第一章 私と幽霊と宰相閣下③
『なぁに、グレス。その男に
からかうような笑いを
グレス――――グレーシアというのが、私の洗礼名だ。
見惚れているのではなく、目の前の相手と『お話し合い』の機会をうかがっていた私は、ヴェールの
私が頭から顔に
ふわりと
驚くほどの至近
ふわふわと
生前、帝国貴族の頂点たる九つの選帝侯家の一つの直系のご令嬢だったというビビは、驚くほど博識で世間に通じている。下手をしたら、れっきとした生者である私よりもよほど情報通だ。 『幽霊』という
現在、十五歳の私より四、五歳くらい年上で、魔法にとても
『まあ、彼、見た目は悪くないみたいだけど』
(…………そういう興味はないし!)
私が否定の意味で首を横に振ると、ビビがニヤリと笑う――――
(…………選帝侯の代理人だっていうけど、ビビ、知ってる?)
『知らないわ。今のフィアリスは私の知るフィアリスではないから…………』
(…………ふぅん)
(じゃあ、皇帝陛下のことは? 知っていますか?)
『全然。……大聖堂で聖職者達が噂していたくらいのことしか知らないわ』
幽霊のビビが私よりずっと情報通なのは、大聖堂のあっちこっちをお散歩したりしている時にいろいろな噂を仕入れるからだ。
(それでいいです。教えてください、ビビ。どんな人なのかしら?)
『んー、まず、帝国最強の武人』
(皇帝陛下本人が?)
『ええ、そうよ。っていうか、帝国はね、実力主義の国よ。最も強い者が皇帝冠をかぶるって決まってるの』
ビビは実力主義って言うけれど、正確には『血統を重んじる実力主義』だ。だって、帝国の要職に平民がついたことはないから。
でも、わずかでも貴族の血があれば、後は実力次第ということでもある。
何代か前のどこかの選帝侯家の
(最も強い者をどうやって選ぶんですか?)
『決闘よ』
ビビはきっぱりと言い切った。
(決闘?)
え? と私は思った。古式ゆかしいというか、今時、決闘なんてあるんだ? と思ってしまったほどだ。
『そう。…………代理人も認められているけれどね。基本的には皇帝候補者本人が聖域で決闘をして、その勝者が帝座につくの』
(…………さすが、
『まあね〜。何かと決闘で決めるようなとこはあるわね。…………で、今の皇帝陛下が皇帝になったのは、だいたい八年前って話よ。当時、あまりの強さに死ぬまで帝座に
(暴帝はちょっとだけ知っていますよ。前の猊下がそりゃあ嫌っていましたから! 私達、子守歌代わりに暴帝がどんなに酷い皇帝だったか聞かされていました)
『それ、最悪の幼児教育だと思ったわよ』
ビビが眉を
(え? わかりやすいじゃないですか。……最悪の見本を出して、最後におまえたちはそんな人間になってはいけないよっていうオチがつくんです)
『オチじゃないでしょ、それ』
(じゃあ、教訓?)
『まあ、教訓って言えば教訓よね』
ビビはふぅと溜め息をつく。
(それで? その暴帝に勝ったから最強ってことなんですよね?)
『ええ、そうよ。…………帝国は暴帝に
(そーゆーのだけじゃなくて、もっと私的なこぼれ話とかないんですか? 一目で見分けられるような特徴とか…………)
『顔は悪くないみたいだけど、あなたはそういうのわからないわよね。女性人気はあんまりないみたいよ』
(どうしてですか? 帝国の最高権力者ですよ?)
『さあ? でも、武人はあんまり好かれないものでしょう? あの暴帝を打ち破ったから余計に恐れられているみたいだし…………』
(弱いよりずっといいと思いますよ。最高権力者が弱いのは罪だと思います。私はそういうの、嫌いじゃないです)
『へーえ、グレスは皇帝陛下みたいなのが好みか〜〜』
ビビが
(そういうんじゃないんですってば)
『へーえ』
ニマニマ笑うビビは、噂好きなおばさん達みたいだった。
私は聖職者なので異性に興味はないし、
(そこだけが、ビビの困ったところだと思う)
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