第14話 現場レベルの真相
14-1 凶器
「改めまして、高田さん、警視庁捜査一課の山城葵と申します」
葵は、改めて自己紹介した。
「まず、凶器の××社製ライフルですが、どこから入手したんですか」
「どこからって、あれは自作だったのよ」
「自作?どういうこと?」
「3Dプリンタを上手く使って、××社製ライフルに匹敵する武器にしたんです。但し、インターネット等のホームページ等を参考にはしたけれど」
葵は言った。
「なるほど、情報化社会ならではの情報機具を使った犯罪ね」
傍らの玉井は思った。
「彼女の失脚のポイントとなった盗聴も、手製装置によるものであった。ある種、<専門>というカテゴリーは存在せず、誰でも、相手を追い詰められるわけだ」
「3Dプリンタはどこで入手したのかしら?」
「市販のものです。色々と売られている市販の量産品を購入し、組み立てたんです」
銃砲店等を回っても、ヒントが出て来なかったわけである。葵としては、この時点で、既に、3Dプリンタの線も考えるべきかとは思っていた。しかし、その前に、捜査の主流が、公安に移ってしまった。又、そうならなかったとしても、量産の市販品を捜査して行くとなれば、これまた、雲をつかむような話となったであろう。さらには、人から人へと部品等が渡っていたとすれば、いよいよ、捜査は困難になったに違いない。
さらに、銃弾は、どうしたのか。3Dプリンタで銃を作製できても、銃弾がなければ、用をなさない。
「それについては、ある互助組合が管理する鉄工所で作製しました」
ある鉄工所?もしや、かつての斉藤良雄が経営していた斉藤鉄工所のことだろうか?
「その鉄工所って、斉藤鉄工所のことかしら?」
「そうよ」
意外なところで、事件と事件のつながりが明らかになった。
ならば、その
<互助組合>
は、例の神崎哲也の関連していたそれであろう。
「その互助組合って、神崎哲也が関連していたわよね。確か、斉藤鉄工所の経営者の斉藤良雄氏が邪魔だからと殺害した事件に関連してた」
「そうよ」
つまり、斉藤鉄工所には良質の機械があり、乗っ取った後、津島や神崎に取り入っていた崎田と山村等の一部の関係者が、機械の確認と称して、数発の銃弾を作製し得るかを確認し、銃弾を作製した。但し、その際、
「専門的な試験に集中したい」
として、当該の機械の周囲を立入禁止としたうえで、やはり、インターネット等で調べておいた
・米国××社製ライフル
の銃弾を数発、作製し、そのまま、持参の鞄に詰めて、持ち帰ったのだという。崎田と山村は殺人も犯しているので、既に、<世界創世教>の枠組みからは逃れられなかったのであった。
過去の事件について、意外なことが分かった。
しかし、この事件当時、関係者の1人であった津島が自殺している。
「あの事件の時、関係者の1人であった津島が自殺しています。なぜです?」
「津島も、深沢辰美、相川雄造と同じく、高田家が救ったチンピラでした。彼も又、過去に起こした事件を私の実家が金の力でもみ消していました。その津島には、<世界創世教>に参加して、努力している限り、高田家等から、給与もでる。その限りであなたの生活は安泰だ。しかし、上手く活動できなかったり、警察に逮捕されれば、おしまいだ。仮に、俺は高田家や民政自由党から援助されていると言ったところで、警察は、我々権力の味方だ。お前の言い分など、相手にされない。過去の悪事も暴露されるし、お前は丸裸だ。
良い状況のまま、人生を終わりたければ、逮捕された際には、自殺でもした方が良い、と暗に言ってあった」
尋問が脱線したものの、津島の自殺の原因が分かった。
葵は、どこまでも、自身の自己保身のために動いていた高田やその周囲に怒りをあらわにしつつも、続けた。
「しかし、津島や、深沢辰美、相川雄造等も、スマートフォンをも持っているし、貴女が実質的な<教祖>であって、金と引き換えにこういう状況である地元などでバレる危険性はなかったの?」
「高田家や土田家は、地元の名士で、地域は、両家を中心にまとまって来た歴史があるのよ。その和を乱す者は、村八分などで排除されたこともあった。だので、高田家や土田家はいつも正しいという風潮があったし、迂闊なことを言えば、21世紀の今日でも、そうした動きは出なかった」
つまり、
<劉仁宏氏殺人事件>
は、閉鎖的な
<村社会>
というべき、悪伝統と、
<グローバル化>
という新しい時代の諸矛盾がもたらした新旧両
<社会問題>
が合作したものであった。
なお、3Dプリンタ等は、証拠隠滅のため、直ちに解体し、神崎の製作所の炉にくべて、溶かし、処分したのだという。
事件の全容が明らかになって来たところで、葵は尋問の方向を変えた。
14-2 殺害現場
「では、次に、殺害方法と現場についてだけどね」
葵の問いに、高田は答えた。
「劉仁宏議員は、都内のマンションに住んでいますよね。最近は、忙しくしていたから、帰りが遅くなることもあり、夜中の12時過ぎなんてことも多いことも多いことは分かっていた。そこで、マンションの周囲の茂みに、深沢辰美、相川雄造の2人、それと、<世界創世教>に協力していた右翼関係者を潜ませて、帰宅してきたところを、素早く薬品をかがせて、眠らせた上で、近くに停めておいた車に乗せ、都内のアジトに連れ込んだ」
劉仁宏も、自身が何かしら、政敵等に狙われるかもしれないことは承知していたであろう。しかし、それでも、やはり、自宅マンション前まで来ると、心情的に気が緩むものがあったのであろうか。その一瞬のスキを狙われたのであろう。これは、葵にとっても、私生活として、警戒すべきことでもある。そう思うと、他人事ではなかった。
「そして、米国××社製ライフルを模した手製銃で、眠ったままの劉仁宏を殺害した」
そして、死亡推定の時刻を混乱させるため、大型冷凍庫にて、
<冷凍保存>
し、数日後、遺体発見現場となった街の河川敷に遺棄したのであった。
劉仁宏の遺体が遺棄されたのは、勿論、殆ど、人気がない深夜のことである。この地区は、不法投棄が半ば、常態化しているため、目撃されても、
「また、何かのごみ不法投棄か」
と思われるだけだろうから、然程、怪しまれないだろう、と思っていたとのことであった。
しかし、実行犯の深沢辰美、相川雄造の2人は、後に逮捕された。
タレコミがあったからである。誰のタレコミだったのか?
「劉仁宏のたれ込むようにと、深沢辰美、相川雄造の2人と行動を共にした右翼少年の1人に言っておいたのよ。但し、公衆電話の電話ボックスから、しかも、都外に離れて、手短に連絡した上で、アシがつかないようにしなさい、と言っておいた」
高田の回答であった。
こうした、いわば
<一連のシナリオ>
は、土田も承知であったのであろう。玉井等が、所轄署での容疑者聴取に参加できなかったのも、
<一連のシナリオ>
がばれることを恐れた、土田からの圧力だったのであろう。
14-3 犠牲
玉井と葵が捜査を進めていたところに、取調室の戸を叩く音がした。
尋問内容をノートに取っていた巡査部長が、戸を開いた。そこには、もう1人の巡査部長が、半ば興奮状態で立っていた。
「どうした?」
戸を開いた巡査部長が問うた。
「島井部長、玉井警部、それに山城警部補、○○市の所轄署に拘留されたいた深沢辰美と相川雄造ですが、担当者が目を離した隙に、眼鏡を割ったガラス片で手首を切って、自殺したそうです」
「!?」
またも、関係者の死者が出てしまった。
葵は、改めて高田の方に向き直った。
「高田さん、あの2人にも、津島に対して言ったのと同じことを言っていたの?」
「そうよ」
高田の表情からは、悲しんでいるようにも見えた。しかし、何を悲しんでいるのか?
「何を悲しんでいるの?」
葵の問いに、高田は沈黙したままである。
しかし、何を悲しんでいようと、劉仁宏を含め、本件では、既に3件の死者である。
「高田さん、貴女が何を悲しんでいるかは分からない。でもね、貴女方の自己保身やら権力への執着のせいで、3人も死んでしまった」
そういうと、葵はいよいよ、怒りを顕わにして、続けた。
「貴女方みたいな、わけのわからないエリートがこの国を振り回していたとはね。私達は犯罪者をリーダーに頂いていたのね」
気分が悪くなった葵は
「ちょっと、失礼します」
そう言って、取調室を出て、手洗いに駆け込んだ。
「私って、なんやの?犯罪を取り締まるはずが、制度的には、犯罪者の手先になっとったんや」
そう思うと、毒母・真江子さえ、何かかわいらしいものに思えて来た。
結果として、元首相・高田初江と元警察庁長官・土田慎一は、殺人容疑者として、刑事被告人に転落したのであった。
このことは、勿論、マスコミに大々的に取り上げられ、又、国際問題にもなったのであった。
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