第一章 私と幽霊と宰相閣下①
カラコロと軽快な音をたてて馬車は走る。
私の知る限り最上級に
車内はやたらと広く空間がとられていて、クッションもフカフカだったけれど、乗り慣れていないせいで、ただ座っているだけのことが私にとっては難行苦行にしかならない。 だから、どれほど車内環境が整っていたとしても、あまり意味がなかった。
そのうえ、ほとんど知らない人と同乗しているのだ。しかも相手にこちらと交流しようとする様子がまったくない。
(……気が重いです)
本でも読めるのなら多少の
(……う ゛う゛ っ、もう帰りたいよぅ……)
聖都ラ・メリアの大聖堂を出て今日で四日目。
沈黙したまま馬車に揺られているだけの私は、すでに帰りたくて仕方がなくなっていた。
***
事のはじまりはたぶん、私――――グレーシア゠ラドフィアの導師であるファドラ法皇
遊牧の国であるベネゼラには強い王権というものがなく、氏族単位でしかまとまっていない。そんな国で起こった冷害は、そのまま何もしなければわずかに残った資源を
だから、猊下のなさったことは……我々、ラドフィア聖教団が中心となって、ベネゼラの国中に
聖職者の
ご自分の年金を担保にいれ、前年の国家
(結果として、ベネゼラをはじめとする東部諸国では多くの人命が救われたし、そのおかげでラドフィア聖教が広く信じられるようになって、各国の
父なるラドフィア神の
が、それと同時に、我がラドフィア神聖皇国には恐ろしいものが残された。
そのままにしておけばどんどん
元々、ラドフィア皇国はそれほど
領土の
その借金をせっせと減らしているのが、ラドフィアの聖職者による『人材派遣』という名の
皇国では、
私は、生来
そして、今回の『人材派遣』のお仕事は、私の所属する聖都の大聖堂では問題案件として去年から話題になっていたものだった。
何と言っても求められている条件がうんざりするほど多く、かつ注文が細かい。
しかも派遣先の相手に問題がたっぷりあり、最初からものすごく
(それでも引き受けたのは、ほんっともうギリギリだからなんですよ!)
何がギリギリか――――借金返済の期日である。
来月末に三十億ベセル…………皇国の国家予算のおよそ一ヶ月分にあたる金額を用意できなければ、聖都の大聖堂が差し押さえられてしまうのである。
それくらいなら何とかなるのでは? と思われるかもしれないけれど、予備費があることが珍しい貧乏国家において、三十億ベセルなどという大金は簡単にどうにかなるような金額ではない。そもそもどうにかなるなら借金などするわけがないのだ。
期日までに用意できる予定がたっているのは二十億ベセル。
残りの十億ベセルはどれだけ
いったい全体どこの大馬鹿がよりにもよってこの聖都の大聖堂を担保に差し入れたのかといえば、これが何を
だから、周囲は何も言えない――――誰 だれ でも一度や二度、下手したら三度や四度くらいは、自分の
(だからって、総本山の大聖堂を担保にするとかありえないんですけど !! )
歴代最高の治癒術を
根っからの聖職者気質で楽天家でもある猊下は、いよいよとなったら、
でも私は知っている――――祈るだけではお金は降ってこないし、こんなことくらいでは眠れる神は助けてくれない。
だから、自らのこの手でしっかりと
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