第三章 幽霊令嬢と皇帝陛下と私②
『…………ふ〜ん、やっぱりただ者じゃなかったわけだ』
仮病を使ったおかげで使用人全員の前で
「ところでビビは、どこかで閣下を見た覚えとかなかったの?」
選帝侯家のご令嬢だったビビだ。同じ選帝侯家の子供である閣下とどこかしらで面識があってもおかしくはないはずだ。
『彼はフィアリス選帝侯家の正統
ビビの
「ふ〜ん」
寝台の
同年代の友達が一人もいない私にはとても楽しいひとときだ────ここが、他国で心底安心できない場所であったとしても。
『……それにしても身代わりねぇ……いったい全体、なんでそんな
ふわふわと
「んー、まあ、
『待って。もしかしてまたお金を積まれたわね? もう〜、グレス、あなたお金に弱すぎよ!
「お金にはちょっと弱いけど、安売りなんてしていませんよ」
私は心外だ、という顔で言った。
「だってビビ。最低でも七億ベセルの追加報酬なんですよ!
『七億ベセルの追加報酬ってことは、大聖堂問題が
「はい! …………もちろん、無事、身代わりをやりとげれば!! なので、
何がおかしいのか、ビビが笑いをこらえる表情でおなかのあたりを押さえている。
『……いえ、何でもないのよ、気にしないで』
「もちろん、ビビも協力してくれますよね?」
『ええ、いいわ。じゃあ、まずはお
「え? お風呂?」
後でこっそり使おうとは思っていたけれど、今はまだビビとおしゃべりしていたい気分だったりもするのに。
『そうよ。だってグレス、今のうちに一人で入っておかないと
「え……帝国のお姫様って、一人じゃお風呂に入れないものなの?」
『そうよ。いろんなお手入れとかもあるから……。でも、あなたはまず、それを見られたら困るでしょう?』
それ、とビビが指し示したのは私の
「確かに。……見られたら一発で身代わりだとバレますね」
何も知らない人には花の形の
本物のリルフィア姫にそんなものがないことは明らかなので、見られたら言い訳のしようがない。
『とりあえずお風呂には自分で入って、下着を身につけた状態で侍女を出迎えるくらいにしておかないとね』
「はぁーい」
正体がバレないようにする努力は何にも増して優先しなければならない。
(七億ベセルですからね!)
気の
私は寝台から起き上がると
身軽な下着姿のままで寝台から降りると、ベッドサイドに
(……これ、
孤児院では、男女ともに器用な者は
私は
(ちょっとした
『ちょっと、グレス。また何か
「え? 怪しくなんかありませんよ。ただ、孤児院の手仕事について考えていただけで」
『
ビビの言葉に私ははっとした。
「そうでした。最優先は、リルフィア姫の身代わりをきっちり務めることです。そのためにはまず、明日の皇帝陛下との対面を
『そういうこと。……対面の挨拶の文句や礼は覚えている?』
「だいたい覚えています。あとでちょっと帝国式の女性立礼のしぐさを
ここがリルフィア姫の私室ならば、もちろん用意があるだろう。
右か左かを問うとビビは首を横に振った。
『わからないわ。水回りは寄せて作るのが基本だから、
「なら、
それはそれでちょっと楽しい。
私は加護の刺繡が山ほどされている下着姿のまま、衣装部屋を探して片っ端から
一つ目の扉は専用の居間へと続いていて、二つ目は奥にバスタブのある
「おー、ありました」
「うわ、明日登城する時にはこういうの着るんですかね?」
『そうよ〜。初登城なら一級礼装だけど、昼間ってこととリルフィア姫の身分を考えると、今回は略礼装かしらね』
「…………ねえ、ビビ。皇帝陛下ってどんな人なのかしら?」
以前にも聞いたことを、あえて私は問うた。ビビが何かを隠しているような気がしていたからだ。
「…………さあ。またその話? この間も話したけれど、今の皇帝陛下のことは本当に知らないのよ。それより、敵地に乗り込むんですから、
「はーい」
誤魔化された、と思った。でも、聞いてはいけないような気もしていた。
もしかしたら、ビビにも良くわかっていないのかもしれない。
『いい、選帝侯家の血筋っていうのはね、どれ一つとっても一筋縄なんかじゃいかないの。帝国は
「寝言とは言い得て
『ごめん……皇国ジョークってよくわからないわ』
「まあ、ビビは帝国人ですからね!」
私は、一番簡素で一人でも着ることができそうな白い寝間着を選び、それからバスローブとバスタオルを発見して気分があがった。どっちも
選帝侯家のお姫様専用バスルームは、一人で入るのになんでこんなに広いんだ、と思ったけれど、何もかもが海のモチーフで作られていてとっても可愛かった。しかも、ほんのちょっとお願いするだけで
それから、寝台でまたビビとおしゃべりしながら改めて明日の登城の作法の確認をしていたけれど、
その後で侍女と一緒に閣下が訪ねて来たらしいけれど、私はまったく目覚めることなく朝を
たぶん閣下は、私が身代わりをちゃんと務められるのか相当気を揉んでいたと思うけど、私の方はそんなこととは露知らず、夢も見ずに眠っていたのだった。
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