけれど、機会を無駄にせず最大限に活用するようにと教えてくれた。
「…………私としては大変な
私は傷ついたようなそぶりでそっと目を
「申し訳ありません。
「いえ、それについては閣下の誠意を、追加報酬として反映していただけると嬉しいです」
私は小さく首を
「…………それで良いのですか? 貴女の
閣下は私の代替案に何やら
「私は別に
帝国と
つまり、この場合疑われるのは閣下とリルフィア姫であって、私個人にはまったく問題がないのだ。
そのことに閣下は気付いていないようなので黙っておくことにした。
「それに、閣下とリルフィア姫の
「いや、
「……お言葉を返すようですが、そもそも、そんな風に誤解する使用人達であることが問題ですし、それが外に
「おっしゃる通りではあるのですが…………」
「……ああ、では、私の具合が悪くなったことにしましょうか? それなら、さほど噂にはならないのでは?」
リルフィア姫は
「……なるほど、そうですね。それがいい」
閣下はようやく安心したように、何度もうなづいた。
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