公安刑事・玉井康和ー日本は何に支配されているのか?

阿月礼

第1話 事件発生

1-1 遺体発見

 それは、寒い日、年が明けた1月半ば、東京の一遇のある郊外の街にて見つかった。

 華人系衆院議員・劉仁宏の死体が見つかったのである。死体となった劉仁宏は、その街のある川の土手にて見つかったのであった。

 劉仁宏の死体を発見したのは、その日の早朝にジョギングをしていた老夫婦であった。土手に放置されていた死体を発見した老夫婦は、携帯していたスマートフォンにて110番通報し、そこに警察が駆けつけて来たのである。

 近所の警察署から駆けつけて来た警察官が、周囲に非常線を張り、現場を確保していた。現場の周囲では既に人だかりができていた。

 <殺人>

 これは、勿論、犯罪であるのは言うまでもないことである。インターネット、テレビ等では、日々、目にする話題と言っても過言ではない。しかし、それは、

 <一般市民>

にとっては、それこそ、インターネット、テレビといったある種の情報媒体の中だけの話であった。自身の身近に起きるものではない、縁遠い存在であった。

 季節は既に年が明け、1月である。都内は、昨年12月に続き、寒さが一層、厳しくなっていた。そんな中で、劉仁宏は殺害され、寒風が吹きすさぶ河川敷の土手に放置されていたのである。

 「こんな寒い中に、土手に放置されてこれ見よがしにされているとは」

 事件現場を見に来ていた男性の1人が思わず口にした。ここ数日は昼でも気温はかなり低く、寒い日々が続いていた。まして、夜間だったらどうだろうか。寒い中、大変な苦痛を味わっていたのではないだろうか。

 あるいは、そうではないのかもしれない。

 死体には、心臓を撃ち抜かれた痕跡があった。銃で撃ちぬかれたのだと思われる痕跡であった。だとしたら、ほとんど、苦しみを味わうこともなく、即死だったかもしれない。しかし、銃撃された後も暫く、生きていたとしたら?劉は助けを求めることもできず、苦しみもがきながら、寒さ-或いは、氷点下になっていたかもしれない-のなか、死んでいったのであろう。

 呟いた男性は、そんなことを考えているうちに、胸苦しくなるのを感じた。

 同じく、現場を見に来ていた別の女性が言った。

 「おまわりさん、この方、銃で胸を撃たれているようですが、何かの暗殺でしょうか」

 「おっしゃる通り、銃で殺されているようですね。しかし、その背後関係は今はまだ、分かりません」

 さらに、別の男性が言った。

 「しかし、前の晩、不審な音はしなかったよな、銃声とか」

 現場確保の作業をしていた巡査が、その声に応えて言った。

 「ええ、ですので、皆さん、昨晩、何か、不審者等を見た等の情報があれば、有難いのですが」

 しかし、如何せん、深夜は皆が寝静まっている時間帯である。殆んど、目撃情報等は無くて当然のことであった。そして、人々に目撃されない夜間に犯罪を起こすというのも、犯人側からすれば、当然の如く、定石であると言えた。

 今日は、土曜日であり、一般に、所謂、

 <会社員>

の仕事は休みの日である。土日は、会社員を含め、様々な意味での労働者、つまり、多くの

 <一般市民>

にとっては、休日の日である。もし、平日に事件が起きたならば、人々は事件にショックを受けつつも、それぞれの職場に向かっているところであろう。

 つまり、休日であるが故に、人々は自身の生活の中に現れた犯罪という

 <非日常>

を目撃し、また、なかなか、離れようとしなかったのであった。

 犯罪という

 <非日常>

は、

 <日常>

を生きる人々に恐怖を与えるものの、同時にそれこそ、

 <日常>

においては、ドラマ等でしか味わえない

 <非日常>

を味わい得るめったにない機会であると言っても良かった。休日ということもあり、人々は、

 <非日常>

の現場をなかなか、離れようとしない。めったにない<非日常>を言葉は悪いものの、

 <楽しんでいる>

のかもしれなかった。

 現場にいた人垣の中の1人の子連れの若い母親・原田遥が言った。

 「さ、もう帰ろう。これから、遅くなったけど、朝ごはんにしよう」

 しかし、幼稚園児くらいの子供は同意しなかった。

 「やだ、ぼく、もう少し、この現場を見たい」

 その男児の口から

 <現場>

という、何かしら、大人びた言葉が出て来た。

 おそらくは、ヒーロー戦隊もののテレビ番組等で、ナレーターの大人びた格好良い解説を聞いて

 <現場>

という言葉を覚えたのかもしれない。

 21世紀の今日は、インターネット、スマートフォンといって便利で、しかも、半ば、無料にて番組を繰り返し再生し、楽しめる媒体が、当然の如く、ありふれた

 <日常>

になっている。そして、それが、今日の

 <社会>

の文字通りの

 <日常>

の姿に他ならなかった。

 帰宅を嫌がり、

 <現場>

に強い関心を示す息子に困惑する母の遥であった。そこに、彼女のスマートフォンに、電話が入った。夫・行雄からであった。

 「お~い、どうした。朝食にしようぜ」

 「それが幸作が、事件現場をまだ見たいって言って、ごねているのよ」

 スマートフォンの向こうの行雄は言った。

 「ははは、そうか、まあ、そういうこともあるさ。ちょっと、幸作にかわってくれるか?」

 遥は、息子の幸作に言った。

 「お父さんが、幸作にお話だってよ」

 幸作は、スマートフォンに出た。

 「おい、幸作、お母さんにあまり迷惑かけるんじゃないぞ。もうすぐ、朝ごはんなんだから、早目に戻って来いよ」

 「うん、分かった、パパ」

 改めて、遥がスマートフォンに出た。

 「じゃ、もう少ししたら、帰るから」

 そう言うと、遥はスマートフォンを切電した。

 周囲を見回してみれば、多くの人々が、自身のスマートフォン等で、現場の状況を動画や写真に撮ったりしている。勿論、非常線のテープの向こう側には入れないものの、まるで、現場にいる人々全てが捜査員のようである。

 <情報化社会>

という

 <日常>

故に、今日のこの事件現場という

 <非日常>

も、<情報化社会>の

 <日常>

へと編入されていると言って良かった。

 あるいは、多くの人々が、というよりも、殆どの人々が、スマートフォンという情報伝達の媒体を有しているが故に、各々がマスコミ顔負けの、事件を伝える

 <記者>

になっている、と言っても、過言ではないかもしれない。今日、この現場で撮られている動画や画像が、仮に何らかの形式、例えば、

 <ツイッター>

 <Facebook>

等で、公表され、拡散されることは多いに予想できたし、そうでなくても、今、この瞬間が、切り取られ、拡散されていると言っても良かった。

 やはり、人間は、何かしら、除き趣味のようなものがある動物である。「本物の」マスコミ、例えば、

 <週刊誌>

や、

 <ワイドショー>

等が、半ば、大げさな見出しをつけて報じる様々な事件がよく売れ、また、インターネット記事として話題を呼ぶのは、それゆえのことである。

 気づけば、遥も自身のスマートフォンで、数枚の現場写真を撮っていた。先程は、自身の息子である幸作に早めに帰ろうと呼び掛けていたにもかかわらずである。

 そこに、幸作が声をかけて来た。

 「ねえ、ママ、もう帰ろう」

 流石に、幸作は空腹を感じているらしい。

 思えば、遥も朝から、今日は何も食べていない。

 今朝、自宅の外から聞こえて来た周囲の騒ぐ声と、幸作の

 「ママ、外で何か起きているみたいだよ」

の声につられて、まだ寝ていた夫の行雄をおいて、この場に出て来ていたのであった。

 幸作と遥で、さっきとは立場が逆になった。

 「じゃ、帰ろっか」

 遥はそう言うと、2人は、自宅アパートに引き上げるべく、現場を後にしたのであった。


1-2 マスコミ

 現場を後にして、土手道を自宅アパートに向かう遥と幸作の2人とは逆に、現場方向にマスコミの車が向かっていた。

 「ママ、テレビ局の車?」

 「そうよ、テレビ局の車。さっきの場所に向かっているみたいよ」

 遥たちの一家が住んでいるアパートは、事件現場から徒歩で15分程のところにある。遥も時々、ジョギングをして、朝のウオーミングアップをするのだが、今朝は、幸作と一緒に、ジョギングの時間帯を殺人事件の現場を見ることに費やしたので、今朝はジョギングはできていない。

 1月の冬の空気は冷たい。だからこそ、ジョギングに励むようにしているのである。しかし、今朝

は、

 <殺人>

という犯罪、即ち、

 <非日常>

という薄ら寒いものを見たからなのか、身体、というより、

 <メンタル>

は、いつもの週末以上にひえているのかもしれない。

 幸作を連れた遥は、自宅アパート前に着いた。

 「さ、あがろう」

 遥は幸作を促して、自宅のある2階へと上がった。2階通路を歩いて、自室前に立つと、呼び鈴を鳴らした。

 「遥?」

 「そうよ」

 呼び鈴のマイクが切断する音が鳴り、続いて、玄関の扉が開いた。

 「あ、おかえり」

 行雄が2人を迎え入れた。

 「さ、幸作、入ろう」

 「うん」

 「ちょっと、遅れたけど、朝ごはんにしよう」

 遥と幸作の2人は、リビングに入り、行雄もリビングでテーブルについた。3人での朝食である。食卓には、ハムエッグ、パン、サラダである。

 朝食をとりつつ、行雄がテレビをつけてみた。

 早速、先程のニュースが入った。

 カメラを前にしているのであろうテレビ記者が、マイクを片手に事件を解説していた。

 「今朝、こちら、都内○○市の河川敷にて、外国人参政権ら、外国人の人権等を訴えていた衆院議員・劉仁宏氏の射殺体が発見され・・・・・」

 テレビ記者は、先程、遥が見た現場を後から改めて解説する形になっていた。

 「劉仁宏氏は1週間ほど前から、連絡がとれなくなっており・・・・・」

と、改めて、劉仁宏に関する情報が番組内で解説された。

 行雄は思った。

 「物騒な世の中だな。政治の世界は複雑で分かり難いものもあるけど」

 そう思いつつ、行雄は日常の毎日で思うものがあった。

 「外国人は、最早、お客人ではないって言うよな。俺は、都内の池袋にオフィスがあるけど、池袋にも例えば、中国人自身の中華料理屋のあるエリアもあるし、俺が勤めている会社でも、外国との取引は日常のことだし」

 行雄の会社も、中国、韓国、その他外国との取引は少なくない。社内には、外国人社員もいる。外国との交渉、特に電話での即応が必要な時には、彼等、彼女等は貴重な存在であった。

 行雄も外国語ができない、というのではないものの、外国人社員程には、外国語会話ができるというのでもない。

 日本のみならず、世界各国において、

 <グローバル化>

が、各々の

 <社会>

において、言われるようになって久しい。行雄の職場での外国人社員等は、そうした

 <グローバル化>

の具体的な姿の1つであった。

 そうした

 <グローバル化>

が進んでいる職場の中では、日本国籍を持っている 

 <主>

たる人物と、外国籍であることによって、

 <客>

であるはずの者の立場が、仕事上の関係では、逆転しているとも言える

 <主客転倒>

とも言える状況も発生していた。外国人社員の方が、外国等の交渉では<主>の立場に立つことも少なくないからである。

 <グローバル化>

した

 <国際社会>

での職場の生き残りのため、貴重な重要人材というべき外国人社員の彼等、彼女等の月給、ボーナス等は、行雄より多いことも少なくなかった。

 それ故に、行雄は飲み会

 -これは何かしら、<伝統日本>的な社内行事とでも言うべきではあるものの-、

多少、その場での費用を外国人社員にもってもらったこともあった。

 こうした状況であるから、既に、定住外国人の存在は

 <日常>

の姿であり、故に、

 <外国人参政権>

が既に、取りざたされる状況になって来たのであった。

 又、外国から帰化した人物が、政治に参加し、国会議員になる事例も起きていたのである。

 本日、射殺体で発見された劉仁宏もそうした人物であった。だが、

 「しかし」

と、行雄は思った。

 「2030年代の今では、外国人が隣にいるのは、当然の姿になっている。しかし、参政権までも与えてしまって良いのだろうか」

 行雄の胸中には、何かしらの

 <懸念>

のようなものがあるようである。何が

 <懸念>

なのか?

 自身の勤め先でもあるように、今や、優秀な外国人労働者が、日本人、あるいは、旧来からの日本国籍を持つ者よりも、高い給与を受ける等、好待遇になってきている。<質>の面で、日本人を凌駕している。あるいは、単純労働の現場でも、外国人労働者は多く、<量>の面でも、日本人を凌駕している。

 これ等は、2030年代の

 <日常>

の姿である。故に、<外国人参政権>を与えれば、<社会>の<日常>はいよいよ、外国人に有利なものになり。場合によっては

 「このまま、自分たちは職を追われ、地位を失い、生活はどうなるのか?」。

と漠然と思っているものがあるようであった。

 しかし、それを口に出すのはまずい。自身の通う息子の幼稚園でも、外国人の指定も珍しくない。現に幼稚園からは、保護者会、配布されるパンフレット、或いは電子メール等において、

 「民族、人種差別、あるいは外国人差別等につながりかねない発言等にはご注意ください。子供たちに悪影響を及ぼします」

という意味の注意喚起がたびたびなされている。これも、

 <グローバル化>

の具体例であると言えた。最初、

 「政治の世界は複雑かつ分かり難い」

と内心で言いつつも、同じく内心にて、色々と内心で、1人での議論をしている自身がいた。そのことに気づいた行雄は、思わず苦笑した。

 「こら、幸作、サラダもきちんと食べなさい!」

 妻の遥が声を荒げた。

 先程から、本日の劉仁宏議員殺人事件を報じているテレビ画面を見つつ、自身の思いにふけっていた行雄は、妻の荒げた声によって、現実へと引き戻された。

 「幸作、野菜さん達を差別しちゃだめだぞ」

 行雄は遥のように声を荒げたわけではない。しかし、父のこの台詞を聞くと、幸作は

 「は~い」

と一言、言って、サラダを食べた。

 「差別しちゃだめだぞ」

の言葉の裏には、自身の勤め先での毎日を踏まえつつ、思いにふけってた行雄の日々の経験が、何かしらの重み、説得力を持たせたのかもしれない。

 幸作はサラダを食べ終わると、

 「はい」

と言って、皿をテーブル上に置いた。

 行雄は父として、息子の工作に

 「よく、やったな」

という誉め言葉をかけた。というより、ねぎらいの言葉をかけた、というべきだろうか。

 幼稚園児くらいの子供にとっては、嫌いな食べ物を親から与えられて、それを完食するというのは、一種の苦行かもしれないからである。

 「うん!」

 幸作が少しく、笑顔になった。

 <苦行>

を乗り越えることができた、という子供なりの満足感と誇りからだろうか。

 遥は、夫が上手く息子を抑え込み、誘導したことに感心しつつ、自身がうまく、息子を扱うことができなかったことを思わざるを得なかった。それは、まだ、自身の未熟ぶりに対する怒りと無力感のようなものでもあったと言えよう。

 遥は食卓を片付けた。行雄は、

 「さ、休みの日だ、一緒に遊ぼう」

と言って、幸作を将棋に誘った。

 先程から、テレビはつけっぱなしになっていた。テレビ画面は相変わらず、

 <事件現場の状況>

を放映していた。

 相変わらず、大勢の人々が現場で、スマートフォン等で、写真をとったり、動画を撮ったりしているようであった。

 <情報化社会>

は2030年代の今日、全くの

 <日常>

の姿であることが相変わらず、示されていた。


1-3 捜査班到着

 警視庁捜査一課警部補・山城葵は、パトカーに乗りつつ、劉仁宏の射殺体が発見された現場へと向かっていた。

 事件現場へは、無論、急行せねばならない。赤色灯を回しつつ、葵の乗るパトカーは、サイレンをけたたましく鳴らし、80キロのスピードで、公道を走っていた。

 助手席の葵にとっては、けたたましいサイレン音は何時ものことであり、いわば、職務上とはいえ、

 <日常>

であり、換言すれば、

 <慣れっこ>

であった。そして、現場で死体を見るのも

 <慣れっこ>

であろう。

 昨年夏の藤村夫妻の時には、あまりにも凄惨な死体であったので、流石に葵も驚かざるを得なかったものの、あの事件を経て、葵も第一線の刑事として、かなり、鍛えられた感があった。

 助手席の葵は、スマートフォンを片手にしていた。スマートフォンの動画ニュースは、半ば、どのチャンネルを見ても、華人系衆院議員・劉仁宏殺害の件で持ちきりである。

 彼女が手にしているスマートフォンの動画の中で、テレビ記者が人々に色々と問うていた。

 「で、劉仁宏議員の死体を発見されたのはいつごろだったんでしたでしょうか?」

 スマートフォンの画面が動き、画面はテレビ記者に替わって、老夫婦の姿を写し出した。

 「午前8時過ぎでしょうか。私達がジョギングしている時に、主人が何かある、と土手の方を指さしたんです」

 「なにか?」

 テレビ記者の声が続いた。

 「草むらに半ば隠れるようではありましたけれども、人のような物が何か、土手の方に転がっていたんですね」

 老夫婦の男性の方が答えた。

 「最初は、不法投棄のごみのようにも思えたんです。皆さん方も、取材されて分かるでしょう。ここら辺は、大型ごみの不法投棄も多かったりしますからね」

 いつの時代もゴミの不法投棄をするものはいるものである。

 葵自身も、かつて、学校の社会科の時間に、テキスト内の所謂

 <高度成長期>

であった1960~70年代での公害問題についての収録写真の中に、どぶ川の様子や、その河川敷の状況を写した写真等を見たことがあった。

 その写真の中には、見るからに悪臭を放っているであろうどぶ川の河川敷に、ゴミ、それも不法投棄であろう粗大ごみ等の中に、むなしく一本

 <川をきれいに、街を美しく>

というスローガンを書いた標識が立っていたのだった。

 2030年代の今日も、似たような状況は繰り返されていた。劉仁宏議員の死体が発見された地区も、そうした傾向がある地区らしい。外国人が多い地区でも同じような状況にある地区があった。地区を問わず、財政難等から、ゴミ収集の公的サービスを維持が困難になりつつ状況があるのが昨今の

 <社会>

 <日常>

の姿となりつつあった。

 そうした地域は、流石にある種の不気味さが漂う。葵も刑事であり、勿論、それなりに身体を鍛えている。一般市民よりははるかに腕力があるのは間違いなかった。

 それでも、1人の女性として、こうした地区には特に夜間には立ち入りたくない、というのが、正直な思いなのである。

 まして、腕力に然程、自信がない所謂、

 <一般市民>

なら、どうか。

 各地区のごみ収集を行う現場労働者とて、多くは、-例外はあるかもしれないものの-腕力に目立って自信のあるわけでもない

 <一般市民>

たる例がほとんどであろう。そうした地区での作業は、正直したくはないであろう。

 そうした、いわば

 <外国人集住地区>

といった地区では、まずは、慣れない日本語を習得するよりも、同じく言語、習俗等が通じる同一地域、国からの出身者同士で暮らすのが都合がよい、とのことで、言語、習慣等で通じるもの同士で日本での生活をスタートさせるうちに、そのまま、日本という

 <社会>

での日本人をはじめ、他の成員との相互交流をそのまま、放棄してしまっている事例も多いと言えた。

 故に、そうした状況を政治の力で改め、

 <社会統合>

を図らねばならないのが、2030年代の日本という

 <社会>

の現実であった。

 にもかかわらず、

 <外国人参政権>

はじめ、政治は遅々として動かないのが現実であった。

 スマートフォンの画面を見るのに疲れ、暫く、車外を見ていた葵は改めて、スマートフォンの画面に目をやった。 

 相変わらず、先程の老夫婦がインタビューを受けていた。老夫婦はジャージ姿であった。劉仁宏議員の死体を発見して以来、テレビ局等、マスコミの取材を受け続ける等して、帰宅できずにいるのかもしれない。

 テレビ記者が老夫婦から聞き出していたことは、葵としても、捜査の一環として、聴取したいことであった。それを既にマスコミが代行する形となっていた。

 「マスコミさんも敏感で、迅速やね。うちら捜査一課よりも早いとは」

 そう思いつつ、葵は思った。

 「まあ、とにかく、うちらの仕事は、ホシをあげることや。今はそのことに専念せんと」

 葵がそんなことを考えているうちに、助手席に葵を載せたパトカーは、現場の河川敷に到着した。

 葵はシートベルトを外し、早速、パトカーを下車した。

 現場では、先程のテレビ記者とは別の記者が、老夫婦に何かしらの質問をしていた。

 記者の背後から、その様子をいていた葵は、記者の取材が終わるのを見計らって、老夫婦に話かけた。

 「すみません、私、警視庁捜査一課の警部補・山城葵と言います。朝から大変な物を見られて、お疲れのようですが、捜査にご協力いただけないでしょうか」

 老夫婦は、

 <警察から、ある種の取り調べを受ける>

という、それこそ、テレビドラマのような事態に直面して、改めて、困惑したかのような表情を浮かべたものの、先程、パトカーから葵が降りて来るのを見ていたせいか、一方では、

 「やはり、そう来たか」

という表情にも見えた。

 葵は、コートから、自身の警察手帳を取り出し、改めて、彼女自身が警視庁捜査一課警部補であることを、示した上で、

 「恐れ入ります、お名前をうかがいまして良いでしょうか」

 「私は江幡華子、こちらは主人の勝正です」

 葵は2人の氏名をメモに取ると、改めて、問うた。

 「お名前は、漢字で如何、書きますでしょうか」

 「苗字はサンズイに工事の工、八幡の幡、華やかの華に、子、主人は、勝利の勝に正月の正です」

 葵は、手帳に


 ・江幡 勝正


 ・江幡 華子


と書き、それを2人に見せた。

 「ええ、その通りです」

 今度は、夫の勝正からの回答だった。

 「改めて、お伺いしますが、ご夫妻が劉仁宏議員の遺体の第一発見者なのでしょうか」

 「ええ、おっしゃる通りです」

 そのように言うと、午前8時頃、夫婦でジョギング中に発見したこと、不法投棄の中に、劉仁宏の遺体を発見したこと等を答えた。これ等は、先程、スマートフォンで見ていたテレビ記者への回答とほとんど変わりなかった。

 「山城警部補、ガイ者の遺体の状況を確認されますか?」

 劉仁宏の遺体がある河川敷からの声であった。既に鑑識等も到着し、現場検証が始まっていた。

 葵は改めて、老夫婦に、

 「わざわざ、すみませんでした。今後とも、お世話になることがあるかもしれません。勝手ながら、お電話番号を頂けますでしょうか」

 そう言って、


 ・090-××××-○○○○


 ・080-△△△△-□□□□


を聞き出すと、改めて、礼を言い、名刺を2人にそれぞれ渡すと、河川敷に向かった。




 

 







 



 

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