第5話 捜査

5-1 毒母の声

 「葵、もう、こっちへ帰ってらっしゃい。うちには、あんたがしんどいのがよう分かるんや」

 「?」

 葵は、一瞬、戸惑った。郷里の京都にいる母・真江子は実母とはいえ、葵にとっては、毒母である。勿論、スマートフォンにおいては、以前、真江子からの着信については、

 <着信拒否>

にして以来、現在に至るまで、一貫して、着信拒否なのである。だのに、なぜ、遠く離れた京都にいる真江子からの声が聞こえるのか。

 「一体、何やの?うちはうちで、東京で、キャリアおを持って、自立しとんのや」

 「せやけど、葵は、しんどいんと違うんか?」

 「そうや、しんどいんや。せやけど、自分で選んだ道や、構わんといて」

 「あんたには、親心いうもんが、分からんのか!?」

 「分からんわ!あんたが、勝手な価値観の押しつけをだけやろ!」

 「うちは、娘のことを思うて、言うとんのに、いつまで、聞かん坊なんや!」

 「うるさい!とっと消えろや!バカ毒親!」

 「勝手にしいや!」

 「勝手にさせてもらうわ!」

 なぜ、真江子の声が聞こえたのだろうか。

 真江子の声が消えた後、葵は、暫く、静かな空間の中にいた。

 「う~む、あの毒母が、突然に現れたのはなぜか」

 「まあ、むかつくのはむかつくけど、いつものように、アホな干渉をしに来ただけやろうから、ま、別にいいか」

 それから又、暫く、静かな時間が流れた。

 静かな時間も良いものである。他人に邪魔されない、自分だけの時間。所謂

 <社会人>

ならば、多くは、そう思うのではないか。

 「ああ、楽な時間が流れて、極楽、極楽」

 ゆったりとした時間は、いつまでも流れていて欲しいとさえ思う。余計な騒音、雑音もないのは、良い気分と言える。毒母・真江子に対して、言いたいことを言って、スッキリしたというのもあるのかもしれない。

 京都出身の葵は、京都にいた時、宇治の

 <平等院鳳凰堂>

を見に行ったことがある。この建物は貴族様式の 

 <寝殿造>

であると同時に、現実の世界には存在しない 

 <麗しい世界>

を描いたものだとされている。

 当時の葵は、受験に追われて楽しくもない学生生活を送っていたので、彼女自身が何かしら、

 <非現実的>

な世界、つまり、

 <非日常>

にあこがれている面があった。それが当時の葵の

 <日常>

でもあった。それが今や、首都・東京にて、

 <非日常>

に自ら、飛び込むのを生業としていた。そして、悲惨な現場をたくさん、見て来た。

 故にだろうか、

 <静かな時間、空間>

は、まさに、葵にとって、

 <麗しい世界>

そのものであった。その

 <麗しい世界>

を、毒母・真江子の妨害から、自らの手で守った葵であった。

 真江子の干渉が嫌で、それを振り切り、そして、今日まで、警視庁捜査一課の刑事として、キャリアを積んで来た彼女には、一定の自身の

 <人生の自信>

というべきものが着いてきたようであった。それ故に、先程の真江子のある種のキャリアに対する

 <妨害的言動>

ともいうべき態度に対する激しい言動になったと言えよう。

 同時に、それは葵自身の人生を支える根幹というべき激しい

 <原動力>

とも言えた。

 しかし、

 <激しい原動力>

によって守ったはずの葵自身の世界は、ある種の

 <激しい力>

によって、破られた。葵は、目を見開き、思わず、ベッドから飛び起きるかのような姿勢になった。

 葵の枕元にあった目覚まし時計が鳴り、葵を眠りの世界から、

 <現実の世界>

へと誘導したのであった。今日という

 <日常>

の世界への扉を開いたのであった。

 「うちは、眠りの世界におったんやな」

 改めて、現実の世界に気づいた葵は、枕もとで鳴り続ける目覚まし時計の上部にあるボタンを叩いて、目覚ましを止めた。

 この時計は、京都を出る時、実家から持参した時計である。今では、唯一の実家の思い出の品と言って良かった。

 この時計は、中学時代、それこそ、口うるさい毒母・真江子が、

 「あんたのためや」

と勝手に購入して、かつ、葵の部屋に置いたものだった。真江子は、何事においても実母でありながら、実娘の葵と反りの合わない存在であったものの、この目覚まし時計のみは、

 <時間を守る>

という社会人の基本のためにプラス効果を有していた。

 目覚まし時計は、


 ・ 午前6時45分


を表示していた。疲れていたとはいえ、昨晩、予定していた起床時刻に一致している。

 「目覚まし時計さん、おおきに。おかげで予定通りの1日のスタートを切れました」

 葵は、目指し時計に声を出して、礼を言った。

 「あんたも、うちの生活の欠かせない仲間や」

 葵はとしては、真江子の存在が背後にあるとも言えるこの時計を不快に思い、棄てようと考えたこともあった。しかし、怒りに任せた行動をせずにいたことは、

 <吉>

と出たようである。

 ただ、

 <睡眠>

という静かな

 <麗しい世界>

に、毒母・真江子が現れたのはなぜだろうか。ひょっとすると、この時計が何かの

 <力>

によって、引き込んだのであろうか。

 葵は、

 <生活の欠かせない仲間>

に向かって、

 「起こしてくれて、改めて、おおきに。せやけど、生活の敵というべき毒母の真江子は、連れて来んとってな」

 そう言うと、葵は、寝室から、リビングに出た。テーブルの上には、結果として昨晩、主人に貢献できなかった缶ビールがそのまま鎮座していた。

 葵は、缶ビールを冷蔵庫内に片付けると、浴室に入り、シャワーを浴びた。これから、1日の始まりである。

 まだ寒い1月なのである。風邪をひかないように、注意しなけらばならない。今回の

 <劉仁宏殺人事件>

については、公安が主導権を握っているとはいえ、葵自身も捜査の一員である。風邪をひいて、捜査を狂わせる等のことはあってはならないのである。

 浴室を出た葵は、しっかり、身体を拭き、その上でコートを着込む格好で身支度をして、玄関を出た。

 そして、いつものように、1階に降り、硝子戸のエンタランスからマンション外に出たのであった。

 外は、地面の上に、特に、街路樹の根元に、所々、昨日の雪が残っていた。気温は低く、まだ、肌を刺す、というか、斬るような寒さである。空は灰色に曇っている。

 「さて、出発」

 そう、心中で言うと、葵は駅に向かって歩き出した。

駅前に着くと、昨日、コンビニ弁当やビールを買ったコンビニで、サンドウィッチ、おにぎり、そして、ホットコーヒーを購入した。本庁舎に着いたら、朝食となる予定なのである。

 なお、ホットコーヒーは、手にすると、温かみが感じられる、というよりは、

 <熱さ>

が感じられた。昨日からの寒さ故に、ホットコーヒー等のホット飲料のケースは、店側の判断で、温度をいつもよりさらに高めに設定されていたのかもしれない。

 東京は、

 <大都会>

ということもあり、職場等への移動には結構、長い時間がかかるという人々が少なくない、というより、それが文字通り、

 <日常>

の姿であろう。葵も勿論、例外ではない。

 その間に、たとえ、いつもより高温に設定されていた飲料とはいえ、外気の寒さ故に、飲料の温度が下がってしまうかもしれない。温度が下がったとしても、室内にて飲む分には問題ないかもしれない。

 しかし、それでも、店側の高温設定は、嬉しい心遣いであった。

 葵はコンビニを出、改札を通って、駅に入った。ホームには、既にいつも同様、勤め先を目指すのであろう大勢の人々がいた。葵もその一員となったのであった。


5-2 銃器の行方

 「おはようございます」

 そう一言、挨拶すると、葵は捜査一課の部屋に入った。

 「おはよう、山城君」

 警視の本山が返した。楓はまだ、来ていなかった。

 葵は、いつもの自身のデスクにつくと、やはり、いつものごとく、自身の業務用ノートパソコンを開いた。

 電子メールボックスには、当然のごとく、既に、本日の業務用のメッセージがいくつか、入って来ていた。

 葵の今回の事件についての仕事は、凶器となった


 ・米国××社製ライフル


についての所有者等の割り出しである。

 葵は、電子メールボックスの1番上にある電子メールをまずは、クリックし、内容の確認に入った。

 <現場における銃弾関係の情報>

とあるその電子メールには、現場の河川敷にて発見された銃弾の写真-これについては、昨日の合同会議にて、葵自身もパワーポイントによって、既に見ていたものである-と共に解説がつけてあった。

 「米国××社製ライフルによって殺害された劉仁宏氏は、背中から、犯人によって、狙撃されたものと思われる」

 担当監察医並びに、鑑識等によって、銃弾が背中から、心臓を貫通したことは確認済みである」

 葵は、更に、電子メールの文面を下にスクロールし、メッセージの内容の続きを選んだ。  

 「被害者の遺体にある心臓を貫通した弾痕にあった線条痕と銃弾にある線条痕が一致したことが確認された」

とあった。

 凶器が米国××社製のライフルであったことは、改めて、確認できた。

 葵は改めて、

 <被害者・劉仁宏氏の死亡推定時刻>

とある、次の電子メールを確認した。

 「被害者・劉仁宏の死亡推定時刻は、


 ・ 事件当日1月〇日の午前2時~3時頃


と推定される」

 とあった。これも、昨日の合同会議にて、確認した内容であった。

 更に、その他の電子メール等も、クリックし、確認した。特に、大きな動きのあるものは来ていない。

 葵は、ふと思った。

 「しかし、犯人の犯行動機、そして、なぜ、あんな河川敷で、それこそ、真夜中に劉仁宏氏は殺されないかんかったんや?」

 しかし、次の瞬間、その思いを心中にて、ある意味、断ち切った。

 「いかん、いかん、うちの仕事は、まずは、とにかくも凶器に関することや」

 葵は自身で、自身に与えられた本来の仕事に戻るように、指示を出した。

 

 ・米国××社製ライフル


という凶器を特定するために、葵はインターネットを開いてみた。

 インターネットを開き、検索装置に


 ・米国××社製ライフル


と入力してみると、その銃の写真と共に、解説が出て来た。

 「米国××社製ライフル


 殺傷能力が高い銃であり、米国では、軍や警察特殊部隊等に装備されている他、民間でも許可を受ければ、購入可能。強盗等の凶悪犯から、身を護るための自衛装備として、現在のところ、最も強力であるがゆえに、銃社会である米国では、凶悪犯よけの家庭用装備として、重宝される傾向にある」

 「せやから、逆に凶悪犯罪が蔓延するんやろ」

 葵は心中にて、つぶやいた。

 「とにかく、凶器となった銃の流入経路等を特定せな、あかん」

 葵はさらに、

 

 ・米国××社製ライフル


についての情報を集めるべく、インターネットの情報を確認していった。

 インターネットの情報等によると、


 ・米国××社製ライフル

は、日本の自衛隊では、装備されていないようである。又、警察の特殊部隊でも装備されれていないとのことであった。

 勿論、警察内部の人間として、葵も、

 「日本の警察特殊部隊が、米国××社製ライフルを装備した」

との話は聞いたことがなかった。

 そもそも、日本は、銃刀法その他の各法令によって、民間人が武器を所持することは、原則として、厳しく禁じられている国である。

 故に、それこそ、米国よりは安全であることが、

 <日常>

たる

 <社会>

であったのである。

 日本でも、例えば、猟を趣味とする者はおり、猟銃を持つ者はいる。又、古風な火縄銃の愛好者もいる。さらには、刀剣マニアもいる。

 しかし、日本では、基本的には、その所持を望む者が住む住所を管轄する警察署長の許可がいるはずである。今回の事件の凶器となったようなライフルは、しかし、猟にとって、必要なのか、と言えば、必ずしも、そうではなかった。これまでの猟銃でも十分な威力のはずである。

 あるいは、猟銃による殺害でも十分、可能なはずである。

 それなのになぜ、強力な殺傷力を持つとされる


 ・米国××社製ライフル


が使われたのか?

 「銃弾の飛距離等を考えてのことやろうか」

 葵はさらに、凶器について、調べを進めて行った。

 「米国××社製ライフルは、殺傷能力が高い分、発射時に強力なエネルギーを発するものであり、飛距離も長いものがある。障害物がなければ、4000メートルの飛距離を持ち得ることもある」

 葵は、劉仁宏の死体発見現場となった河川敷について、思い返してみた。

 周囲は住宅街であるものの、田畑は多く、その意味では、遮蔽物のない環境とも言えた。そうした場所ならば、4000メートルもの飛距離が出せるライフルならば、狙撃されれば、被害者は心臓のような急所を撃たれれば、確実に死亡であろう。

 凶器についての情報は、一定程度の収集はインターネット等を通して、収集できた。多分、情報を、これ以上、集めるためには、都内の銃砲店、古武具店等にも、聞き込みに行く必要があるであろう。

 そのように思った葵は、検索したインターネットの各ページを印刷すべく、インターネット画面上部にある印刷マークをクリックした。

 「おはようございます」

 そこに、新たな朝の挨拶の声が響いた。楓の声であった。

 「あ、おはよう、塚本君」

 本山が返した。

 時刻は、


 ・ 午前8時45分


であった。通常の始業の15分前である。

 「おはようございます、山城警部補」

 「おはようございます、塚本警部補」

 挨拶そのものは、月並みな

 <日常>

の光景である。

 しかし、楓は、ここ最近、葵とは別件を捜査することによって、残業が続く等、彼女は彼女で

 <非日常>

を送っていた。もっとも、犯罪そのものが<非日常>である以上、

 

 ・<非日常>=<日常>


の日々であるものの、ここ1か月ほど、数段の厳しい生活を頑張っていた楓である。

 「さて、うちも頑張らんと」

 心中にて、葵は、そう呟くと、部屋の壁の脇の一遇にある印刷機から出て来る資料を手にせんと、席から立ち上がった。

 資料は、全部で10枚強であった。それらを手にしてまとめると、葵は本山のデスクに行き、

 「これから、都内の銃砲店や古武具店に聞き込みに行きたいのですが」

と捜査関連の行動の許可を求めた。

 「うむ、充分、注意して、回ってくれ。一見関係ないと思われる物でも、何らかの形でメモに書き留める等、しておくように」

 些細な思い込み、些細な見逃しが、事件の

 <迷宮入り>

の入り口を作ることに注意せねばならない。

 葵も既に、キャリアを積んで、ベテラン刑事になりつつあるのかもしれなかった。

 しかし、それでもなお、

 「初心、忘れるべからず」

である。

 如何なる仕事も、基本を忘れてはならないであろう。

 「ありがとうございます、警視」

 葵は、本山が、許可を繰れたことに礼を言った。又、そこには、捜査の基本を忘れないように、と気遣いをしてくれたことへの感謝の意味もあったかもしれない。

 葵は、聞き込みに向かうべく、捜査一課の部屋を出た。


5-3 銃砲店、古武具店

 葵は、あらかじめインターネットで、都内の銃砲店を検索していた。それらの銃砲店の1つに入った。

 周囲は、変哲なき商店街であり、最初に入った銃砲店<K銃砲店>はその一遇にあった。

 「おじゃまします」

 葵は、一言挨拶すると、店内に入った。

 「今日は」

 店内で、兜を磨いていた初老の男性店主が挨拶を返した。傍には

当世具足と思われる青い鎧があり、店主はその兜の部分を外して、磨いていたようであった。

 この店内には、数点の甲冑があった。いずれも、骨董品のようである。この他にも、火縄銃、刀剣が展示してあった。刀剣は、ガラスの見本棚のなかに、刃の部分を晒す形で、展示してあり、その前には、その刀の名称を書いた小さな木札と鞘が置かれてある。

 火縄銃は、多くが縦に立てかけてあった。

 「色々、あるんですね」

 葵は、思わずつぶやいた。鎧や火縄銃については、葵も、京都市内の骨とう品店で見かけたことがある。この当時、学生であった葵は、

 「昔の人はこんなんを着込んで、戦ってはったんや」

とつぶやき、テレビドラマの中でしか見たことのなかった鎧兜が眼前にあるのを、しかし、特にこれといった感慨もなく、眺めていたのであった。

 しかし、今日は、自身の捜査という仕事のために、この<K銃砲店>に入ったのであった。甲冑や火縄銃に特段の感慨があるわけではないものの、しかし、


 ・米国××社製ライフル


について、聞き込みをせねばならず、又、何かが知り得るかもしれないと思えば、気を抜かず、仕事にかからねばならない。そう言った感慨はあった。

 「どうされました?何か御入用ですか?

 店主が改めて、葵に声をかけて来た。

 「あ、いえ、すみません」

 葵は、改めて、言葉を返すと、

 「お忙しいところ恐れ入ります。私、警視庁捜査一課の山城葵、と申します」

と挨拶すると、改めて、財布から名刺を店主に示した。

 名刺を受け取った店主は、

 「へえ、刑事さん。何かおありですか?」

と少々、驚きの表情で、言った。

 「お忙しいところ重ねて、恐れ入りますが、私、例の劉仁宏氏殺人事件の件で、聞き込みをしていまして、特に今、凶器となった銃器について、聞き込みをしているんです。つかぬことですが、


 ・米国××社製ライフル


について、何か、ご存じのことはないでょうか。どんな些細なことでも構いませんので」

 「どうでしょう、見ての通りで、うちは銃器を扱っていると言っても、骨董品的なものとか、或いは鎧兜ですからねぇ。言われたような最新式の銃器とかは、扱いはないですね」

 予想された回答であった。また、一件目から

 <重要情報>

が入手できることは多くはない。

 「そうですか。お忙しいところ、お仕事の邪魔をしてすみませんでした」

 「いえ、こちらこそ、お力になれませんで」

 「また、何かあれば、宜しくお願い致します。ご連絡は、名刺にある電話番号にいただければと思います」

 「ええ是非」

 「失礼いたしました」

 一言挨拶すると、葵は、<K銃砲店>を後にした。

 葵は、上司の本山の許可を得て、出ては来たものの、やはり、思った。

 「自衛隊や警察の特殊部隊でも装備していない銃やからな。古武具店とかを回っても、手掛かりは見つからんかもしれへん」

 そのように思いつつも、

 「しかし、捜査は、細かいことの積み重ねや。手を抜いとったら、最悪の場合は、<迷宮入り>や。面倒がっとたらあかん」

と、自身に言い聞かせ、同じく、あらためて、事前に検索しておいた別の古武具店へと向かった。

 しかし、そこでも、結果は同じであった。

 今日、葵は、10件ほどは、古武具店、銃砲店等をまわったであろうか。そうこうしているうちに、日が暮れて来た。インターネットで検索した古武具店、銃砲店等は、今日、まわった10件以外にも、まだ、数十件あるのである。

 「ここ1週間ほどは、古武具店巡りの毎日になりそうやな」

 葵は心中にて呟いた。

 「ここ1週間ほどは、或いは、古武具という美術品巡りの毎日になりそうやね」

 古武具店、銃砲店等には、重たげな鎧兜のある店も多かった。

 <捜査>

の名の下、葵は、


 ・米国××社製ライフル


の情報に関する捜索という重い鎧兜をかぶされているのかもしれない。

 しかし、一定の結果が出るまで、その鎧兜を脱ぐことはできないのである。

 「戦国時代とかに、あんな重い鎧兜を着込まなければならなかった人達に比べれば、あんたはまだ、身軽な方やろ。しっかりせいや、山城警部補!」

 ここでも、自身の氏名の後に、

 <警部補>

という階級をつけて、自身の名を呼ぶことによって、葵は彼女自身を叱咤激励した。

 「とはいうものの、おなかすいた。今日はもうそろそろ退勤時間や。はよ帰って、夕飯にしたい」

 人間的な本能が他方で彼女の中で頭をもたげて来た。

 葵は、本庁舎にいったん戻った上で、帰宅すべく、本庁舎への道を急いだ。




 

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